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『よいか? 愚民ども、聞くがいい。
古来より騎士、武将は、戦いに挑むときは名乗ったのだ。名乗れ、そして武功を立てよ。己の未来の為に。それは燦然と輝く記録となって掲げられるであろう』
訳:あのさ、名前くらい書きなよ。採点できないじゃん。合格したら嬉しいでしょ? それには名前。アンダースタンド? 合格したら**塾、**名合格って広告に数字が載るわけ。塾の為にも名前書こうよ。
それは、テニスを引退して参加できた、本部校のスペシャル講習でのこと。午前中のテスト結果が張り出されたとき、ざわめきが起こった。算数の高得点者上位百名の中に、花園央治の名前がなかったのだ。その他の教科はある。が、総合順位にもなかった。花園央治、遂に陥落。
スペシャル講習の会場のあちこちで、ひそひそと「なにが起こったんだ」と囁かれた。
私にはすぐ察しがついたの。あー、名前書き忘れたんだなーって。今までの模擬試験は自分が通うサテライト校で受けていた。だから神センがホローしていたのだと推測。
本部校で何百人とテストをするとき、神センの力は及ばない。所詮、若い下っ端。
返された花園君の算数の解答用紙は満点。ちなみに順位表の1位の点数は91点。あららー。
当の本人はさほど気にしていない様子。ペロッと舌を出してこう言った。
「またやっちゃったー」
本番でやったら、どーするわけ? 書こうよ。名前くらい。どーせテスト時間の大半あまるんだからさ、最初に1文字5分くらいかけて書いたって余裕だよ。
はらり
全ての採点済みの解答用紙が返されているとき、誰かの国語の解答用紙が私の足元に落ちてきた。
うわっ。すっごい汚ない字。みみずがはってるみたい。日本語? 日本語だよね。〇ばっかだけど、これって、読むのが嫌で適当に〇にしただけじゃない?
名前は「花園央治」。これだけは、書き慣れているのか綺麗な字。
「花園君、国語落としたよー」
前の席にいた花園君に国語の解答用紙を差し出した。
「お、さんきゅ」
「名前の字、上手いね。品のある字」
だって、解答部分との差が大きいから。名前だけやたら達筆に見えちゃう。シニカルジョーク。
「え、そ?」
花園君は返された解答用紙をじーっと見つめていた。




