愛か執着か
感想などいただけると、とても励みになります。
よろしくお願いいたします。
何度目の朝だったか、もう正確には思い出せなかった。 目を覚ませば、同じ天井。同じ制服。同じ冬の光。
1997年12月15日。 あの事故の三日前。由香が笑っている日。
何かを変えようとしてきた。 救おうとして、細部まで行動を記録した。 彼女の予定、足取り、体調、ちょっとした気まぐれ――すべて。
それでも、必ず彼女は死ぬ。
運命が、まるで意図を持って由香を奪いにくるようだった。
由香自身は、何も知らない。 いつも通りの笑顔で、いつも通りの声で、彼に話しかけてくる。
「ねぇ晴人、なんか最近ずっと一緒にいるね。嬉しいけど、どうしたの?」
教室の窓際で、由香が笑った。 その無邪気な声に、返す言葉が見つからなかった。
(全部話したら、どうなるんだろう)
ふと、そう思ったことがある。 何度も死んでいること、何度も助けようとしたこと、 何度も過去に戻ってきたこと。
けれど、それを話してどうなる? 彼女は信じるだろうか。 信じたとして、それで何かが変わるだろうか。
何も変わらなかった。
そしてまた、彼女は死んだ。
次は、下校途中の工事現場だった。 足元を滑らせ、鉄骨に頭を打った。 晴人が駆けつけたとき、彼女は血の中で微笑んでいた。
「ごめん……なんか、また……ドジした……」
それが最後の言葉だった。
彼女の手は冷たく、唇はもう言葉を作れなかった。
気がつけば、またあの日に戻っていた。 繰り返される同じ朝、同じ風景、同じ笑顔。
ただ違うのは――晴人の表情だけだった。
最初の頃の彼は、由香を見て泣いていた。 再会できたことに、感情が追いつかなかった。 けれど今は、彼女が笑うたび、何かが軋むように感じる。
(何度繰り返しても、やっぱりお前は死ぬ)
その思いが喉の奥で苦く溜まっていく。 怒りではない。悲しみでもない。 ただ、焦燥に近い何か。
「お前を、どうすれば助けられるんだ」
放課後の誰もいない教室で、誰にも聞こえない声で呟いた。
次はどうするべきか。 何を変えれば、何を諦めれば、何を信じれば。
考えても、考えても、答えは出なかった。
彼女がまた死ぬ前に、次の方法を試さなくてはならない。 それだけが、今の彼の唯一の指針だった。
彼女の死を、次はどうすれば止められるか。
そればかりを考えている自分が、少しだけ怖かった。