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第三話 パム・プロジェクト

* 異世界ものですが、魔法もの/転生ものではありません。

* 異世界なので別言語を使用しているはずですが、マジメに設定しては説明も読むのも大変なことになるし、全部現地球上の言葉にするのもつまらないと思い、ごく一部だけ架空言語ということにして、日本語をベースに英語やギリシャ語の単語、及び現地球上の言葉の捩りで済ませています。なお、当方、日本語と英語しか詳しくなく、他の言語は前記2言語に取り入れられている言葉しか知らないため、もしも架空として使っている言葉が実在する(発音も意味も同じ)場合は、全くの偶然です。

*とゆーことで、タイトルは別世界言語、造語です。本文内に初出では日本語の意味とともに出てきます。

 



 ボウイはそれまでにタミア艦内のおおよそを把握していた。アルデバの空母内は似かよっているから、これまでの経験で見当がつくのだ。

 幹部達の居室近く、予想通りの一角に正規兵が一人立っていた。もっと多人数の見張りを置きたかったかもしれないが、目立ちすぎることもしたくないから、見張りは最低限のはずだとボウイが思った通りだった。

「物資」が何かも、そんな警戒ぶりも、当たってほしくない考えだったが、この時点で否定できる要素は無い。己の目で確かめるしかない。

 そして、もしも「物資」がボウイが考えているものだとすると、兵士ではない人物が傍についているはずである。

 ――そんな人物がこの艦に乗っていただろうか?覚えがない……小惑星からアレとともにやってきたか?もしそうならば、そいつが手引きしたことになる……

 ボウイは見張り役の正規兵に緊張感がないことを見てとった。何を見張っているのか知らされず、その重要性がわかっていないらしい。

 これはいけるとボウイは内心でほくそ笑んだ。

 カメラは天井際に二台あった。見張りに真実を告げない代わりにカメラを増設したらしい。

 ボウイは暫く影からカメラの動きを観察した。長居はできない。

 カメラ対策はハッカーでもあるというクードゥルの腕を借りればなんとかなると思った。本人曰く、パイロットよりもハッカーとしてのスキルの方が自信があるという。


 いったん居室に戻り、ボウイは食事時間にクードゥル、ペネロップに協力を持ちかけた。

「何をあの小惑星からここへ運び込んだかは、俺も知りたいが……かなりヤバイことになりそうだな」

「ああ、ヤバい。だが知ることで、俺たちは正しい身の振り方ができる。さんざん利用するだけ利用されて打ち捨てられるような目に遭いたくないだろう?」

 ボウイの強い言葉にクードゥルもペネロップも暫く黙りこんだ。驚いた風はなかった。二人もボウイと同じような疑惑を感じていたのだろう。


 例の場所に引き返すと、役割に鈍感な正規兵がまだ任務についていた。退屈しきっている。こういう時は女に頼るに限る。

 ペネロップがさりげなく見張りに近づいていった。ボウイの指示通り、髪をひっつめていつもとは違う髪型にし、カメラに顔が映らないように動いている。

「こんなところで何を見張っているの?」

 当然の問いだ。

 ボウイよりも三つ、四つ年下と見える正規兵の男は傲岸不遜な態度で応じた。

「お前には関係ない。余計なことに首を突っ込むな」

「ずいぶんな言い方ね。こんなところに突っ立ってちゃ気になるわよ」

 二人がやり取りしている間にクードゥルは二台のカメラをハッキングしたと、ボウイが耳に装着している受信機へ暗号で知らせてきた。ペネロップが立ち去った直後からは少し前の画像を流し続けるのだ。その手の技術に関しては、ボウイはそれほど強くない。クードゥルの手際を信じるしかない。

 ボウイはペネロップが立ち去るのを合図にそっと見張りに近づいた。

 見張りはなんだかんだとペネロップが気になるようで、目がそちらに向いていた。その隙にボウイは男の首筋に強烈な一撃を食らわせて気絶させた。

 男の体を壁にもたれさせ、そこにあるインターホンで呼び掛けた。

「ラルテイン将軍がお呼びです。お出でください」

「……ラルテイン将軍が?なんだろう。分かった。すぐに行く」

 その喋り方と声にボウイは聞き覚えがあった。

 ――やはり、そうなのか……

 動揺を隠し、ボウイは扉が開くのを待った。



 扉が開いたそこに、ボウイは見知った顔を見た。相手の方はすぐにボウイに気づかなかった。

 前へ進もうとした相手をボウイは片手を出して止め、素早く中へ押し戻した。そこは狭い前室で問題の「物資」は白い扉の向こうだった。

「俺のことを覚えていないようですね、マツトウさん」

 マツトウと呼ばれた男はじっとボウイを見た。それからその目が大きく見開かれた。

「ボウイ……」

「さあ、中へ入れてください。中に何があるかは分かっている。そうしてあんたは俺に手向かっても無駄だということがよく分かっているはずだ」

 マツトウは横目でボウイの顔を見ながら踵を返し、内扉横の四角いリーダーに手をかざした。タミアの中はどこも掌認証だ。


 内扉がゆっくりと左右に開いていった。

 中は薄暗い。広さはざっと十マートル四方か。その中にボウイは見覚えのある大きな円筒形の水槽、カプセルを二本認めた。その中に胎児のように丸まって収まっているものも。男女、一体づつだ。顔に五年前の面影がある。

「パメラとフィダロか……」

 ボウイが関わった五年前には十歳前後に見えた姿が今では成人に見えた。ということは、ことを急く軍上層部が覚醒させ、能力を試したとしても不思議はない。

 ――しかし、身体の大きさは大人だが、中身はまだ子供ではないか?


「あなたが手引きしてパメラとフィダロをここへ運んだのですね?他にもまだ三体あったはずだ。少なくとも一体は覚醒させていますね?しかし、わからないのは、何故ラルテイン将軍がパメラとフィダロを盗むようにここへ運ばせたか、です。手引きしたあなたは、もちろんご存知ですよね?」

 マツトウはボウイから目をそらした。

 ボウイは畳み掛けた。

「この二体を()()()()()()秘密基地から()()()()()()ラルテイン将軍率いる小隊が盗み出したとしか思えません。しかしながら、ラルテイン将軍がアルデバ軍を裏切るとは思えない」

 ボウイはじっとマツトウの目を見つめながら話していた。目はマツトウの目に合わせながら、マツトウのどんな動きも見逃さないつもりでいた。

「私もよくわからないのだ」

 暫くの沈黙の後にマツトウが言った。

「よくわからないのにラルテイン将軍の話に乗ったのですか?目端の聞く貴方が?」

 ボウイは声の調子に皮肉を込めた。

「そもそも博士がこのプロジェクトから切り離されたことからおかしくなっていったんだ」

 博士とは、パメラやフィダロを作り出したソルエ博士のことだ。

「博士をパム・プロジェクトから引き離した?」

 あまりに意外な話だった。

「博士を外してプロジェクトがうまくいくわけがない。どうしてそんなことに……」

「博士を知っているあんたには想像がつくだろう?上と意見が合わなくなったんだ。軍上層部のやり方に従えないと言ったのさ」


 五年前、ボウイはソルエ博士にスカウトされ、アルデバ軍がスポンサーである、博士が主導する「パム・プロジェクト」に関わった。

 パムとは、簡単にいえば、生まれながらの戦士を人工的に作り出すという倫理的には大きな問題のあるプロジェクトだった。最高級の戦士(パルフェマー)の頭文字がプロジェクト名だ。

 いくつもの失敗を超えて生成に成功したのは五体で、ボウイは最高級の戦士にするための教育係だった。もちろんレム・ヴァフアーの名声から博士が選んだのだ。

 しかしボウイがそんな仕事の詳細を知ったのは研究所に着いてからで、少なからず後悔した。戦いに明け暮れるアルデバ人が自分たちの代わりに戦わせる兵士を人工的に作り出そうとしていることに呆れ返った。だが、同時にその詳細を知りたい気持ちも湧いた。今さら断れば、自身が殺されるだろうという読みもあった。

 ボウイより四歳年上のカイ・マツトウは、弟子の中では最年少にも関わらず、博士の第一の弟子だった。他に第二、第三の弟子の三人と庶務を担当する五人、ボウイを入れての十人が研究所の人員全てだった。

 まだ幼いパムの頭脳に直接ボウイの戦術や考え方を伝える日々は一年近く続いた。

 その間にボウイは博士が身の危険を感じていることを知った。身を守る対策を立てていたからだ。ボウイもまた自衛対策の対象になった。


 博士にとってパムは子供だった。人工的に作り出したとはいえ、じっくりと時間と愛情をかけて育てていた。一方、軍にとってはツールの一つだ。それは当初からの乖離だ。博士はうまく対処していたが、パムの成長で対処しきれなくなったか。


「博士は今どこに?」

 マツトウはかぶりを振った。

「わからない。殺されていなければいいんだが……」

「博士を殺せばパム・プロジェクトは崩壊する。どこかに監禁されているのではありませんか?」

 マツトウが強くかぶりを振った。

「詳しくは知らないのだが、もう一つプロジェクトが動いているらしいんだ。パムと同じような、人工的に戦いに適した生物を作り出す……」

 ボウイはマツトウの「生物」という言い方に、パムと異なり、人の姿をとらない怪物のような生物を作り出そうとしているのかとゾッとした。

「おそらくそちらの目処がたったか、そちらにパムより成功率の高さを感じたということではないかと思う」

 マツトウの言葉にボウイは怒りで一瞬言葉がつまった。

 ――漸くその真価を発揮できる段階に来たパムがいきなり御役御免だというのか?彼らは意思を持っている。目覚めた直後は幼くても、そこから成長していく。我々と同じように。

 それ故に博士は子供のように可愛がり、行く末を心配していたのだ。

 それならば、そんな危ういものを始めから作らなければいいとボウイは思ったが、博士のパム創造には科学者としてのどうしても諦められない夢があったらしい。


 マツトウの答えは、そこからは要領を得なかった。何かを隠している。ボウイはそう思ったが、マツトウに怯えを感じ、追及は後日に延ばすことにした。

「他の三体はすべて覚醒させたのですか?」

 ボウイの問いにマツトウは渋い顔つきで答えた。

「お前が研究所を去ったあとのことだから知らなくて当然のことだが、博士はパムを一度覚醒させている。再び眠りに落としたのは、行方不明になる直前だ。簡単に軍の言うとおりにさせないためだったんだろうが、その結果、博士の手を借りずに覚醒させたら、三体のうち二体は失敗した。成功したのはイードリだけだ」

「他の二体というと、エブナとロイカですね。どうなったんです?」

「エブナは植物状態、ロイカは……狂ってしまった……軍は役に立たないと判断し、すぐに処分してしまった」

 ――「処分」……殺したのか!なんということを……

 ボウイは腸が煮えくり返るほど腹が立った。

 博士にとって子供であるパムは、ボウイにとっても親戚の子供のような感覚がある。一年足らずとはいえ、毎日、自身の術を教えるだけでなく、各種計器をチェックし、栄養をチューブで与えるといった世話も手伝ったのだから。

 それにしても、博士が立てた対策は裏目に出たことになる。マツトウの話から推測するに、再度パムをカプセルに入れたのは覚醒させるために自分を放逐できなくさせる狙いがあったと思われるからだ。

「あんたでは覚醒は無理ということなんだな?」

 マツトウは悔しそうな顔つきになった。

「もっと時間が欲しかった……」


 この状況では、このままパメラとフィダロをラルテイン将軍の手に委ねておくことに強い不安しか覚えない。三体のうち一体しか成功しなかったとは、覚醒の成功率が低すぎる。博士を見つけるまでパメラとフィダロをそっとしておきたいとボウイは思った。

 ――どうやったら、二人をここから連れ出せるだろうか……

 そんなことをしたら、ボウイは強大なアルデバ軍を敵に回すことになる。無茶だと理性が言う一方で、ボウイの感情は高まっていた。まだはっきりと自覚してはいなかったが、ボウイの中にアルデバ軍上層部への反感が強くなっていた。そのうえ、博士やパムとの関わりがわかれば、自身も「処分」される気がした。

 ――どのみち安易には過ごせない。ならば……

 ボウイは計画を立てるため、マツトウに近々の予定を尋ねた。



 しかし、なかなかパムをタミアから運び出す計画をたてることはできなかった。ラルテイン将軍に動きを悟られないようにするのが難しすぎた。

 その間にマツトウから思わぬ連絡が入った。パメラとフィダロをラルテイン将軍が覚醒させたというのだ。そして、慣れないスタッフが性急にことを運んだため、パメラはなんとか問題なく覚醒したが、フィダロの覚醒は失敗したという。

 その報を聞いた時、ボウイは思わず拳を握りしめていた。


 ボウイが研究所にいた頃には羊水がわりの液体の中でほとんど眠ったままだった彼らだが、一人一人に個性が、性格が見えていた。

 フィダロは小心者だが心根の優しい性格だとボウイは思っていた。

 エブナは人見知りしない積極的な性格のようだった。

 ロイカは落ち着いた性格と頭のよさを感じさせた。

 多少の差はあれど、どの子もボウイにしたら最高級の戦士たりえる子達だった。人が作り出したものであっても、一人一人個性を持つ「個人」なのだ。

 扱う人の失敗で「処分」されるとは、本来あってはならないことだとボウイは思うのだ。そして、作り出した人々には作り出した責任があるはずだと。その責任の取り方が、失敗した場合には即「処分」とは、少なくともパムに関しては不適切だ。


「ラルテイン将軍はフィダロを殺したのか?」

 ボウイは「処分」などという誤魔化す言葉は使わない。

 マツトウの報にボウイはなんとかこっそり会う算段をつけて直接尋ねた。

「ああ。おかしいと分かった途端にな……」

「あんた、止めなかったのか?」

「止めたさ!フィダロにどれだけの労力が注ぎ込まれたことかと説いてな。人格がどうの……なんて、あの男に通じるわけがないからな。だがダメだった」

 そこでマツトウは頭を抱えた。

「まだフィダロが女かイードリのように容姿端麗だったら、生き延びられたかもしれない……」

「軍上層部の変態連中のなぐさみものとしてか?」

 ボウイの怒りは募った。

「そもそも都合のよい兵士を人の遺伝子を使って作ろうというのが、間違っているんだ。戦い好きなのはアルデバ人なのだから、自分たちだけでやっていればいい」

 どうして他の星人をも巻き込むのか。

 そう続けたかったが、それには他の星人側の問題もあると、ボウイは言葉を飲み込んだ。

 ちなみに博士はアルデバ人だが、マツトウはコウリプ系である。

「覚醒に成功したパメラを奴らはどうする気だ?」

「近々実戦に投入するのだろう。イードリもそうだった。覚醒してまもなくコクピットに入れた」


 イードリ。ボウイの印象では戦士としては一番優秀になる可能性を持っていた。しかし性格はおそらく五人中一番の甘えん坊だ。たまに目を開けると、円筒の中からボウイや博士の姿を探し、近づくとなにか物言いたげに壁面に近づき、じっと見つめてきた。円筒から離れようとしたら、嫌だというように壁面を叩いたり、暴れたこともある。

 五機のサボを操るパイロットは、あのイードリなのだ。早すぎると思いつつ、ひょっとしたらと思った。五サボをあれだけの動きと攻撃力を見せて操るのはボウイの感覚では超能力に近いからだ。そんなことができるとしたら、超能力者でないならば、パムしかいないだろうと。

 その一方で、イードリならば、こちらに招き寄せることができるのではないかと思った。博士の対策が活きていれば、できる。

 パメラはイードリほどパイロットとして優れているかは疑問のところがあるが、いきなり四サボを操るくらいはできるだろう。

 しかしいずれにしても、パイロットとして優秀であろうとなかろうと、彼らを待ち受けている運命は、戦死か「処分」という名の殺害だとボウイは思った。

 博士は博士なりにパムの行く末を守ろうとしていた。

「どのみちおそらく寿命は長くないのだ」

 寂しそうにそう言った博士の顔をボウイは忘れることができない。

 ――博士はこの展開を予想していたのだろうか?

 自分達の身の危うさは予期していた。とてつもなく頭の良い人だったから、色々想定していたことだろう。そのうちのどれだけを実行に移すことができただろうか。


 サイレンが鳴った。まさかパメラをこの戦いに投入することはしないだろうとボウイは思った。いや、願った。ラルテインならやりかねない。




 


念のための注: 「パム・プロジェクト」があらすじに書いた主人公が阻止する秘密プロジェクトではありません。

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