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未来人が天才を迎えに来たけど自分じゃなかった  作者: summer_afternoon


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28/64

夏休みが始まって、多くの生徒が朝から塾の自習室に通うようになった。私も自宅で勉強していて集中できなくなるとそうしてる。


日曜日に行われるスペシャル講習のテストは月曜日に受け、自分のレベルを確認した。


「スペシャル講習、ニカ来れなかったじゃん」


塾のロビー、女子トーク。キッズモデルの三上さんがポニーテールの端をくるくる指先にまきつけながら前日の話を始めた。


「うん、テニステニス」

「花園君、有名人になっちゃって」

「イケメンだから?」


私が聞くと、バイオリン姫の九条さんが教えてくれた。


「それもある。全教科1位」

「すごっ」

「みんなが見に来ちゃって。メンタルをケアする(たちばな)君がいなかったから辛そうだったの。私らが(そば)にいてあげようって言ってたんだけど、ね」


あらあら、モデルも分かってるんだ。橘君が世話係って。


「ね。申し訳なかったよね」


花園ファンクラブの2人は目配せして首をこきっと傾け合う。ん?


「え? どうかしたの?」

「国語の授業で花園君以外、Sクラスから脱落しちゃったの」


バイオリン姫がふうっと溜息(ためいき)を吐く。


「一人になってかわいそうだったね」


まるで我が子を心配する母親のモデル。バイオリン姫も困った顔。


「一緒に写真撮ってくださいとか言われたって、帰り、不機嫌になっちゃって」


うげ。いきなり。そんな子いるのぉ? まあ、すっごいイケメンで1位だもんね。


関東圏では大手の塾。模擬テストは塾全体で行われ、教科ごと100位まで、総合100位までの順位が郵送される。なので成績上位の常連は名前を憶えられてしまう。この塾のこの学年で、花園央治(はなぞのおうじ)の名前を知らない子っていないと思う。

更にダメ押し、昨日は全教科1位。

うん。写真、撮りたくなるかも。


「花園君を守ってあげたかったなー」


言いながら、モデルはポニーテールの端をくるくるくるくる(もてあそ)ぶ。「守ってあげたい」なんて「好き」って言ってるようなもんじゃん。


「気分直しに音楽聴けば?ってイヤホンを貸したんだけど、手に握りしめたままで。眉間にシワ寄せちゃって」


バイオリン姫、お前もか。

目の前であのイケメンが困ってたら、なんとかしてあげたくなっちゃうよね。私はならないけど。


「ひょっとして2人とも花園君好きなの?」


思い切って聞いてみた。今まで、なんとかくそうかなって思ってただけだから。


「好きだよ」


とモデルがはっきり言う隣で、


「まあ」


とバイオリン姫は頬を染めてうつむいた。


「ニカだってそうでしょ?」


モデルがはきはきと尋ねてくる。いっそ清々しい。


「別に」

「よく花園君のこと見てるじゃん」


気づかれてたんだ。モデルって女子力高いから、注意力あるよね。

でもね、私が花園君を見てるのは頼まれたから。


「そっか?」


私はしらばっくれた。


「逆にニカ、あんなに綺麗で頭良くてイケメンで、男らしいのに、どーして好きにならないわけ?」

「男らしい?」


モデルの言葉に首を(かし)げる私。


「電車に乗ったらね、降りるときパスモ見つからなくなって『あれ?』って言ってたよね」


くすくすと笑いながらバイオリン姫が暴露する。


「きゃは。結構、男っぽくてうっかりなとこもいいよねー」


モデルが萌えている。


「お弁当のお(はし)、片付け忘れて筆箱に隠してたよね」


あらら、またまたバイオリン姫が暴露。


「きゃは。小さなことを気にしないとこが男らしいよねー」


モデルが萌え萌え。


「最後、写真撮りたいって人から逃げるようにしてクラス出てきたから、プリント全部置いてきちゃって。私が取りに行ってあげたんだよ」


まだあったのね、バイオリン姫。


「きゃは。『おい、(かくま)え』とか言っちゃって、私、きゅんってなっちゃった」


命令口調にときめいちゃったのね、モデル。


でも冷静になろうよ。それって「男らしい」じゃなくて「手がかかる」ってゆーんだよ。なんか変な魔法にかかってるから。


「ニカ、しばらくテニスで来れないんでしょ? 私たち2人で、がんばっとく」


モデルが人差指をピンと立てた。なにを頑張るの?


「まず、全教科がSクラスに残れる点を叩き出さないと。花園君の(そば)で他の女の子を撃退できないかも」


バイオリン姫の言う「他の女の子」にどこまでが含まれてるんだろ。あんまり考えたくないかも。


「がんばろ! ね」

「ね」


花園ファンクラブの2人は、見つめ合ってこきっと首を傾けた。結束を固めちゃってる。

任せた。私、そんなのどーでもいい。


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