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『よいか? 愚民ども、聞くがいい。
過去に囚われてはならない。過ぎたるは及ばざるがごとしと言うではないか。あ、意味違った。後悔先に立たずと言うではないか。死んでからの医者、人生の先輩(母)の言葉を借りるらば、損切後の暴騰、倒産による企業年金減額。もとい。今を生きよ』
訳:今さら遅いよ。どうにもなんないよ。
第1志望中学校に、花園君、橘君、バイオリン姫、私が合格した。
キッズモデルの三上さんは二次試験で落ちた。
モデルをしていたことを面接官が知っていたらしい。別に悪いことではないし、本人も胸を張って仕事してるって言ってた。だから、
「モデルとしての仕事を続けますか?」
って質問されたとき、堂々と、
「続けます」
って意思表示をしたって。
そしたら「学業との両立はできませんよね」なんて言われたらしい。
「そんなんヒドイよ。一緒の中学行きたいよー」
なんだか私の方が悔しくなっちゃって、びーびー泣いちゃった。
「ニカ、ありがと。そんな学校だったら、行っても私には楽しくないよ」
モデルはよしよしって私の頭を撫でて、反対に私をなぐさめてくれた。
「三上さん、学校、近いし。家だって近いもん。いつでも会えるよね。会おうよ。会ってね」
バイオリン姫までもらい泣き。
「もー。2人とも泣かないでよー。分かってるの。私、きっと筆記試験、合格ラインぎりぎりだったんだって。ぜんぜんできなかった。もしね、花園君みたいに文句ないくらいの結果出してたら、好きなことやっても、誰からも何も言われないと思う。だから、中学行ったら、誰にも文句言わせない結果出すから」
女の子は強い。女子力の高いモデルは、最強のスーパーガール。
「いっぱい活躍してね。友達にもいっぱい自慢するから。この子、めちゃかわいいでしょって」
びーびー泣きながら言うと、モデルは笑った。その大輪の花のような笑顔を見て思ったの。イイ女って、小学生のときからイイ女なんだなーって。
忘れちゃならないことがある。あれ!
「先生。教えてください。去年、私にチョコくれた男の子は誰なんですか?」
冬の割れるほどの寒さを湛えた星空の下、私は、塾の裏口から出てきた神センに詰め寄った。
ぱっと景色が変わる。白い革製のソファがある神センの部屋に。
「受験お疲れさま、仁科。まあ、掛けて」
促されてソファに腰を下ろした。神センはキッチンの方へ歩いて行き、ジュースをグラスに注いで戻って来た。そして、私の正面にすっと座った。
「いただきます」
美味しっ。桃味。
「面接の日は、騒ぎに巻き込んですまなかった」
心底申し訳なさそうな顔で頭を下げる神セン。
「第1志望に合格したんだから、ぜんぜんOKです」
「ほっとしたよ」
あ、神センに頭を下げさせるなんてとんでもないじゃん。
起立、
「1年間、ありがとうございました。先生のおかげで、夢のような学校に行くことができます」
礼、ぺこり
着席。
「いやいや。これからだよ。頑張って」
「はい!」
嬉しくて右腕をまっすぐ上にピンと立てた。
「これでよかったんだろうか」
はーっと神センは溜息をついた。
え?
「どうかしたんですか」
「心配だったから、面接をここから見てたんだよ」
「はい。私、なんとか乗り切りました」
さすがに難関校。面接も難しかった。




