第9話 北の凍てつく街と、優雅なる観光客 ~Aランク冒険者が絶望する横で、特製かき氷を食す~
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『氷結の回廊』を攻略した俺たちは、その足で麓にある北の拠点都市『フロストグラード』を訪れていた。
ここは一年中雪が降り積もる極寒の街だ。
道行く人々は分厚い毛皮に身を包み、吐く息を白く凍らせながら、寒さに耐えるように背を丸めて歩いている。
だが、俺たちは違った。
「ふむ。この街の建築様式は独特だな。氷をレンガのように加工して断熱材にしているのか」
「ご主人様、あそこの屋台から良い匂いがしますわ。焼きトウモロコシでしょうか?」
俺は薄手のシャツの上に、軽く『フェンリルの白衣』を羽織っただけ。
アミィも、肩やデコルテが露出したドレス姿。
傍から見れば「凍死確定」の狂気の服装だが、俺が習得した新スキル『熱エントロピー操作』によって、俺たちの周囲だけは常に春のような陽気に包まれていた。
「マスター。周囲の住民からの視線感知。『何者だ』『寒くないのか』という驚愕と困惑の感情パターンが大半です」
「気にすることはないさ。俺たちはただの観光客だからな」
俺は涼しい顔で歩く。
サフィはクールに眼鏡を直し、ルビィは雪玉を作って遊び、黄金の巨体を持つゴルドは「道ヲ開ケロ!」と雪かきをしながら進む。
その異様さに、街の人々は誰もが足を止め、口を開けて見送っていた。
◇
まずは冒険者の義務として、ギルドへ顔を出すことにした。
重厚な木の扉を開けると、ムワッとした熱気と、酒と汗の匂いが押し寄せてくる。
「くそっ! やってられねぇよ!」
「あんなに斬っても斬っても再生するボスを倒して、ドロップなしかよ!」
中に入った瞬間、怒号のような愚痴が聞こえてきた。
声の主は、中央のテーブルを陣取っている強面の男たち。
装備の質からして、かなりの手練れ――おそらく、この街でトップクラスの『Aランクパーティー』だろう。
「剣ですら水みたいにすり抜けちまうんだぞ! 魔法で焼き尽くすまで何時間かかったと思ってんだ!」
「ポーション代だけで赤字だ! それで報酬がゼロとか、詐欺じゃねぇか!」
彼らはテーブルを叩いて荒れている。
俺は見覚えがあった。いや、正確には「痕跡」に見覚えがあった。
ラボの壁越しに感じた、あの『銀の牙』というパーティーだ。俺たちが去った後にボスと戦い、隠し扉を見つけられずに絶望していた連中である。
「静かにしろよ。今は換金だ」
俺は彼らを無視して、受付カウンターへと向かった。
ドサドサドサッ!!
アイテムボックスを逆さにし、今回の収穫の一部をカウンターにぶちまける。
「い、いらっしゃいま……ひぇっ!?」
受付嬢が悲鳴を上げた。
そこに積み上がったのは、ただの素材ではない。
* 水銀の魔神の核: 3個
* 氷雪竜の牙: 10本
* 古代冷凍肉: 50kg
* 謎の超硬度氷塊(ラボの廃棄物): コンテナ1杯分
「こ、これ……『氷結の回廊』のエリアボスの素材ですよね!? しかも3体分!? それに、このお肉は一体……!?」
「ああ、道中で拾ったんだ。邪魔だから換金してくれ。あと、この氷塊はただのゴミだが、冷媒くらいにはなるだろ」
ギルド内が静まり返る。
さっきまで騒いでいた『銀の牙』のメンバーたちも、目を見開いてこちらを凝視していた。
「お、おい待てよ……!」
『銀の牙』のリーダーらしき男が、椅子を蹴倒して歩み寄ってきた。
「そいつは『水銀の魔神』の核じゃねぇか! 俺たちがさっき死ぬ気で倒したボスだぞ! なんでお前らがそんなもん持ってるんだ!?」
「なんでって……倒したからだが?」
「ふざけるな! 俺たちが倒した時は、ドロドロに溶けるだけで何も残らなかったぞ! まさか、俺たちの獲物を横取りしたんじゃ……」
男が俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。
だが、その手は空中で止まった。
横に控えていたゴルドが、男の手首をガシリと掴んだからだ。
「貴様。我ガ主ニ、気安ク触レルナ」
「ぐっ……! なんだこのゴーレム、力が……!」
俺はため息をつき、男の手を優しく払いのけた。
「言いがかりはやめてくれ。俺たちは、お前らが来るずっと前……そうだな、数日前にはあそこを攻略済みだ」
「す、数日前だと……?」
「ああ。それに、ドロップしなかったのは運が悪かったな。もしくは――」
俺はニヤリと笑い、残酷な真実(の一部)を告げた。
「『見る目がなかった』んじゃないか? お宝ってのは、ふさわしい実力を持つ者の前にしか現れないものさ」
実際は、彼らが戦ったのはリスポーン(再発生)した抜け殻であり、真の財宝は壁の裏にあったのだが、それを教えてやる義理はない。
「なっ……! あの『物理無効』の化け物を、そんな簡単に……!」
「査定は任せたぞ。一番いい宿を取りたいから、急いでくれ」
俺は呆然とする男たちを放置し、ギルド職員から革袋いっぱいの金貨(白金貨混じり)を受け取ると、風のように去っていった。
背後で「嘘だろ……俺たちが命がけで挑んだ場所は、あいつらにとっての狩り場だったのか……」という絶望の呟きが聞こえた。
◇
ギルドを出た俺たちは、懐も温まったところで街のメインストリートを散策することにした。
極寒の地ならではの特産品が並ぶ市場は、活気があって面白い。
「お兄ちゃん! あれ食べたい! 氷飴!」
「あら、こちらは白銀狐の毛皮のコートですわ。ご主人様にお似合いになりそう」
アミィとルビィが、デートを楽しむようにはしゃいでいる。
俺は屋台で、この地方名物の『熱々スープ』を買った。だが、外気が寒すぎて、受け取った瞬間に冷め始めている。
「ちぇっ、すぐ冷めちゃったよお兄ちゃん」
「問題ない。貸してごらんルビィ」
俺はスープのカップに手をかざした。
『熱エントロピー操作』、発動。
俺は周囲の空気中から微量な熱エネルギーをかき集め、スープの中へ一点集中させた。
ボコォッ!
一瞬でスープが沸騰し、湯気が爆発した。
「わあ! 熱々に戻った!」
「はい、どうぞ。火傷しないようにな」
逆に、アミィが買ったアイスクリームが溶けそうになれば、指先で触れて再凝固させる。
まさに神の御業。
周囲の通行人や商人が、「な、なんだあの魔法使いは……無詠唱で温度を操っているのか!?」と驚愕の眼差しを向けてくるのが心地よい。
「ふふ、ご主人様。皆様が見ていますわよ」
「見せておけばいいさ。俺たちは、この世界の理を超えた存在なんだからな」
俺たちは街一番の高級レストランに入り、イエティ族のレシピを再現した「極低温ソルベ」と、熱々の「マンモス肉のステーキ」を堪能した。
もちろん、支払いは『銀の牙』が一生かかっても稼げない額を、チップとして置いてきた。
◇
その夜。街で最高級の宿『氷の華亭』のスイートルームにて。
暖炉の炎がパチパチと燃える中、俺はふかふかのソファに深々と身を沈めていた。
「極楽だな……」
「ええ。今日も良い一日でしたわ」
アミィが薄手のネグリジェ姿で、俺の隣に座り、ワイングラスを傾ける。
サフィは明日の旅程を確認し、ルビィはベッドの上で飛び跳ね、ゴルドは部屋の隅で直立不動で警備をしている(彼は眠らない)。
俺は窓の外を見た。
猛吹雪が吹き荒れている。あの『銀の牙』たちは、今頃安宿で傷を舐め合い、今日の不条理を嘆いていることだろう。
そして、遥か南の地では、元仲間の勇者アレクたちが、俺が捨てた剣を握りしめ、貧しい野営をしているはずだ。
「……次の目的地は、火山か」
俺は『永久凍土の核』で作ったキンキンに冷えたビールを一口飲んだ。
「この寒さともお別れだな。次は灼熱の地獄だ」
「合理的判断です。ですがマスター、このスキルのテストには最適ですが、熱対策装備の製作も必要かと」
「ああ。ドワーフのラボには、きっと最高の『耐熱金属』があるはずだ。それを使って、ゴルドを強化してやるのもいいな」
「オオ! 我ガ主ヨ! 新タナボディヲ頂ケルノデスカ!?」
ゴルドがガシャンと音を立てて反応する。
「期待してろよ。……さあ、夜はこれからだ」
俺はグラスを置き、アミィの肩を抱き寄せた。
外は凍えるような寒さだが、この部屋の中だけは、熱く、甘い時間が流れていく。
金も、名声も、力も、美女も。全てを手に入れた錬金術師の夜は、優雅に更けていった。
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