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テニスの方はいい感じ。
夏を最後にしようって決めているから、一球一球を大切にできてるのかもしんない。コーチの勧めもあって、ダブルスでは田部ちゃんと組んで大会にエントリーする。私が後衛のパターンが多い。ときどき相手の癖やこっちのスタミナの都合で入れ替わることもある。
どのスポーツもそうかもしれないんだけど、何年も同じ競技をやってると、対戦相手を覚えちゃう。前回ぼろ負けした相手には、結構怯む。逆に圧勝した相手を舐めてかかって、惨敗ってことも。
お互いに「巧くなってるね」なんて思いながら試合してるんだろうなって思う。
何回も会う子とは友達。
そーゆーの、すごい楽しい。テニスって個人競技だからコミュニケーションに飢えてるのかも。
夏、今のところ出た試合では負けなし。最高学年ってこともあるかも。
「仁科、テニス巧いの?」
ロビーを通るとき、神センが聞いてきた。よくぞ聞いてくれました。
「最近、勝ってます」
両手にVサイン。
「そうか。ま、音楽系に比べれば、我慢するしかないか」
神センは教材を担ぐようにして持ちながら、不満げ。
我慢?
「なにを我慢するんですか?」
「習いごとによるスペシャル講習の不参加」
夏休みから、特別なカリキュラムの鬼講習が始まる。普段は家の近くのサテライト校に通っている難関校を狙う生徒が、ときどき本部校に集められてテストと講習を受ける。それはそれはハード。
午前中にテスト。午後までには教科ごとの順位が出る。午後、その順位によって分けられたクラスへ移動して講習。
神センに花園君のことを言われるまでは、私なんて関係ない世界だったわけ。でも、特別クラスの生徒は半強制的にこのスペシャル講習に参加することになる。
午前中のテストもハード。でもね、それによってどんどん広がる「差」に心が疲弊するらしい。上位クラスほど、解答の解説は簡素で、+アルファの内容の講習を受けられる。下位クラスほど、理解不足を補う内容に時間を割かれてしまう。
スペシャル講習を受けても差が開くってのに、受講すらしないなんてってことか。
「分かってます。でも、テニス優先です」
「分かった。スペシャル講習のテストを横流ししてやる。僕の部屋でやれ」
「不正は嫌です」
「横流しって言っただけで、毎年、いろんな事情で参加できない生徒には必ず配ってるよ」
違うよ。
「先生の部屋でやるってことが不正です」
「なぜ?」
「みんなだって1日24時間しかないのに、がんばってるじゃないですか」
神センは遠い目をした。どうやら諦めたみたい。




