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塾には合格の報告に来た生徒たちがいっぱい。2月初旬までとは顔つきが違う。みんな晴れ晴れとして心底嬉しそう。声のトーンまで違う。
「神村先生」
声をかけると「お、仁科、いいところに来た」と空の自習室に連れて行かれた。
初めてのときのように、神センがドアを閉じた途端、自習室は異空間に変わった。けど、ちょっと違う。
白の革製のソファはこの間と一緒。なにが違うって、光を放つ電球が宙に浮いている。ただの白い床ではなく、大理石っぽい床、ソファの辺りにはキリン模様のふわふわのラグ。応接セットのテーブルの上には大量のお菓子と袋。更に、最も異なる部分といえば、キッチンや壁があること。
「あの、ここって」
「僕の部屋。仁科からすれば、未来」
「広くていーとこ住んでんですね」
「普通だけど」
左様でございますか。
「私、先生にホワイトデーのクッキーを渡してほしくて持ってきました」
嬉々として、神センに小さな手提げ袋を差し出した。ら、
「あー。はいはい。ちょっとその前に手伝って。このマカロン1個、焼き菓子3個、フルーツグミを2つでセットにして、この袋に入れてリボンを付けて欲しい」
と返ってきた。
「は?」
「僕もホワイトデーのお返しをしたいんだよ。これにより、女の子達は塾に来る楽しさが増し、学習意欲が湧く」
なんで私が。
断りたいところだけど、神センしか私に本命チョコを渡してくれた男の子を知らないわけで。手伝いを断るって選択肢はなさそう。
「たくさんチョコもらってましたもんね」
すとん
私はキリン模様のラグに腰を下ろした。
「まあね。こんなもんだよ」
あっそ。
神センはテーブルの対角線の向こう側で、ラグの上に胡坐をかいてペンを持っている。
えーっと、マカロン1個、焼き菓子3個、フルーツグミ2個ね。ぱっぱと終わらせよう。
「ホワイトデーのお返しも大変ですね」
「ああ。君のお兄さんがいた3年前は少なかったんだけどね。ごっそりファンを持っていかれて。ま、ここ数年は大したヤツはいないから、安泰だな」
くっ。聞くに堪えないっ。
いくら顔が整ってたって、こんなんオヤジじゃん。母親人気No.1って称号だけでよくない? アラフォーから見れば若くてカッコいい先生かもしんなくてもね、小学生から見れば、20代なんてジジイだから。みんな「先生」ってオブラートに騙されないで!
それにしても、兄ってどんだけモテてたんだろ。
「先生、カノジョとかいないんですか? こーゆーのやってくれる」
「仁科、黙って手を動かせ」
あ、いないんだ。だよね。未来の人間なんだもん。
私達の時代で結婚とかできなさそう。タイムパラドックスとかに影響が出そう。
??? どーなんだろ。SF詳しくないから分かんない。




