*
どう考えたって非現実的なことが起こっているのに、花園君に動揺している様子はなし。自分の判断で何を言うこともできず、私は黙ったまま神センと花園君を見守った。
「花園、僕は未来の人間なんだ。このことを他の人に話さないと約束できる? でないと、君を元の時代に返せない」
神センは立ったまま、不敵に腕組みをした。
花園君は神センの言葉に答えないで顎に手をやって質問してきた。
「オレ、ここに来たことありますよね?「どうしてそう思う?」
被せる様に神センが尋ね返す。
「トラックに轢かれそうになった時、痛かったんです。すごく。まじで。でも、神村先生が来たらいきなり何かが変だったんです。何もかもかもしれない。九条さんに聞いたら、長い時間寝ていたみたいな気がしたって言っただけ。でも『夜なのに明るい白い部屋を見た』ってちょっと前に思い出してくれて。それって、ここですよね?」
神センはどう答えるんだろう。肯定して「君は天才なんだ」とでも言うの?
「ああ。本当は九条さんと君は骨折していた。だからここに連れて来て治療したんだ」
「ありがとうございました」
ぺこりと花園君は神センにお辞儀した。
「当然のことをしただけだ」
どの口が言うかなー。神センったら。最初はバイオリン姫を見捨てるつもりだったくせに。
「先生と仁科はどうして塾に来たんですか? 未来から来るなら、富士山とか国会とかに行きそうなのに」
国会? 行かねーし。
「まあ、一般の生活を観たかったってとこかな。未来の人間は僕だけ。仁科は、うっかりバレたから、ときどき友人としてつき合いがあるんだ」
友人。首を傾げる。どう見ても主従関係でしょ。
「ニカ、この部屋で焼肉食った?」
「食べた」
「やっぱり」
花園君は嬉しそうに納得した。
「仁科は誰にも話さない。花園は?」
「話しません」
「橘にもだよ?」
「はい。話しても信じてもらえません」
推しはかるように、神センは花園君をじっと見た。
しばらくして何かを悟ったかのように、体の前で組んでいた腕を解いた。
「せっかくだから、ジュースでも飲もうか。花園、掛けて」
神センはキッチンの方へ歩いて行った。私の隣にぽふっと座った花園君は、じーっと私を見つめる。
「花園君、怪我したとき麻酔効いてなかったの?」
不思議に思って聞いてみた。
「よくわかんねーけど、歯医者で麻酔が効きにくいって言われたことはある」
「ふーん」
そうすると、未来の治療台のベッドに改善の余地があるってことじゃん。脳波とかも調べたうえで麻酔してるって言ってたもんね。それとも、何年もかけて進歩した技術をふっとばすほど、花園君がイリーガルな遺伝子を持ってるのかしら?




