第6話 「勇者が拾った聖剣は、錬金術師の失敗作」
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中級ダンジョン『炎の洞窟』。
その最奥で、勇者アレクの咆哮が響いた。
「これでぇぇ……トドメだぁぁぁッ!!」
アレクの繰り出した一撃が、ボスであるフレイム・リザードの首を切り裂いた。
巨体が崩れ落ち、勇者パーティーに久々の勝利が訪れる。
「はぁ、はぁ……! やった、やったぞ!」
「やりましたわアレク! 私たちの連携、完璧でした!」
「おうよ! やっぱあのポンコツゴーレムがいなくなってから、調子がいいぜ!」
ボロボロの装備のまま、三人は抱き合って喜んだ。
そして、ボスの背後にあった宝箱を開けた瞬間、その歓喜は頂点に達した。
「こ、これは……!!」
中に入っていたのは、真紅の刀身を持つ美しい長剣だった。
微かに炎を纏い、周囲の空気を揺らしている。
「『鑑定』! ……間違いない、レア度A『紅蓮の魔剣』だ! 魔力を込めれば炎を噴き出す、魔法剣だぞ!」
「すごい! Aランク装備なんて、一流の証ですわ!」
「へっ! 見ろよ、クロウの奴がいなくたって、俺たちはこれだけの宝を手に入れられるんだ!」
アレクは魔剣を高々と掲げた。
その刀身の輝きは、彼らの曇ったプライドを晴らす希望の光に見えた。
◇
数時間後。冒険者ギルド。
勇者パーティーは、凱旋パレードのような足取りで扉を押し開けた。
「おい、ギルドマスターを呼べ! 超ド級のレアアイテムを持ち帰ったぞ!」
アレクの大声に、酒場の冒険者たちが注目する。
その視線を心地よく感じながら、彼はカウンターに『紅蓮の魔剣』をドォン! と叩きつけた。
「見ろ、この輝きを! 『炎の洞窟』を制覇した証だ!」
「おおっ、すげぇ! 魔法剣かよ!」
「やるじゃないか勇者パーティー!」
称賛の声。これだ、俺たちが求めていたのはこれなんだ。
アレクが鼻高々で周囲を見渡した、その時だった。
「……ん? なんだ、騒がしいな」
隣の買取カウンターから、気の抜けた声が聞こえた。
そこにいたのは、今日も今日とて国宝級の装備(フェンリルの白衣)を部屋着のように着こなした、クロウその人だった。
その背後には、優雅に扇を仰ぐアミィ、眼鏡を光らせるサフィ、キャンディを舐めるルビィ、そして――
「……前ノ持チ主カ。相変ワラズ、弱々シイ魔力反応ダ」
勇者たちが捨て、今や黄金に輝く最強の重戦士となったゴルドが、腕組みをして立っていた。
「ゲッ、クロウ……!」
「またお前かよ!」
アレクは顔をしかめたが、すぐにニヤリと笑った。
今の自分には、この『紅蓮の魔剣』がある。もう惨めな思いはしない。
「へっ、奇遇だなクロウ! 見ろよこれ! お前が抜けてから運が回ってきたぜ。Aランクの魔法剣だ!」
アレクは魔剣をクロウの目の前に突きつけた。
どうだ、悔しいだろう。お前がいなくても俺たちはやれるんだ。
だが、クロウの反応は予想外だった。
彼は魔剣を見て、目を丸くし――そして、つまらなそうに「あぁ」と息を吐いたのだ。
「なんだそれ、まだ残ってたのか」
「……は? 残ってた?」
「いや、懐かしいなと思って。それ、俺がそのダンジョンの隠しラボで作った『試作品』だよ」
ギルド内が静まり返る。
アレクの笑顔が凍りついた。
「し、試作品……? 何を言って……」
「サフィ、データあるか?」
「はい、マスター。照合完了。個体識別番号:Test-04『失敗作』。廃棄処分対象です」
サフィが冷淡に告げ、空中にホログラムデータを表示する。そこには、目の前の魔剣と全く同じ設計図と、大きな『×(バツ)』印が描かれていた。
「し、失敗作だと!? ふざけるな! こんなに魔力を帯びているのに!」
「ああ、出力だけは無駄に高いんだよ」
クロウは、まるで「出来の悪い工作」を見るような目で魔剣を見た。
「でもな、そいつは断熱処理の設計ミスで、『1分以上使うと持ち手が赤熱して火傷する』っていう致命的な欠陥があるんだ」
「は……?」
「だから、使い物にならない『ゴミ』として、そこのダンジョンのゴミ捨て場(宝箱)に捨ててきたんだよ。リサイクルする価値もなかったからな」
――持ち手が、熱くなる。
言われてみれば、アレクの手のひらが、じわじわと熱を帯び始めていた。
最初は「魔剣の力強さ」だと思っていた熱が、今や明確な「痛み」へと変わっていく。
「あちっ!?」
アレクは思わず剣を取り落とした。
カラン、と乾いた音が響く。
「あー! それー! ボクが『こんなのいらなーい!』ってポイしたやつだ!」
ルビィが無邪気に指差して笑う。
「お兄ちゃんが『もっといいの作ってあげる』って言ってくれたから捨てたの! まだあったんだー!」
「そ、そんな……」
ミリアが崩れ落ちる。
自分たちが命がけでボスを倒し、歓喜して持ち帰った宝物は、この少女が遊び半分で捨てた「燃えないゴミ」だったのだ。
「ま、まあでも……」
クロウは、床に転がった剣を拾うこともせず、憐れむように言った。
「短時間の戦闘なら使えるんじゃないか? 軍手でも二重にすれば火傷もしないだろうし。お前たちには、そのくらいの『不便な武器』がお似合いだよ」
「……っ!」
アレクは顔を真っ赤にして――それは魔剣の熱のせいではなかった――言葉を失った。
「じゃあな。俺たちは『炎の洞窟』の裏倉庫で見つけた『オリハルコンのインゴット』500キロを換金しなきゃならないんでね。忙しいんだ」
クロウが合図すると、ゴルドが軽々と持ち上げていた巨大なコンテナをドサリと置いた。
中から溢れ出る、目もくらむような希少金属の山。
その買取額を聞いて、ギルド職員が悲鳴を上げている。
アレクたちの手元に残ったのは、クロウが捨てた「持ち手が熱くなる欠陥品の剣」と、惨めな敗北感だけだった。
「行くぞ、みんな」
「はい、ご主人様♡」
「了解。次のスケジュールは高級レストランでのディナーです」
悠々と去っていくクロウたちの背中を、勇者たちはただ呆然と見送るしかなかった。
手元の剣が、ジリジリと、彼らの惨めな心を焼くように熱を放ち続けていた。
「……待てよ」
立ち去ろうとしたクロウが、ふと足を止めた。
彼は眉間にシワを寄せ、勇者アレクが持っている『紅蓮の魔剣(失敗作)』を忌々しげに見つめた。
「よく考えたら、そんな『欠陥品』が世に出回るのは、製作者(俺)の恥だ。万が一、暴発でもして『誰が作ったんだ』なんて話になったら、俺のブランドに傷がつく」
クロウはくるりと踵を返し、アレクの目の前に戻ってきた。
「おいアレク。その剣、俺が買い取るぞ」
「は、はぁ!? ふざけるな! これは俺たちが命がけで……!」
「ギルドの査定額はいくらだ? 金貨10枚か? なら、俺が倍の20枚出そう」
チャリン。
クロウは懐から金貨の袋を取り出し、アレクの目の前に放り投げた。
倍額。金欠の勇者パーティーにとっては喉から手が出るほどの大金だ。
「さあ、それを寄越せ。そんな恥ずかしい失敗作、今すぐスクラップにしてやる」
「ぐっ……、うぐぐ……!」
アレクは屈辱に震えた。
自分たちの勲章を「恥ずかしい失敗作」と言われ、あまつさえ金で頬を叩かれて回収されようとしている。
だが、手元の剣はジリジリと熱くなり、もはや持っているのも限界だった。
「……くそっ! 持っていけよ!」
アレクは魔剣をカウンターに投げ出した。プライドよりも、今の生活費と手の痛みが勝ったのだ。
クロウはそれを素手で(熱くないのだろうか?)掴むと、瞬時に錬金術で光の粒子へと分解してしまった。
「ふぅ……。これで証拠隠滅完了だ」
クロウは清々した顔をする。
だが、武器を失ったアレクは、金貨の袋を握りしめながら睨みつけてきた。
「満足か、クロウ! これで俺たちは丸腰だ! 満足したらさっさと消えろ!」
「……ああ、そうか。武器がないと困るよな」
クロウは少し考え込むと、まるでポケットからハンカチでも出すような手軽さで、一本の剣をアイテムボックスから取り出した。
それは、先ほどの派手な魔剣とは違い、透き通るような青白い刀身を持つ、洗練された片手剣だった。
「ほらよ。代わりと言っちゃなんだが、これをやるよ」
カラン、とアレクの足元に剣が転がる。
「な、なんだこれは……」
「『蒼水の剣』だ。さっきの失敗作の反省を活かして、排熱処理を完璧にした真打(完成形)だよ。まあ、お湯を沸かすついでに作った量産品だが、切れ味は保証する」
アレクはおそるおそる、その剣を拾い上げた。
――軽い。
そして、握った瞬間、全身に力がみなぎるような感覚。
先ほどの『紅蓮の魔剣』がオモチャに思えるほど、魔力効率が洗練されている。
「す、すげぇ……」
思わず声が漏れる。戦士としての本能が理解してしまった。これは国宝級の名剣だと。
だが、それは同時に「クロウに恵んでもらった」という事実を認めることになる。
「じゃあな。その剣なら熱くならないし、ゴブリンくらいなら楽に倒せるだろ。精々頑張ってくれよ、元・仲間として応援してるぜ」
クロウはニカっと笑い、ヒラヒラと手を振って去っていく。
「あらあら、ご主人様はお優しいですこと。野良犬に餌をあげるなんて」
「マスター、慈悲深いです。……ですが、あの剣の原価は捨て値ですので、経済的損失はありません」
「ねーねーお兄ちゃん! 今度はボクにも剣作ってー!」
美女たちの楽しげな声を背に、ギルドに残されたのは勇者たちだけ。
手元には、クロウに恵んでもらった金貨。
腰には、クロウに恵んでもらった最強の剣。
周囲からは「結局、あいつに頼りっぱなしじゃないか」「プライドねぇな」という嘲笑の視線。
「……くそっ、くそぉぉぉッ!!」
アレクはその最強の剣を握りしめ、咆哮することしかできなかった。
振るえば敵を断つ名剣だが、その刃は、振るうたびに彼らのちっぽけなプライドをズタズタに切り裂くことになるだろう。
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