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神センに頼まれたこともあって、塾でときどき花園君を観察してみた。
花園君は、授業中によく消しゴムを落とす。で、気づかない。シャープペンも落とす。筆箱も。が、これらは床に落ちるとわりと音がするから隣の席の人が気づいて拾ってくれる。
問題を解くのが異常に速い。例えば算数の問題を解くのに15分の時間が与えられたとすると、2分くらいで終了。つまり、考える時間なんていらないってこと。花園君に必要なのは解答を書く時間だけ。
あれが天才ってものなのね。
「ねー、ニカ。クラス希望どーする?」
バイオリン姫、九条さんが聞いてきた。
塾での目下の話題は、3月からの塾のクラスをどうするか。小学5年生までは入塾順にシンプルに分けられていた。けれど、受験生になると、特別コース、Aコース、Bコースのどれかを選ぶことになる。力を入れる教科や、問題の傾向が異なるらしい。
私の場合はAコース。
「Aコース」
「ニカがそうなら、私もそうしよっかなー」
キッズモデルの三上さんもAコースにするみたい。
賢いバイオリン姫は特別コースに希望を出したらしい。
そんな話をしていたら、神センに呼ばれた。
「仁科、ちょっと」
「はい」
今日の話は受付後ろの神センのデスクの横でいいみたい。
「Aコースに希望出てたけど、特別コースにしようよ」
つっ立っている私に、神センが微笑んだ。
いやいやいや「しようよ」ってそんな気軽に言われても。実質、塾の最高レベルのクラスなわけで、入塾テストを受けて合格した100名ほどの中でも、ほんの10名くらいしか入れないクラス。
「いやー。ちょっと」
私が渋い顔をすると、神センは人を射るような目で睨んでくる。怖っ。
「するんだよ。仁科ならできる」
そっか。つまり、花園君が特別コースを選択したわけね。トップの成績だからそうなるよね。
「はあ……」
なんだか、私に決定権はなさそう。
「じゃ、今、ここで申請用紙書き直して」
神センはささっと机の上に未記入の申請用紙を置いた。
「はい。でも、親の承諾の欄はどうすればいいですか?」
「僕が電話で承諾をもらうよ」
新しい申請用紙に、私は機械的に記入していく。傍らでは神センが電話で母に報告していた。
「**塾の講師、神村です。いつもお世話になっております。
はい。提出していただいた新年度のコースについてですが、特別コースに変更したいと、今、仁科さんが言いに来まして。
はい。とてもやる気に満ち溢れています。
仁科さんなら、これからどんどん結果を出せると思います。
はい。電話という形になってしまいますが、ご承諾いただけますでしょうか」
すっごい嘘つき。私の希望じゃないじゃん。
「ありがとうございます。それでは、今後もよろしくお願い致します」
ぷっ
電話を終えると、神センは
「これあげる」
と理科のプリント5枚、算数1枚、国語3枚をくれた。
いらないし。
でも、やれってことだよね。もし特別コースに入ったら、間違いなく私がダントツで成績が悪い。塾の上位10名なんてみんな神だもん。




