第3話 ハンマーの妹は封印を破りたい
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【冒頭シーン:仁義なき正妻(?)戦争】
サフィ――サファイアを加え、俺たちのパーティーは3人になった。
戦力は大幅に増強された。それは間違いない。
だが、それ以上に増大したものがあった。
それは、俺への「密着度」だ。
「……マスター。心拍数がわずかに上昇しています。アミィ姉さんの腕による圧迫が原因と推測されます。離脱を推奨します」
右側を歩くサフィが、眼鏡をクイッと押し上げながら冷静に指摘する。
彼女は俺の右手を両手でしっかりと握り、脈拍を常にモニタリングしていた。
「あら、サフィったら。これは圧迫ではなく『抱擁』よ。ご主人様の精神を安定させるための、愛のスキンシップですわ」
左側のアミィが、ふふっと余裕の笑みを浮かべ、さらに強く俺の左腕を自分の豊満な谷間に押し付ける。
柔らかい。とてつもなく柔らかいが、サフィの冷ややかな視線が痛い。
「愛……定義が曖昧です。非合理的です」
「あら、貴方だってご主人様の手を独占しているじゃない? それは合理的と言えるのかしら?」
「当然です。これはバイタルチェック。および、マスターが転倒しないためのガイド機能です。姉さんのような『甘やかし』とは次元が異なります」
火花が散る。
物理的には静かだが、二人の美女の間にはバチバチとした高電圧が流れているようだ。
「……あの、二人とも? 歩きにくいんだが……」
「ごめんなさいご主人様。でも、ここを譲るわけにはいきませんの。私が『最初』に見つけていただいたのですから」
「優先順位のエラーです。製造番号は私の方が後。つまり、私こそが最新鋭であり、マスターの管理に最も適しています」
アミィは「情」で、サフィは「スペック」で、それぞれの優位性を主張してくる。
完全にサンドイッチ状態だ。
だが、不思議と悪い気はしない。
勇者パーティーにいた頃は、こんな風に誰かに求められることなんて一度もなかったのだから。
「ふふ、まあいいでしょう。今は妹に譲ってあげますわ。……でもご主人様? 夜の休憩は、たっぷりと時間を頂きますからね?」
「……ッ! 予測不能なスケジュール予約……! マスター、私のメンテナンス枠も確保してください。夜間警備モードと並行して行えます」
やれやれ。
このダンジョンを出る頃には、俺の身体(理性)が持っているだろうか。
そんな幸せな悩みを抱えながら進むと、通路の突き当たりに、異様な雰囲気を放つ巨大な扉が現れた。
【中盤シーン:開かずの宝物庫と、眠れる破壊兵器】
その扉は、勇者パーティーの間でも「悪夢の扉」と呼ばれていた場所だった。
「……ここか。アレクたちが『鍵がない』と諦めた宝物庫は」
扉には無数の傷跡がある。勇者アレクが大剣で叩き切り、魔術師が爆破しようとして失敗した痕跡だ。
だが、錬金術師である俺の目には、扉に刻まれた複雑な幾何学模様がはっきりと見えていた。
「力任せじゃ開かないさ。これは『知恵の輪』と同じだ。特定の順序で魔力を流せば……」
俺が扉に手を触れ、解析を開始しようとした時だ。
「解析開始――解錠シークエンス構築。マスター、私が代行します」
サフィが一歩前に出る。
彼女の眼鏡の奥で、無数のルーン文字が高速で流れていた。
「……アクセス承認。解錠まで3、2、1……オープン」
ズズズズ……ッ!
勇者たちが数日かけても傷一つ付かなかった重厚な扉が、サフィの電子音声と共に、あっさりと左右に開いた。
「さすがだな、サフィ」
「当然です。マスターの手を煩わせるほどのセキュリティではありません」
「あらあら、また点数稼ぎかしら? まあ、鍵開けくらいは任せてあげてもよろしくてよ」
中に入ると、そこは山のような金銀財宝が積まれた宝物庫だった。
だが、俺たちの目は、その中央にある「台座」に釘付けになった。
そこには、巨大なハンマーを抱き枕のようにして眠る、小柄な少女がいた。
燃えるような赤い髪。ショートボブから飛び出したアホ毛が、ピョコンと立っている。
見た目は10代前半の愛らしい少女だが、彼女が抱えているハンマーは明らかに異常だ。
俺の身長よりも大きく、無骨な鉄塊。ヘッド部分にはロケットエンジンのような噴射口がついている。
「……ルビィ。やっぱりここにいましたのね」
「ルビィ姉さん。……スリープモード中ですか。相変わらず無防備な」
アミィとサフィが呆れたように言う。
俺は彼女に近づいた。
彼女からは、アミィやサフィのような「繊細な魔力」ではなく、今にも爆発しそうな「高密度のエネルギー」を感じる。
「……ふあぁ……? なんか、いい匂いがするぅ……」
俺が触れる前に、彼女の鼻がひくひくと動いた。
そして、パチッ! と勢いよく目を開ける。
輝くルビーの瞳が、俺を真正面から捉えた。
「――お兄ちゃん!!」
ドガァッ!!
轟音と共に、彼女はハンマーを放り出し、砲弾のような勢いで俺の胸に飛び込んできた。
「ぐふっ!?」
「わーい! わーい! 新しいお兄ちゃんだー! いい匂い! 魔力の匂いがすっごく美味しそう!」
俺の首に腕を回し、頬ずりをしてくる。
可愛い。可愛いが、締め付ける力がゴリラのそれだ。
「ちょ、ちょっとルビィ! ご主人様が潰れてしまいますわ!」
「警告。マスターの肋骨に圧力が掛かっています。ルビィ姉さん、即時離脱を」
「えー! やだー! だってこのお兄ちゃん、ボクの『クラッシャー』を直してくれる匂いがするんだもん!」
ルビィは俺から離れると、床に転がる巨大ハンマーを軽々と――まるで発泡スチロールでも持つかのように――持ち上げた。
「見て見てお兄ちゃん! ボクの相棒、ずっと錆びちゃってて動かないの! 直して直してー!」
彼女が無邪気に突き出してきたハンマー。
見れば、駆動系が錆びつき、魔力回路が詰まっている。
俺は苦しい息を整えながら、錬金術師としての血が騒ぐのを感じた。
「……なるほど。ここを磨いて、潤滑油を差して……出力リミッターを解除すればいいんだな?」
「うん! さっすがお兄ちゃん! 話が早くて大好き!」
こうして俺は、3人目の、そして最も騒がしい「妹」を手に入れたのだった。
◇
ルビィのハンマーを修理し終えた後、俺はハッと我に返った。
「待てよ……。この部屋の財宝、それにさっきの部屋の古文書……全部置いていくのか? 勿体なさすぎるだろ!」
「ご心配なく、マスター」
サフィが眼鏡をクイッと上げる。
「第2エリアの蔵書に関しては、私の『亜空間書庫』に全て収納済みです。マスターはいつでも閲覧可能です」
「なっ、いつの間に!? あの膨大な魔道書を全部!?」
「合理的判断です。マスターが好むデータですので」
サフィが何でもないことのように言う。俺は感動で震えた。あの書物が手元にあるだけで、今の魔法技術を数百年進めることができるぞ。
「お兄ちゃんお兄ちゃん! こっちはこの指輪に入れるね!」
ルビィが宝の山から見つけ出した『大賢者の指輪』を掲げる。
彼女が念じると、山のような金貨や宝石が、ブラックホールのように指輪へと吸い込まれていった。
「……これ、国が買えるぞ」
「あら、当然ですわ。ここはお父様――『大錬金術師ゼノ』様の工房ですもの」
アミィが優雅に鉄扇で仰ぎながら、衝撃の事実を口にする。
「工房……? この魔窟がか?」
「ええ。上層の魔物たちは、ただの警備用の番犬か、勝手に住み着いたネズミですわ。お父様は、いつか現れる『後継者』のために、私たちと遺産を残してくださったのです」
アミィは熱っぽい瞳で俺を見つめる。
「そして今日、ようやく現れました。力ではなく『技術』で、欲望ではなく『愛』で私たちを目覚めさせてくれた方が」
「マスターこそが、このダンジョンの正当なる所有者です」
「ボクたちの新しいパパだね! ……あ、違うやお兄ちゃんだ!」
なるほど……。
勇者アレクたちは、必死に「番犬」と戦って小銭を拾っていただけだったのか。
そして俺は、彼らが捨てていったおかげで、このダンジョンの「全て」を手に入れたわけだ。
「……最高の『ざまぁ』だな」
俺の呟きに、3人の美女は意味ありげに微笑んだ。
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