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私が神センからの任務やプリントの嵐に勤しんでいたころ、学校では水面下で様々なことが進行していたらしい。
「ニカには最初に報告しとこうと思って。私ね、カレシができたの」
春の足音が微塵も聞こえない寒空の下、田部ちゃんは高らかに宣言した。
「え?」
私の疑問は白い空気となって路傍に消える。
「バレンタインのとき、森ちゃんにチョコ渡してほしいって頼まれたじゃん?」
「うん。私、ちゃんと渡しといたよ」
「あのとき、森ちゃんに渡した子じゃなくて、一緒にいた子」
「はああああ? なになになに、その展開」
「いや、なんか、その後学校で会ったり、LINE交換したりして、告られちゃった♡」
なんで? なんで私じゃないの? 一緒にいたじゃん。呼び止められたのも森ちゃんにチョコを届けたのも私じゃん。真のレディは田部ちゃんだったけどさ。
「よかったじゃん。おめでと」
心の中では半泣き状態。だけど、親友として祝福しなきゃね。
あー、もう力出ない。「いい子」認定したんじゃなかったわけ?
あれ? 「いい子」って言ったのは森ちゃんにチョコレートをあげた子だったかも。だいたい、学校で会ったって、私には「よおっ」って挨拶したくらい。つまり、そのときはもう、一緒にいた男の子は田部ちゃんのこと好きになってたんだ。
友達のBさんにもCさんにもカレシっぽい子ができた。
私もカレシっぽい子欲しい。恋愛とかしてみたい。
森ちゃんはド本命チョコを10個以上貰ったらしく、カレシとデートの度にチョコレートを食べるんだって。それってどーなの?
なんか、青春って過酷だよね。
私に本命チョコをくれたのは誰なんだろ。
3月12日、ホワイトデーの2日前。
2人の祖母へのホワイトデーの品は、家族の分をまとめて母が手配済。森ちゃんのお母さんへのお返しは、母が先日ランチをしたときに渡したらしい。クラスの女の子や女友達へのクッキーは母と一緒に焼いた。クラスの男子へのお返しは学級委員の女の子が用意しているはず。集金があった。放送委員長へは副委員長が代表でみんなの分を渡してくれることになってる。
私は、塾に行く途中の洋菓子屋で箱入りのクッキーを買って、いそいそと自転車を走らせた。鼻歌が出てきそう。だって、生まれて初めての本命チョコのお返しだもん。
手作りにしようか迷ったんだけど、誰だか分かんないから、手作りはパス。
どこかの誰か、めっちゃさんきゅ。この1か月、私がどれだけ気分が上がったか。自分に自信が持てたんだよ。私を認めてくれてありがとー的な。
ホワイトデーのお返しをしたくても、誰か分からないから神センに渡してもらおうと思うの。それくらい頼まれてくれるよね。




