表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来人が天才を迎えに来たけど自分じゃなかった  作者: summer_afternoon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/64

夜6時。(たちばな)君が塾に現れた。


「橘君、ミニバス終わってから来たの?」

「おぅ。塾の自習室の方が家でやるよりはかどるしさ。夏期講習のプリント欲しいから」

「あー、はかどるって分かる。私も」

「ニカ、テニス、勝ってるって?」

「一応。最後だから気合入れてる」

「がんばれっ」

「うん。橘君は?」

「昨日、負けた。最後の試合」


橘君のまぶたは赤くて、泣いたんだなって思わせた。


「そっか。お疲れさま」

「はは。もう引継ぎしてきた」

「引き継ぎ……」


神センの話だと、引き継ぎは8月の合宿でする予定だったはず。まだ7月。


「負けたら引退って、自分の中で決めてたから。

 昨日さ、オレ、試合ぜんぜんダメだった。どんどん点が開いてきてさ。『負けるんだなー』って。試合に集中しなきゃいけねーのに『これでバスケから解放される』って思ってさ。1点でも点差をつめること考えなきゃいけねーのに」

「そんだけ今まで一生懸命だったんだよ」

「だったのかなぁ。でも試合中に他のこと考えるのはダメだよな。最後の試合だったのに」

「最後だったからかも」


気丈に見える橘君の鼻がひくひく動いて赤くなる。下唇を噛みしめて。悔しそうに歪んだ目には涙が溜まってくる。


「はー。勝って終わりたかったなー」


言いながら、橘君は目をしっかり開いて顔を天井に向けた。きっと涙が零れないように。


「『負けたら引退』って決めてたのに?」

「はは。だよなー。『次は勝とう』ってチームが思ったときにオレがいなくなるのが、いいと思ってさ。チーム、強くなるんじゃねーかって」 

「そっか。チームのこと考えたんだ」


なんだか泣き出しそうでいたたまれない。


「ジュースでも飲みに行く?」

「悪い。大丈夫。ニカ、テニスがんばれ」

「うん」


私は自習室に行ったけれど、橘君は自習室に来なかった。花園君が座っていた席が空になっていたから、花園君と一緒にどこかにいるんだと思う。


きっと橘君は泣いてる。



小学校が一緒でのミニバスをやってる男子がいたから聞いてみた。


「山田君、橘君のチームってバスケ強いの?」

「なに、ニカ、橘狙いかよ? 分かる分かる」


どーして頭の中、そっちにしか結び付けないわけ?


「ちがーう。塾でクラス一緒だから聞いてみただけ」

「そこそこ強い。キャプテンが橘で、すっげーチームがまとまってて仲良いーぞ。近いからオレら、よく練習試合した。羨ましいくらいだった」

「ふーん」

「橘が中学受験するって知ってても、チームのみんなが橘にキャプテンやってほしいって頼んでさー。で、橘ってあーゆーやつじゃん?」

「あーゆー?」

「がんばる、的な?」

「あー。だね」

「途中までって約束でキャプテンやって。橘のチームだなーって感じだった」

「へー」

「練習してたって試合してたってさー、すっげーがんばってるヤツいたら引きずり込まれるじゃん? ついてくじゃん?」

「それ分かる」


一生懸命な姿って、「しっかりやれ」って言葉よりも心を(つか)まれる。


「オレも橘、超好き。プレイしてるときめちゃくちゃカッコいい。(おとこ)。惚れる。橘だったら許す」

「なに言ってんのー」


男同士で。許すって何を?

情報収集終わり。ふーん。



橘君と花園君が自習室に戻って来たのは7時ごろだった。

橘君は、いつもはピンと背筋を伸ばして颯爽(さっそう)と歩くのに、ちょっと猫背になってうつむき加減。泣いた後の顔を隠すためかも。



私はテニス以外の時間は、なるべく塾で過ごすようになった。自習室には紙をめくる音、紙の上をシャープペンが走る音が聞こえる。その小さな音の集合がみんなでがんばっているという一体感を作り出していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ