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「くっそう、あのクソガキ。あとちょっとで無事終わるとこだったのに」
神センは更に英語で怒りの言葉を発する。中指を立てるような口汚い単語が頻繁に混さる。すっごく怒ってる。
「あーあ。花園君、終わったらDDを出迎えに行くなんて言って。最後までがんばるんつもりだったんじゃなかったのかー」
到底、すぐに面接に行かせてもらえそうにない私はソファに体を埋めながら、諦めたようにつぶやいた。
「ん? 今、仁科、なんて言った?」
「なんかまずいこと言いましたっけ」
神センの剣幕に気押されて小さくなる私。
「終わったらなんだって?」
「ああ、えーっと、花園君がDDを出迎えに行くって言ってました」
「DD? ニュースで、朝から成田で陣取ってるファンがいるってやってた。ん? 成田だ! 成田。あのクソガキ、DDが来日する日にち間違えてたんだ」
「はあ?!」
「DDが来日するのは今日なんだよっ」
「ええええ?! いやいやいや。受験ですよ。面接の日ですよ」
「もう連日の受験に飽きてたのかもしれない」
「飽きるとかそーゆー問題じゃないでしょー」
私はまさかと顔の前で手をぱたぱたと振った。
「成田へ行くとしたら、バスだ。バスの時刻表は?」
言われてスマホを起動させた。でも。
「先生、ここ、圏外です」
「そっか。じゃ、スマホの部分だけ僕の部屋にするよ」
神センが言うと、ぽっかりと窓のように空中に直径1メートルほどの円ができた。その向こうを覗くとカップ麺の空や潰れたビールの空き缶がテーブルの上に乱立し、安っぽいソファの上に靴下が転がっている光景が見えた。
「あの、まさか、これが私達の時代の先生の部屋ですか?」
「シャーラップ。ハリー」
私はスマホでバスの時刻表を探しながら言った。
「先生、この部屋とギャップありすぎです」
「掃除機能がついてない部屋なんてびっくりだよ。ほこり対策のエアーもない、キッチンもテーブルも不潔なまま。こっちじゃ、ケータリングの入れ物は空になると空気に溶けるのに」
神センは恥ずかしそうに言いわけをする。
「あ、ありました。7時と8時と、その次が9時です」
「8時! たぶんそれだ。いなくなった時間から考えると」
ぶぶぶーぶぶぶー
そのとき、私のスマホが着信を告げた。




