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なろうラジオ大賞

幸せな寝言なら

作者: 真鶴 黎

 グーンと大きく身体を伸ばして、時計を見る。針はおやつ時を指している。


「もうこんな時間……」


 小腹が減ったと思い、小休憩も兼ねて珈琲を飲もうと決める。

 立ち上がったついでに、小さな毛玉を探す。探す手間もなく、彼はふかふかのクッションの上でぽんぽこお腹を見せびらかすように仰向けで寝ている。

 そっと彼に近寄り、顔を覗き込む。

 おでこの三日月がチャームポイントの愛猫、ミカ。名前の由来は三日月の夜に出会ったこととおでこの三日月模様から。


 出会った当時のミカは生死の境を彷徨っていた。


 誰も通りかからなかったら。

 ミカが最後の力を振り絞って鳴いていなかったら。

 弱々しい声を私が聞いていなかったら。

 気のせいだと流していたら。


 あのときの色々な悪い“もしも”を想像するとミカは誰にも見つかることなく、ひっそりと死んでしまっていただろう。


 いくつもの悪い“もしも”を跳ねのけたミカは当時のことを覚えていないかのように無防備に眠っている。

 ガリガリで、ぺたんこだったお腹はぽんぽこで、体温を逃がさないようにと丸まることなくのびのびと寝ている姿に大きくなったと思う。

 猫は寝る子が語源だと聞いたことがある。確かに、ミカはよく寝るし、おまけによく食べるし、よく動く。元気なやんちゃ坊主だと病院の先生に言われるぐらい、元気いっぱいで私としても嬉しい。


 いくら元気いっぱいとは言え、お腹を見せて寝るのはどうなのだろうと思いながら、私はブランケットをミカに掛ける。


「風邪ひくよ」


 私はミカの頭を撫でる。おでこの三日月模様を親指でなぞると、ミカが頭をこすりつけてくる。


「ぷぅ……ぷぅ……」


 喉も慣らしているミカに思わず笑ってしまう。

 猫も寝言を言う。ミカと暮らし始めて知ったことだ。基本的に在宅で仕事をしているからよく聞く。うにゃうにゃ言っているときもある。ご飯をねだるときの声とよく似ているから、夢の中でもご飯をねだっていそう。


「幸せな夢ならいいけどね」


 寝言や寝姿、寝起きの様子からして悪夢を見ていることはなさそうだ。

 何かに怯えることも、苦しい思いもしてほしくない。それが私の願いだ。

 私は軽くミカの頭を撫でて立ち上がり、キッチンへ向かう。そして、猫と三日月が描かれたマグカップに珈琲をいれて、お菓子を手に取る。

 カサ、と小さな音が鳴る。


「……ニャ」


 ぱっちりと目が合う。


「あ」


「ニャア!」


「もう!」


 今日も今日とて、ミカとのおやつの攻防が始まるのだった。

ミカの視点→「おでこの三日月」https://ncode.syosetu.com/n0169io/

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