2度目の死と、その味
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最初に過去へ戻ったのは、由香が死んでから三年後のことだった。 大学を出て、就職したばかり。春の夜の雨の日だった。
仕事帰り、ぼんやりと駅の階段を降りていた。 ふと、視界が揺れた。足を踏み外し、背中から落ちた。
そのとき、鮮明に浮かんだのは――彼女の顔だった。 高校の制服、雪の中で見せた驚いた表情。手を伸ばしても間に合わなかったあの時のこと。
目を覚ますと、そこは教室だった。 1997年12月15日。事故の三日前。
初めは夢だと思った。都合のいい幻想だと。 でも何もかもが本物だった。机の傷、鉛筆の匂い、朝のホームルームの喧騒。 そして――何より、彼女がいた。
長谷川由香は、笑っていた。 何も知らない顔で、晴人の隣の席に座っていた。
そのときの衝撃は、言葉にできなかった。
けれど、彼は動いた。考える前に、動いていた。 事故の日を迎えさせないように、由香の予定を聞き、つきっきりで行動した。
事故現場になる坂道には近づかせなかった。下校の道も変えた。 少しでも不安を感じれば、その日の行動自体を中止させた。
だが――
彼女は死んだ。
その日は、たまたま彼と別行動になった日だった。 由香はバスに乗った。晴人は、予定通り彼女が家に帰ったと信じていた。
その夜、ニュースが流れた。バス事故。 雪でスリップした車両が谷に転落。乗客数名が死亡。
由香の名前があった。
放心したままテレビを見ていた。耳鳴りのような音の中で、涙も出なかった。 手は震え、膝から力が抜け、呼吸の仕方さえ忘れそうだった。
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次の瞬間――彼はまた、目を覚ました。 教室の中。1997年12月15日。あの日の朝。
最初のときよりも、静かだった。 時間が戻っているという現実を、ただ受け入れるしかなかった。
由香が教室のドアを開け、同じように「おーい、晴人ー」と声をかける。
まるで、最初からすべてが仕組まれていたかのように。
彼は無言で立ち上がり、窓の外を見た。 雪が降る予報は、変わらず。時計の針は、また同じ時間を刻んでいた。
もう一度、救えるかもしれない。 今度こそ、間に合うかもしれない。
それだけを信じて、彼はまた動き始めた。