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リビングの神センのところに走って戻り、興奮気味に報告。
「すごいですね。トイレ。なんか、びよーんって高くなって」
神センは目を瞬かせている。
「あ、そうか。トイレも変わったんだよ。あのトイレは、便意をもよおしているかどうかを識別する。単に一人になりたいって人もいるからね。便意があったり、便座に腰掛けたい場合は、人の身長に合わせて便器が伸びて便座に変形する。形状記憶陶器だよ」
「手洗うのって青紫の光ですか?」
「そ」
「あの光ってどっから出てるんですか?」
「下から」
「でも、手の上っ側も光が当たってました」
「光の粒子を手にまとわりつかせ、粒子に付着させた殺菌作用のある物質が手を綺麗にする。ま、もうちょっと光の反射とか複雑だけど、平たく言えば」
へー。手に光の粒子がまとわりついたから、上まで光が当たってるように見えたんだー。
「あと、洗浄剤を増やすとか、薬を飲めって言われました」
「ああ。未来では、食品自体に排せつ物を無臭にする成分が入っているんだよ。作物の土に混ぜることになっている。食物連鎖の中で食肉にもその成分が入る。
仁科の尿には臭いがある。だから管理されていない食物を食べたってことで、薬を飲めって言われたわけ。で、排水管も通常より汚くなるから洗剤を増やすって。
余談だが、飲料水に混入されている薬によって、固形の排せつ物は、体内から出て空気に触れると粉末状になるんだ」
排せつ物が臭わないとか粉末って未知。
「下水処理場がいらないくらいですね」
「ないよ。各家庭や建物で、エネルギーに変換される」
「えええ! うんちで電気が点くんですか?」
「んっ、ゴホッ。仁科。一応女の子なんだから、発言に気をつけなさい」
神センは咳ばらいをした。分かり易く言っただけなのに。
「はーい。ところで、紙がありませんでした」
「ないよ。エアー洗浄だよ。だいたい、基本、体内から排出されるもの自体、臭いもないし殺菌されている状態なんだから」
「なるほどー」
お尻にふわふわ空気を感じたし、たぶんそうなんだろうと思ったけど、気分的に紙、欲しかったかも。
「よく聞きれたな。英語のリスニングはバッチリ」
「いえ、途中から日本語に変わりました」
「なんだ。一言でも日本語を聞くと日本語に変わる」
「賢いトイレなんですね」
「意識してなかった。僕にとってはこっちが当たり前だから」
「当たり前なんだ」
「僕は、仁科の時代のトイレに慣れるのに、ちょっと大変だったかな。小のとき個室じゃないのが一番。しかも、男性は個室に入りにくい」
神セン、苦労してるんだね。




