表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

由香の眼差し

感想などいただけると大変励みになります。

よろしくお願いいたします。

あの日から、何度も同じ景色を見てきた。

 

 由香は歩きながら、ふと感じることがあった。 彼の目が、少しだけ冷たくなった気がする。 少しだけ、遠くにいるような気がする。

 

 しかし、そんな気持ちを口にすることはなかった。 晴人は変わらない。 そう思い込むことで、彼女はその違和感を無理に消していた。

 

 彼との日常は、どこか不安定になりつつあった。 いつも一緒にいた時間が、少しずつ縮まっていく気がしていた。

 

 昨日も、そうだった。 晴人が笑っていたけれど、目の奥には何か、冷たい光が宿っているように感じた。

 

 「あれ……?」

 

 由香はその視線を逃すように、歩き続けた。 学校が近づくにつれて、彼の顔を見たくなくなった。 それでも、もう一度振り返ってみた。 すると、晴人は微かに笑って、手を振った。

 

 彼の笑顔が、どこか不自然に見えた。

 

 その瞬間、由香は何かに気づいたような気がした。 胸が締め付けられるような、不安な気持ちが湧き上がる。

 

 晴人の目を見て、初めて感じた違和感。 それが、どこから来ているのか、わからなかった。

 

***

 

 夕方、彼女は再び気づいていた。 晴人の視線は、以前よりも少しだけ鋭くなっていた。

 

 その日の放課後、由香は一人で帰ることにした。 理由はなかった。ただ、なぜか急に、晴人と一緒に帰る気がしなかった。

 

 教室のドアを開けると、晴人は机に向かって何かをしていた。 彼は気づかなかった様子で、すぐに立ち上がり、由香に微笑みかけた。

 

 「どうした? 帰り、どうする?」

 

 その言葉が、どこか機械的に聞こえた。 由香は思わず足を止めた。

 

 「今日は、帰りたくないんだ。少し、外を歩いてくる」

 

 晴人は少し驚いた顔をした。 だが、すぐにそれを隠し、穏やかに頷いた。

 

 「そうか。じゃあ、気をつけてな」

 

 その言葉が、ますます冷たく響く。

 

 由香はそのまま、教室を出て、外に向かって歩き始めた。 その足音が、自分の心臓の鼓動と重なり、妙に大きく響く。

 

 晴人と過ごした日々が、徐々に壊れかけているような気がした。

 

***

 

 その夜、由香は自分の部屋で何度も考えた。 晴人との関係が、確実におかしくなっている。 彼が変わったのは、少し前からだ。 でも、どうしてそれを直視しなかったのか。

 

 その答えは、分からない。

 

 しかし、心の中で答えがひとつ浮かぶ。

 

 彼が変わったのではない。 自分が変わったのだ。

 

 もしも、晴人が本当に変わっていたなら、 今こうして、由香の目の前にいるわけがない。 彼はあの日から、ずっと変わり続けていた。

 

 そして、彼が見せる冷徹な目の奥に、由香はただの“反応を待っているだけの自分”を見ていた。 彼の冷たい目を通して、彼女は無意識のうちに、何かを期待している自分を見ていた。

 

 彼の目に映る自分を見て、由香はようやく、確信を持った。

 

 「これは、私が求めていたものではない」

 

***

 

 その瞬間、由香は自分が置かれた状況に、ようやく気づいた。

 

 繰り返す日々が、少しずつ重なり合っていることに、ようやく気づいた。 晴人の目が、あまりにも冷たいことに気づくたびに、彼の微細な変化を繰り返し見てきた自分に、何度も何度も振り返ってきた感覚があった。

 

 彼の存在が、もはや時間を超えて繰り返されるものだという感覚が、じわじわと彼女の胸を締めつけていた。 “あの日”と同じように、全てが続いているように感じた。 それは、まるで…どこかで全てが止まってしまったような気がしたからだ。 何度も助けようとしてきた自分自身が、彼に支配されていたからだ。

 

 その感情に、どこか甘えていたことにようやく気づいた。 “これが、繰り返しの先にあるものだ”と、彼女の心の中に再び問いかけが湧き上がる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ