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「で、今日は何を?」
ソファに腰を下ろしながら尋ねた。トイレ前で未来に連れてこられなきゃいけないほどの急用? リビングのテーブルの上には何もない。作業をさせられるわけじゃなさそう。
「志望校を決めよう」
そんな用? って、変だよね。少なくともホワイトデーのお菓子詰めよりは大切なテーマだよね。
「え? だったら塾でいいじゃないですか」
「だめだ。単刀直入に言いたい。仁科には花園と同じところを受けてもらう」
そんな横暴な。いくら私に力がついてきたとはいえ、花園君のレベルにはまだ到底及ばないよー。
「花園君の受験の付き添いのためだけに、可能性もないところをを受けろって言うんですか?」
「大丈夫だ。一生懸命勉強してるじゃないか。確実に合格に近づいてるよ」
甘い言葉になんて騙されないから。
「男子校だったらどーするんですか」
私の言葉に、神センは、はーっと溜息を吐いた。
「仁科にお兄さんくらい魅力があれば、ハニートラップができるのに。そしたら花園の方から『一緒の中学に行きたい』と思ってくれる。お兄さんは異性に人気があるだけじゃなく、成績も素晴らしかった」
すいませんねー。
「小学生でハニートラップとか、教師の言葉とは思えません」
「教師? 確かに教える側ではある。だけど塾講師だ。人間的指導ではなく、あくまでも目的は、生徒の学力向上、有名校に1人でも多くの合格者を出すことだよ。そのためには手段は選ばない。男子校はだめだ。花園に共学に行きたいと思わせろ」
めちゃくちゃ。
「男子校の何がいけないんですか?」
「僕が監視できない。彼が狙うランクの男子校は、大学附属のエリート私立か、懇切丁寧に大学受験対策をしてくれるようなスーパー進学校だ。僕が英会話スクールで網を張ってたって無駄だ」
「どーしてそうなるんですか?」
「大学附属の男子校は帰国子女だらけだ。彼らの中には、ふらりと野毛山動物園に行くくらいの感覚で海外に行く文化がある。英語が身近なのに、英会話スクールの必要はない。かたやスーパー進学校のカリキュラムはハード。英会話スクールに通う時間を捻出するのは難しい」
へえええ。異文化。
「その男子校の先生になって監視するとか」
「男子校か。生理的に気が進まない」
でしょうね。女の子にモテることが生き甲斐みたいですもんねー。
「そーですか」
「ということで、ここに仁科が受験する中学をリストした」
「ちょっと待ってください! 私の意志は?」
「仁科は特別になにかやりたいことがあるとか?」
穏やかに私に尋ねる神セン。優しさが胡散臭い。




