棄冕者
第1話楽園という名の腐刑
エルフの郷の校内暴力には、血の気がまったくない。それは優雅で、正確で、窒息するような芸術性を帯びている。殺し合いのような粗野さはないが、いかなる肉体的苦痛よりも骨身に沁みる。一回ごとの加害は、エルフ族特有の傲慢さに包まれ、最も脆弱な箇所を正確に突き刺す。痕跡は残さない。ただ底なしの屈辱の中で、尊厳を少しずつ、摩り下ろしていくのだ。
私は垂星の谷の古木に吊るされていた。足下には底の知れない渓谷。林間の花香を巻いた風が吹き抜けるが、私にこびりついた狼狽と痛みを拭い去ることはできない。それは【蔦の術】で編まれた枷だった。乱暴な縛り方ではない。瑞々しい緑の枝条が意思を持つ蛇のごとく、私の手首に沿って緩やかに這い回り、その先端に宿る魔法の冷気が、音もなく手首の肉へと食い込んでいく。寸分ずつ、血の巡りが遮断される。指先の感覚は疾うに失せ、干固した血痕のような粘着質な暗紫色を呈していた。わずかに身じろぎするたび、手首に引き裂かれるような鈍痛が走り、血管を伝って全身を侵食していく。
「これが、人間の限界か?」
清冷な声が林の中から響いた。そこには無造作な嘲弄が混じっている。光と影が交錯する樹影の中に、金髪のエルフの留学生が立っていた。銀灰色の双眸は、半分も温度を持たぬ氷のごとく。彼は背筋を伸ばし、その衣の裾は塵一つなく清浄だった。細長い指先には純粋な雷球が跳ねている。雷光は透き通り、細砕された星辰のようでありながら、致命的な威力を孕んでいた。詠唱も、魔法道具も必要ない。ただ軽く一振りするだけで、その雷光は細い光の鞭と化し、鋭い破空音と共に私の肋骨を正確に打った。
皮肉が裂けることも、鮮血が飛び散ることもない。紅潮すら見当たらない――これがエルフ式暴力の優雅さだ。肉体の外殻を破壊せず、筋理を貫いて魂を直撃する。その震動が骨の隙間から伝播し、全身の筋肉が瞬時に痙攣した。四肢が制御を失って引きつけを起こし、喉の奥から引き裂かれた、乾いた哀鳴が漏れる。首を絞められた幼獣のように、微弱で絶望的な声。顔を上げて彼を睨みつけようとするが、首もまた蔦に束縛され、ただ徒に眼球を動かすことしかできない。光の中に立つ彼は淡々とした表情で、まるで取るに足りない玩具を弄んでいるかのようだった。
このような屈辱は、疾うに私の日常だった。エルフ学院で月に一度行われる実力測定。私に下される評価は、常にあの冷淡な数文字だ。星光の墨で評定の巻物に記される、刺々しく皮肉な言葉――「魔力平庸」。いかなる説明も、余地もない。凡庸な私の存在そのものが、エルフが生まれ持つ天賦への冒涜であり、この象牙の塔の優雅と清浄に対する汚物であるかのようだった。
私はこの塔における異物であり、不適合な侵入者だった。高慢なエルフのみならず、同じく「劣等生」に分類される地精たちでさえ、私の尊厳を泥靴で踏みつけることで、微々たる優越感に浸っていた。授業が終わるたび、誰もいなくなった教室で、地精がのろのろと私の机に歩み寄る。そして机に粘着質な唾を吐きかける。動作は粗野だが、その瞳には死地を脱したかのような安堵が満ちていた。私を貶めることで、自分たちが最底辺ではないと証明しているのだ。
「おい、猿」地精はどこから手に入れたかも分からぬ粗悪な魔棒を、無骨な四本の指で拭きながら、隠そうともしない嘲笑を浮かべた。「俺様はまだ元素の屁の臭いくらいは嗅げるし、高階魔法を無理やり動かすこともできる。だがお前はどうだ? 俺たちの引き立て役にもなりゃしねえ」
私は反論しない。反論はさらなる虐げを招くだけだ。天賦の才が絶対的な法であるこの地において、弱さこそが原罪だった。魔導理論と錬金術の講義において、私が満点を取っていようとも。
人間の中で魔法を覚醒させる者など、指で数えるほどしかいない。自分は選ばれし幸運児だと思っていた。だが天才たちの群れに投げ込まれた時、私の魔法の才能はあまりに平坦だった。一年間の拷問を経て、自信も陽光も失われた。私は己の出生を憎んだ。いっそ魔法など感知できない体であったなら、どれほど救われただろうか。
同級生たちは、私と同じ席に座ることを拒み、いかなる交わりも拒絶した。食堂でどこに座ろうと、周囲の席は瞬時に空き、残酷なほどに整然とした荒野が出来上がる。私の呼吸が、彼らの優雅な存在を汚すとでも言うかのように。図書室では最も暗い隅に身を潜める。指先で冷たい魔法典籍をなぞる間、耳に届くのはエルフたちの優雅な囁き声。私の周りには常に死寂があり、ページを捲る音さえ、ひどく場違いで突発的に響いた。
私はその荒野の中心に座り、頭を垂れ、自分にこびりついた「野蛮」とされる汗臭さを嗅いでいた。それは魔法を死に物狂いで練習した痕跡であり、凡庸に抗い、足掻いた証明だったが、この優雅な土地では、嘲笑の新たな理由に成り果てていた。窓から吹き込む風が、林の花香とエルフたちが纏う淡い魔法の薫香を運んでくる。それが私の汗の臭いと混じり合い、鼻を突き、皮肉なほどに鋭く、魂に刻まれた尊厳を無声の平手打ちで打ち据えた。
第2話鉄を弄ぶ男
アンダーソン教授に初めて会ったのは、学院の最も薄暗い隅だった。そこにはエルフ魔法特有の流麗な光輝はなく、優雅な蔦も花香もない。あるのは鼻を突く機油の臭い、金属摩擦の耳を裂く轟音、そして火花。薄暗い光の中で、それらは微弱だが強情な星辰のように飛び散っていた。
彼は極めて凡庸な人間だった。群衆の中に放り込めば、瞬時に没するほどに。魔力は水を足しすぎた粥のように希薄で、ほとんど感知すらできない。燦然たる魔法の光を放つエルフの導師たちの中に立つ彼は、絹織物の山に落ちた一塊の錆びた生鉄のように、粗野で、暗く、周囲の優雅さと絶望的に不適合だった。彼の手は胼胝と黒い油垢にまみれ、指の関節は腫れ上がっていた。それは長年、歯車や金属、研磨機と対峙してきた痕跡であり、一つ一つの傷痕が、凡庸さと戦い抜いた刻印だった。
彼の講義は『魔導工学』と呼ばれていた。エルフの郷では物議を醸す学問だ。彼らは純粋な天賦と生来の力を信奉している。「鉄の塊で魔法を代用する」などという学問を「弱者の足掻き」と見なして蔑んでいた。だが奇妙なことに、彼の講義は常に満席だった。私のような人間の留学生もいれば、少数の物好きなエルフもいた。彼らは教授の理念には同意せずとも、その瞳に宿る断固たる意志と、その手の中で「生命」を得る機械仕掛けの造形物を無視することはできなかった。
「魔法は天賦だが、工学は意志だ」
彼は常に俯き、声は枯れ、幾多の星霜を経た重みを湛えていた。胼胝と油垢にまみれた指で、熟練の動きで歯車を弄ぶ。その動作は生理的なほどに連動し、変化への執着を感じさせた。彼は高価な付魔金属を容赦なく切り裂く。研磨機の下で金属が上げる悲鳴を、まるで冷たい死体を解剖するかのような、微塵の動揺もない、決絶した瞳で見つめていた。
「想像してみろ、子供たちよ」
彼は顔を上げ、教壇の下を見渡す。我々、人間の留学生に視線が落ちる時、そこには僅かな、本人も気づかぬほどの慈愛が混じっていた。
「君たちの多くはエルフであり、天賦の魔力を持っている。海を渡りたければ、己の意志と実力で成し遂げられるだろう。だが、君たちの中にも、その域に達せぬ者はいる。結局、君たちは妥協した。飛空艇を作ったのだ――魔法で駆動する飛空艇を。それは本質的に、君たちが『弱さ』に妥協し、『利便』を追求した結果だ」
彼は語りながら、黒板に向き直る。チョークが素早く走り、飛空艇の構造図が鮮明に描き出された。各々の部品、接合の箇所、すべてが精密を極めていた。それは黒板に描かれた図面ではなく、彼の脳裏に刻まれ、血肉に溶け込んだ実体であった。当然だ。この代物は、彼が発明したものなのだから。
「だが、子供たちよ、ここには問題がある。分かる者はいるか?」
彼はチョークを止め、再び場内を見渡す。声には追及と、微かな期待が混じっていた。全員が静まり返り、魔力を持たぬこの男を注視していた。傲慢なエルフたちでさえ、その時ばかりは不遜な笑みを収めていた。
「そうだ、飛空艇は便利だ。私のような魔力の乏しい凡人でも操縦できる」
彼は自嘲気味に笑い、黒板の図面を指先で叩いた。
「だが、最大の問題は、それが『人』を、そして『魔法』を必要とすることだ。もし、いつの日か、この機械が魔法を持たぬ凡人でも動かせるとしたら。いや、人による操縦すら必要ないとしたら。エネルギーを充填し、起点と終点を設定すれば、あとはこの鉄の塊が自ら飛んでいく――私の目的は単純だ。『到達』すればそれでいい。これは進歩ではないか? 我々が次に解決すべき課題ではないのか?」
彼の声は一段と高まり、断固たる響きを帯びた。瞳に宿る光はエルフの魔法より眩く、飛び散る火花より熱かった。
「忘れるな、子供たちよ。君たちはエルフだ。強者であり、常に高みに立っている。君たちは常に自分たちの視点で世界を見、問題を思考する。それは天賦の才能であると同時に、呪いでもある。強者の視点からは、弱者の足掻きは見えない。才能に見捨てられた者が、いかに死力を尽くして生き抜いているかが見えないのだ」
「私は最初の講義から何を教えている?」
彼は言葉を切り、視線を私に落とした。その眼差しは、私のすべての葛藤と迷いを見透かしているようだった。
「弱者の視点で世界を見ろ。思考しろ。天生(生まれつき)の強者たるエルフにとって、それは拷問に等しい難事だろう。だが覚えておけ。人間やゴブリンが生まれる前、この世界には海を渡る船舶すら存在しなかったのだ。弱者の足掻き、不屈の意志が、一歩ずつ世界を押し進め、我々の希望を創り出してきたのだ」
その瞬間、私は彼の胼胝に覆われた手、その瞳の輝き、そして黒板の構造図を見つめ、故郷の苦難を思い出していた。魔法を持たぬ凡人、悪魔の蹄の下で喘ぐ同胞たち。彼らこそが、そうではないのか。才能も、強大な力もない。だが意志を武器に絶望と対峙し、希望を探し続けている。そしてアンダーソン教授は、この偽りの優雅さの中で、我ら人間の進むべき道を照らす一筋の光だった。
第3話鉄錆の中の回響
私は研究室の影に立ち、魔導オイルに浸った彼の手を見つめていた。喉には乾いた粗砂を詰め込まれたようで、漏れ出す声は掠れ、粘りついていた。
「教授……私に、研究室を貸してください」
私は俯き、掌を広げた。元素を強引に感応させようとして残った焦げ跡が、暗闇の火光の下で、醜悪な暗赤色の百足のごとく皮膚に這いずっていた。
「何だと?」
「研究室を貸してほしいんです、先生。次の評定で……もう二度と、木に吊るされたくない。あいつらに見せつけてやりたい。才能がなくても、私は……」
声が途切れた。アンダーソン教授が手元の手稿を止めたからだ。彼は振り向き、血走った瞳で私を射抜いた。私の魂を、その脆弱な肉体から引きずり出そうとするかのような眼差し。
死寂。炉が冷却される際の「パチッ」という音だけが響く。
「評定だと?」
彼の声は、生錆びた鉄板を引きずるような響きだった。彼はゆっくりと私の前に歩み寄り、濃厚な機油と煙草の臭いが鼻腔を刺した。彼は胼胝に覆われた、腫れ上がった硬い手を伸ばし、私の手首を乱暴に掴んで火の光の下へ引き寄せた。
彼は私の顔を見ず、ただその焦げ跡を、恐怖と屈辱で震えるその手を見つめていた。
彼は冷笑した。その笑いに温度はなく、ただ共有された屈辱の刺青のような、感応的なまでの殺意が宿っていた。「お前が汗を流し、傷つき、家畜のように泥の中を這いずり回るからだ。それが奴らの優雅さを逆なでしたのだ」
彼は不意に手を離し、傍らの棚から、半人ほどもある重厚な付魔レンチを掴み取った。彼はその生鉄の塊を実験台に叩きつけた。鼓膜を震わせる「ガランッ」という轟音が響き、周囲の部品が跳ね踊る。
「若い頃、私もお前と同じ広場で奴らに弄ばれた。あの頃、私は一粒の砂のように卑小で、たとえ魔力を感じ、魔法を操れたとしても、一生をドブの中で腐り果てる運命なのだと思っていた。ここでは、魔法が使えることなど最も価値のないことだからだ」
彼はポケットから火のついていない煙草を取り出して咥えた。その瞳は研究室の壁を貫き、同じく寒冷で圧迫された過去へと回帰していた。
「だが、後で悟った。強大な魔力は天賦だが、同時に呪いでもある。それは人を怠惰にし、弱くする。だが我らのような者には、意志がある。そしてこれだ……」
彼は煙草を耳に掛け、自分の頭を指差した。
「理屈の通じない、死文化された、絶対的な物理法則だ。鉄は鉄であり、千度になれば溶け、三千回転すればすべてを切り裂く。お前がエルフであろうと乞食であろうと、それに関係はない」
彼は再び私を見た。瞳の奥に、残り火が再燃したような紅い光が宿る。
「勝ちたいのか? いや、子供よ。『勝利』は奴らのゲームのルールだ」
彼は背を向け、錆びついた巨大な木箱から油にまみれた鍵を一本、正確に私へと放り投げた。鍵は空中に氷のような弧を描き、私の掌の焦げ跡に衝突した。鋭い痛み。だが、かつてない粘着質な帰属感に満たされた。
「研究室を使いたいなら、持っていけ。だが私の場所には、花火のような華麗な魔法なし。ここにあるのは摩耗、爆発、そしてお前の乏しい魔力を搾り取った後に残る『鋼鉄の咆哮』だけだ」
彼は再びレンチを手に取り、振り返ることなく腰を屈めた。脊椎が軋む音が鳴る。
「来学期、奴らの賞賛など求めるな。奴らが生理的な恐怖を感じるほどの力を追い求めろ。怪物を造り、あの整然とした虚偽をズタズタに引き裂け。魂を燃料として炉に投げ込む覚悟があるなら、始めろ」
私は重い鍵を握りしめた。冷たい鉄が掌の体温で温められていく。私は知った。この瞬間から、私は象牙の塔で認同を乞う留学生ではなく、暗闇の中で屠殺刀を研ぐ徒弟となったのだ。
外ではエルフの郷の花香が清々しく漂っている。だが内では、私の肺はすでに機油と硫黄に満たされていた。
この臭い、実に安心する
第4話鋼の華
時間に刻みはない。あるのはただ、胸の悪くなるような循環だけだ。 窓の外では垂星花が成片となって散り、魔力の残滓を帯びた半透明の花びらが、粘着質な白雪のように黒ずんだ窓枠に降り積もる。そして雨の朝、甘い生臭さを放つ泥となって腐っていく。それに取って代わるのは盛夏の野蛮な繁殖だ。暗緑色の蔦が生理的な侵略性をもって塔を覆い尽くし、巨大な葉が猛暑の下で脂ぎった汁を滲ませる。蝉時雨は鋭く掠れ、無数の細い鑢が大気の縁を削っているかのようだ。
この光と影が交差する日々の中で、私は研究室の一塊の生鉄と化した。
私は「自然との対話」を標榜する野外冥想の講義には二度と出席しなかった。エルフたちが軽やかな薄絹の法衣を纏い、湖畔で水元素の流動を感得している間、私は四十度の熱気と機油の煙に満ちた地下室に蹲っていた。爪の間には石墨と金属粉が完全に食い込み、どれほど擦っても鉄錆の臭いのする死皮が剥がれるだけだった。
アンダーソン教授は寡黙だった。ただ揺れる木椅子に座り、永遠に吸い終わらぬ煙草を咥え、私が重いシームレス鋼管を旋盤に何度も押し込む様を冷ややかに見守っていた。旋盤が発する絶叫が鼓膜を刺し、飛び散る鋼の屑が皮膚を焼き、蟻に噛まれたような赤い点々を残す。
私の魔力は相変わらず凡庸で、今にも霧散しそうな煙のように希薄だった。だが、それを華麗な火球や稲妻に変えようとはもう思わない。アンダーソン教授の注視の下、私は別の「呪文」を学び始めた。
その乏しい魔力を、溶接棒の先端に強引に包み込む。それは極めて苦痛な過程だった。過負荷な魔力伝導により、脆弱な経絡が無声の痙攣を起こす。滴る汗が熱せられた金属部品の上で「チッ」と音を立て、瞬時に汽化して塩辛い白霧となる。粘着質な疲労が脊椎を這い上がり、冷たい蛇のように私の意志を蝕むのを感じる。
「精度が足りん! 迅速さが足りん!」教授の声が暗闇で響く。鉄板を打つ石のような響きだ。「もう一度手本を見せる。導くのだ。それが箱であり、中に小球が整然と並んでいると考えろ。お前がすべきは、その小球を動かすことだけだ」
見れば、彼の手の中の溶接棒が瞬時に真っ赤に、あるいは破滅的な白光を放つ。
私は歯を食いしばり、魔力を再校正する。手が震える。掌の焦げ跡は繰り返される摩擦により分厚い胼胝となり、干固した血塊のように硬くなっていた。私はいつしか、絶対的な物理の尺度に執着し始めていた――一ミリの誤差は爆発であり、一グラムの配合の狂いは破滅である。
琥珀のように純粋なこの学院の中で、私はこの世界に属さぬ、汚濁した腫瘍を自らの手で造り上げていた。
かつて人類は狩猟に弓矢を選んだ。だがそれは弱者のロマンだ。弓矢は弦を番え、引き絞り、呼吸を止める必要がある。魔法使いを前にして、矢はあまりに「優しい」。風に容易く乱され、大火球によって空中で灰に帰す。その速度はあまりに遅く、エルフたちが優雅な詠唱を完遂するのに十分な時間を与えてしまう。
私には、より暴虐な秩序が必要だった。
私が「余燼」と名付けた拳銃。そこにはエルフの法杖のような流線形の美しさはない。銃身は重厚な黒鉄の鋳造であり、表面には研磨機で削られた粗野な紋路が、皮を剥がれた野獣のように刻まれている。握りには汗と機油の染み込んだ粗い皮革が巻かれ、墓碑のように重苦しい。
それは詠唱を必要とせず、元素の親和も求めない。ただ引き金を引くという意志さえあれば、あとは火薬の憤怒と鋼の制約がすべてを完遂する。
初夏の最後の雷雨が降る頃、私は最後の一発の弾丸を圧入し終えた。真鍮の薬莢が鉄の台に当たって立てる清脆な音は、いかなる聖歌よりも心地よかった。
私は鏡の中の自分を見た。長期間の地下生活により、皮膚は病的なまでに蒼白く、眼底には睡眠不足による暗赤色の毛細血管が浮き出ていた。痩せこけ、幼さの残っていた頬は扱かれ、刻薄なほどに硬質な輪郭を晒している。人間の子が抱く魔法への畏怖はすでに消え失せていた。取って代わったのは、生理的な、「破壊精度」への狂熱だった。
「行け」
アンダーソン教授が影の中で煙草の煙を吐いた。火光がその深い皺の刻まれた顔を一瞬照らす。
「奴らの実戦講義に出席してこい。神の末裔を自称する連中が、秒速五百メートルの金属衝撃を前にして、なおその優雅な笑みを保っていられるか、見てくるがいい」
私は重い帆布の鞄を背負った。中の金属部品が触れ合い、「ガチャン」と冷たく乾いた音を立てる。
研究室を出た瞬間、盛夏の陽光が両目を刺した。エルフの郷の花香は相変わらずだが、肺に積もった機油の臭いが、かつてない残酷な清醒を私に与えていた。
分かっている。木の上で吊るされて哀鳴を上げ、許しを乞うていたあの子供は、もう死んだのだ。
第5話余燼の礼賛
実戦考核の円台は古の結界に包まれていた。淡い金の魔法紋路が台の縁を緩やかに流れ、観客席の喧騒を隔絶する不可越の障壁となっている。空気は高密度の魔力飽和により粘着質で重くなり、呼吸するたびに冷たい泥漿を飲み込むかのようで、胸は無形の圧力に締め付けられ、指先の震えさえ言い知れぬ滞りを帯びていた。観客席は満員で、エルフたちは衣をなびかせ、優雅で漠然とした表情を浮かべている。ただ一人、アンダーソン教授だけが隅に立ち、瞳の奥に切迫した凝視を湛え、円台中央の私を凝視していた。
対戦相手は学年筆頭、レアンド。彼は光と影の交錯する中心に立ち、銀髪を結界の中の微風に軽やかに遊ばせていた。額にはエルフ特有の淡い青の魔法印が灯り、柔和だが凍てつくような光を放っている。彼の手にあるフェニックスの羽で作られた法杖は、頂点に澄み渡った火炎結晶を嵌め込み、絶望的な、太陽のごとき輝きを放っていた。不純物一つないその光は、居丈高な圧迫感を伴い、一振りで私を灰燼に帰すかのようだった。
「ポール君、また会ったね」レアンドの声が結界越しに届く。氷の粒が玉盤に落ちるように冷たく傲慢で、一語一語にエルフ特有の優越感がこびりつき、芸術的なまでの嫌悪を帯びていた。「怖さのあまり、あのアンダーソンの汚らしい研究室に引きこもっていたそうじゃないか。君がいない間、実に退屈だったよ。ゴブリンのアミットを覚えているかい? 先日退学したよ。君ほど『遊び甲斐』がなくてね」
その言葉は毒を塗った氷の針のように、私の心の最も脆弱な箇所を正確に貫いた。アミットの退学は知っていた。日々の虐げにより絶望の淵に追いやられた結果だ。だが私は反論せず、ただ奥歯を噛み締め、爪が食い込むほど拳を握った。知っているのだ。圧倒的な実力差の前では、あらゆる言葉は空虚であり、あらゆる忍耐はただこの瞬間のため、この忌々しい優雅を打ち砕き、骨の髄まで刻まれた傲慢を引き裂くためのものであることを。
戦闘開始の瞬間、前触れもなく私の肩が裂けた。
レアンドは詠唱すら行わず、ただ指先を跳ね上げただけだった。不可視の【風刃】が断頭台の刃となり、粘着質な空気を切り裂き、狂いのない正確さで私の肩を割った。布地が裂ける乾いた音、肉が削がれる鈍い衝撃。暗赤色の血が鏡のような大理石にぶちまけられ、熱を帯びたそれは淡い金の結界、そしてレアンドの汚れなき衣の裾との間で、凄惨な対比を描き出した。
劇痛が全身を硬直させ、喉に腥いものがせり上がる。私は暗赤色の血痰を吐き、衣を汚しながら、震える手で腰の革袋を抉じ開けた。アンダーソン教授の研究室で、不眠不休で抽出した「生命の粉末」だ。一粒一粒に私の汗と執念、そして薬草の苦味と微弱な魔法の波動が凝縮されている。
私は全身の力を込め、その粉末を叩きつけた。鼻を突く苦味と生理的な粘着質を伴う粉霧が私を包む。傷口に触れた瞬間、肉芽が狂ったように蠢き、血管と皮肉を強制的に縫合していく。それはエルフの癒やしのような柔和さはなく、自然の摂理を蹂躙する野蛮な再生だ。
「姑息な真似を!」レアンドが冷笑し、法杖を振る。「劣等種が、私の前で小細工など!」
直後、狂暴な暴風が吹き荒れ、私を包んでいた薬草の霧を無残に吹き飛ばした。だが私は歪んだ笑みを浮かめる。これこそが、私の狙いだ。
私は瀕死の獣のように円台を転がり、風刃を避けながら、腰から「煙幕弾」を叩きつけた。「バン、バン、バン」という鈍い音が響き、硫黄の臭気と煤煙が円台を覆い尽くす。高貴で鋭敏なエルフの双眸を、そして観客席の視線を遮断する。
「無意味だと言っている!」レアンドの激昂した声が響く。管理しきれない不浄な煙に、彼の優雅さはひび割れ始めていた。彼は風の制御を捨て、法杖の結晶を暴虐な暗赤色へと変える。すべてを焼き尽くす【爆裂火球】の予兆。
風が止まった。
魔力が反転するその刹那、私は最後の切り札――【閃光弾】を放った。それは魔術具ではない。マグネシウムの細片と酸化剤を詰め込んだ、醜悪な鉄の塊。それが点火され、劇烈な白光を放つ。温度は網膜を焼き切るほどに。敏鋭すぎるエルフの網膜に、その光は重槌となって突き刺さり、彼らを瞬時に盲目へと突き落とす。
「ぎああああかっ!」
レアンドの悲鳴が、結界の中に響き渡った。かつての傲慢は消え、彼は両目を押さえて無様にのたうち回る。
今だ。私は火炎の残滓を突き抜け、突進した。肉が焦げる臭いが肺を焼く。だが痛みは感じない。聞こえるのは、ピストンのように狂ったように跳ねる心臓の鼓動だけだ。
距離五メートル。
私はあの重く、錆びついた黒鉄の怪物――「余燼」を引き抜いた。 それは墓碑のように沈黙し、光を反射することすらない。老人のような胼胝に覆われた手でグリップを握りしめ、魔力を無理やり流し込んで痙攣する右腕を固定する。
詠唱などいらない。慈悲など乞わない。 私は引き金を引いた。
「――ドンッ!!」
あらゆる優雅な幻想を粉砕する、物理的な轟音。 秒速五百メートルの金属衝撃。鉛弾が火薬の憤怒に押し出され、目視不可能な焦熱の軌跡を描く。
レアンドの眉間に、正確で、焦げ付いた深い孔が開いた。 爆発も、光の演出もない。ただ、極度の冷徹な物理法則があるだけだ。 慣性に従い、彼の後頭部から脳漿と砕けた骨が混ざり合った粘着質な「紅白の花」が咲き散った。天賦の才に溢れたその肉体は、砂袋のように力なく円台に崩れ落ち、鮮血が大理石の溝を伝って不吉な図形を描いていく。
硝煙の漂う円台で、私は銃身の余熱を感じながら立ち尽くした。 肺に溜まっていたあの機油の臭いが、この一発の銃声と共に、ようやくすべて吐き出された。
私は観客席の、石像のように固まったエルフたちを見据える。彼らの「優雅」は、この卑薄な鉛の一粒の前で、塵も残さず砕け散っていた。
第6話審判の日
結局、私はこの歴史ある魔法学院を卒業することは叶わなかった。 手にすべきだった羊皮紙の卒業証書も、栄光ある賢者の称号も、私のもとへは届かない。代わりに私を待っていたのは、白々しい静寂と、冷徹な法が支配する聖白議事堂だった。
聖白議事堂の空気には、度を越して濃厚な、嘔吐を催すような百合の香が漂っていた。それは、大理石の隙間にこびりついたレアンドの、弾丸で撒き散らされた脳漿と血の生臭さを覆い隠すためのものだった。 私は漆黒の鉄椅子に深く沈み、周囲をそびえ立つ白石の柱に囲まれていた。審判席からは、エルフの長老たちが私を完全に見下ろしていた。その双眸は洗いたての空のように澄んでいるが、そこには「人間性」などという不純物は欠片も存在せず、ただ空虚だった。
陪審席では、レアンドの両親が引き裂かれるような悲鳴を上げて泣き崩れている。 「罪を認めるか、ポール」 審判長が口を開いた。その声は清冷な玉のごとく、怒りすら帯びていない。そこにあるのは、異類に対する根源的な蔑視だけだった。
「罪だと?」 私の声は、粗い砂紙を擦り合わせるように掠れ、粘ついていた。
「問いたいのだが、私に何の罪がある? この学院の主義は自由と平等ではなかったか。校内でこのような事態が起きたのは、誰もが予期せぬことだった。責めるべきは学生を守れなかった貴公らではないのか。正当に試験に参加した一介の受験生に、何の関係がある。それとも、私はただ膝を突き、奴に慈悲を乞えばよかったのか? あるいは、熾烈な炎に生きたまま焼き尽くされるのを待てと? 貴公らの言う自由や平等は、木桩に吊るされた弱者の上に築かれたものか?ゴブリンから引き剥がされた爪の上に成り立つものか? あるいは、物理法則という絶対の真理を無視した上に浮いているのか。……あの鉛弾がレアンドの眉間を貫いた瞬間の音。あれは、私の人生で最も美しい楽章だった。旋律などない。そこにあるのは『存在』と『消滅』。それこそが真実だ、長老。鉄は冷たく、火は熱い。脳漿が飛散する速度は、貴公らの冗長な詠唱では永遠に捉えきれん」
「狂える猿め」 審判長が指先を微かに動かす。粘着質な魔力の圧が、私の肩にのしかかり、無理やり膝を折らせようとする。それは湿り気を帯びた無数の毒蛇に締め付けられるような感触だった。
「そこまでだ」 重厚で野卑な、煙草の煙にまみれた声が議事堂の入り口で爆発した。 アンダーソン教授が扉を蹴破るようにして現れた。皮の作業着には暗褐色の機油がべったりと付着し、一歩進むたびに大理石の床に汚らしい黒い足跡を刻みつける。その手には、帝国の外交印が押された、黄ばんだ保釈状が握られていた。
「放せ」 教授は長老たちを見ることなく、ただ口端に火のついていない煙草をきつく噛み締めた。「こいつの学籍は疾うに抹消した。帝国側はこいつの安全な帰還を要求している。それとも……貴公らは戦争を望むのか?」
長老たちの頬が微かに引き攣った。「恐怖」という名の生理反応が、その優雅な面皮の下で波紋のように広がっていく。
私はあの白い牢獄から引きずり出された。学院の門前、教授からずっしりと重い帆布の鞄を渡された。中には「余燼」の予備部品と、手垢で汚れた数冊の手稿が入っていた。
「行け、ポール。家に帰るんだ」 アンダーソン教授は地平線の彼方を見つめていた。その瞳には夕陽の紅が、まるで沸き立つ鉄水のように映っていた。「ここにはもう魔力しか残っていない。奴らは旧時代の残骸を抱いて死を待つだけだ。だが、我らがすべきは、本物の火を灯すことだ」
三ヶ月後。帝国の辺境。
そびえ立つ巨大な煙突が、荒野にその姿を現した。それは太く、黒い骨のように、かつて神と魔法が支配した空を無残に突き刺していた。
私は工場の影に立ち、耳を澄ます。そこにあるのはもはや虚偽の詠唱ではなく、数百台のプレス機が刻む規則正しい轟音――「ドォン、ドォン、ドォン」。
その響きは粘り強く、重苦しく、大地そのものを震わせていた。




