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第十三話 クードゥルの戦い

 

 ザムサからビーナ達を連れ出して二ヶ月後、クエリク達、衰弱の酷かった三人も光速を越える旅に耐えられるくらいに回復した。

 しかしボウイは、不測の事態に備え、もう少し回復させたいと考えていた。もう一つ、気がかりなこともあった。


 ボウイがクエリクにつきっきりで看護をしていた間に、クードゥルは時々一人で出掛けていたらしい。丸一日出掛けていたことも二日あったという。イードリが不安定になったのには、そんなクードゥルの状況も関係していたのだ。

 その後もクードゥルは時々一人で出掛けた。丸一日出掛けたことも十日に一度くらいあり、何処へ出かけるのか尋ねても、ちょっと知り合いのところへと濁した。

 ナザフ出身のクードゥルだから、親戚や知り合いが大勢いるだろうし、余計な詮索はしたくないと、ボウイ達はクードゥルに何も尋ねなかった。ちなみにペネロップは人種的にはナザフ系だが、生まれも育ちもアルデバ星系である。

 しかし、どうやらクードゥルの用はなかなか終わらないらしい。口数は少なくなる一方だった。


 久しぶりにタミアから行動を共にしている六人がテーブルに揃った昼食時、ついにペネロップがクードゥルに尋ねた。

「何かに取り組んでるみたいだけど、もうすぐラシル・ファシスへ旅立つわよ。それまでに終わりそう?」

 クードゥルはペネロップを一瞥した。それからボウイに目を向けた。

「もしも、ナザフ軍の協力が得られるなら、それがいいよな?」

 ナザフ軍が出てくるとは、ボウイは予想していなかった。他の四人も呆気にとられている顔つきだ。

「そりゃ、そうなれば心強い限りだが、そんな伝手(つて)があるのか?」

「単純な伝手ではないが、なんとかなりそうな方法がある」

 ボウイはペネロップを見た。ペネロップもボウイを見ていた。怪しむ顔つきだ。おそらくボウイも同じような顔つきをしている。

「クードゥル、ここは正直に何をやろうとしているのか、話してくれ」

 ボウイはクードゥルに向き直って言った。


 クードゥルが口を開くまでにまた少し間があいた。ふうとため息を一つついてから話し始めた。

「俺は昔、どうしようもない悪ガキでな。特に母親と折り合いが悪くて、十四で家を飛び出した。親も兄弟も俺を見放したのに、従姉妹で同い年のティオラってのがただ一人、俺のことを気にかけて、時々様子を見にきていた……」


 そんな暮らしが二年近く経ったある日、そのティオラがクードゥルに会いに来た帰りに事故で亡くなった。

 クードゥルは責任を感じ、親戚もクードゥルのせいだと罵り、それ以来、クードゥルは故郷の町には帰らず、親戚はもちろん、両親にも兄弟にも会わずにいる。

 問題はその事故だった。

 轢き逃げということで警察が捜査したのだが、なかなか轢き逃げ犯を見つけることができなかったのだ。

 ところがクードゥルは一人の警察官の態度から、疑惑を感じた。警察は犯人を見つけたのに、野放しにしていると感じた。しかし、当時のクードゥルには何もできなかった。


 今回、十三年ぶりにナザフへ戻ったクードゥルは、今さらと思いながらも、その疑惑を感じた警察官の居どころを突き止め、話を聞きに行った。従姉妹のことはずっと心にひっかかっていたし、今なら本当のことを話してもらえるのではないかと思ったのだ。

 その元警察官は二年前に亡くなっていたが、資料を残していた。

 その資料を読み込んでクードゥルにわかったのは、轢き逃げ犯がナザフ軍関係者ということだった。しかもかなり上層の。

 次にクードゥルはその人物が今何をしているか、調べた。

「なんと、ナザフ空軍の少将だ」

 ナザフの空軍とは宇宙軍のことである。この世界のこの時代では軍の主力で人数も多い。

「十三年前は、何をしていたんだ?」

「少尉だが、父親が当時、大将だった」

「なるほど……その現少将が轢き逃げ犯だという証拠というか、根拠は何なんだ?」

「目撃証言と車の修理だ」

「弱くないか?」

「目撃証言は映像で残っている。車の修理の方も修理を引き受けた人物の証言映像だ」

「それを公けにするといえば、効果はあるか……」

 クードゥルがニヤリと笑った。

「ナザフ軍の援護に小型艦と引き換えってのはどうだ?」

「引き換えるなら光速を越えるまでの援護とトリサボを操れるコクピットがいいが、そういうのは、強請って言うんじゃないか?」

「俺たちが相手にしてるのは、アルデバ軍とアルデバ政府だぞ。構うものか」

「警察に言わないのか?」

「逮捕する気なら十三年前に逮捕できたのを揉み消されたんだぞ。今さら話を持ち込んだって無駄だ。せっかくのネタがフイになってしまう」

 ボウイは他の面々の顔を見た。

 ペネロップは半信半疑の顔つき、マツトウは反対の顔つきだ。イードリとパメラはボウイをいつもの澄んだ目でまっすぐ見ていた。ボウイが良ければ良いということらしい。

 ボウイは腕組みした。頭のなかで色々検討した。

「やってみる価値はあるな……」



「本当に来るの?」

 イードリがボウイに小声で尋ねてきた。

 ボウイ、ペネロップ、イードリ、パメラの四人は、港の岸壁傍に建つ倉庫の陰からクードゥルを見守っていた。

 クードゥルは両手をコートのポケットに入れ、乗ってきた車のそばに立っている。

「たぶん、来る」

 ボウイは短く答えた。


 昨日、クードゥルは問題の少将にコンタクトした。十三年前の轢き逃げ事故の犯人が少将であるという証拠を握っている、公けにされたくなければ、こちらの要求を呑むように。そんな内容の電話をした。

 電話にしたのは、相手の反応をその場で確かめるためだ。

 相手は一瞬絶句したが、否定はしなかった。おまえは誰だと尋ねてきた。

 轢き殺された女の身内とだけ、クードゥルは答えた。

 相手は素直に取引場所へ行くと約束した。

 そのあまりの素直さにクードゥルもボウイもペネロップも、素直に取引に応じるつもりはないと読んだ。おそらくクードゥルを抹殺し、証拠の隠滅に来る。

 そこでクードゥルを守るため、四人は二人ずつに分かれて物陰に隠れることにしたのだ。少し離れた場所には腕っぷしに自信のある、運送会社の社員、サレも待機している。全員が耳に小型のレシーバーをつけていた。発信は襟元のマイクだ。

 ナザフの車はどこでも走れるタイヤと車専用の道路を走るための磁石の反発力を利用した、リニア式の両方の走行機能を備えている。

 港にはタイヤを使ってくるはずだ。


 やがてタイヤ式の車の音が聞こえてきた。

「来たぞ」

 ボウイが小声で仲間に告げた。

 車はやや乱暴にクードゥルから五マートルほど離れた場所に停止した。

 手動で開け閉めできたら、大きな音をたてただろうが、大抵の車の扉はボタン一つで上へスライドして開き、もう一度押せば静かに閉まる羽上げ式だ。


 車から出てきたのは、クードゥルと張り合えるくらい大柄で厚みもある人物だった。

 岸壁の近くには灯りが少ない。

 男のシルエットから、軍服を着ていることだけはわかった。


 クードゥルが見た資料によると、男の名はサドラフ・ベルガー。年齢は四十になったばかりだ。偶然にもクードゥルと同じアルデバの父方のクオーターで、八年前にナザフの公務員だった女性と結婚し、子供が二人いる。

 クードゥルが自身で評判を調べたところ、人物評は頗る良かった。過去の罪を悔いているからか、チャリティーやボランティア活動に熱心で、家庭は少なくともこれまでのところは円満、部下からの信頼も厚いという。

「今は善行にいそしんでるったって、俺は許す気にならないぜ」

 身内を轢き殺されたクードゥルとしては、罪を隠して好い人ぶりを見せているベルガーが余計に許せなくなっているようだった。

 アルデバ軍とニオ・アルデバ軍の戦争に一時期はナザフも巻き込まれたが、そもそもは内乱なので、この数年、ナザフは平和な惑星になっている。そんな状況だから、目の前にいる男も、この数年は平和な日々を満喫しているはずである。


 ベルガーは仁王立ちでクードゥルに対峙した。

「証拠とやらは何処だ?」

「コピーがこにある。見てみるかい?オリジナルはもちろん別の場所だ」

 クードゥルは小型のタブレットをベルガーに向かって投げた。

 ベルガーは驚いた様子は見せず、両手でタブレットを受け止めた。それから暫くタブレットを見つめていた。突然、驚きを見せた。

 やがてタブレットから顔を上げた男には開き直ったふてぶてしさが、離れた所にいるボウイにも感じられた。

「それで?」

「大幅に割引きして、最新式の五機のサボ付き戦闘機(コクピット)と交換でどうだい?安いもんだろ?」

 こちら側の要求には、援護は紙一重、土壇場で約束を破って攻撃されかねないと、ボウイ達はコクピットに絞った。

「そんな大きな物は簡単に動かせない。どうやって引き渡すんだ?」

 そうきたかとボウイは思った。

「もちろんこちらの指示に従ってある場所へ運んでもらう。オリジナルデータの保管場所はコクピットをこちらに受け取り、余計なことをしていないと確かめられたら、教える。あんたはサボ五機付きのコクピット一機で轢き逃げの罪から逃れられ、今の暮らしを守れるんだ。良い条件だろ?」

 ベルガーは一分近く沈黙した。

「おまえが他にデータをコピーをしていないという保証が要る」

 ボウイが予想していた反応だが、返しが難しい。クードゥルがどう答えるのか、固唾を飲んで見守った。ボウイの質しにクードゥルは任せろとだけ言い、詳細を言わなかったのだ。

「気持ちはわかるが、そこは俺達を信じてもらうしかない。何度も取引を持ちかけるバカはやらないということをね。サイコロを握ってるのは、そっちだ。どうする?」

 クードゥルは余裕があるように見せていた。言葉よりも態度で相手を追い込むつもりらしい。

 いや、余裕は見せかけではないのかもしれない。

 ボウイの見るところ、クードゥルは相当な覚悟を決めている。

「いいだろう。条件を呑もう。コクピットは何処へ運べば良いんだ?」

 クードゥルは運送会社社員の提案どおり、コクピットを車に乗せ、今いる近くの倉庫前へ運ぶよう指示した。更にコクピットを載せたトラックの運転手にはキーをつけたまま車を降り、すぐにその場を去るよう指示した。

「いつ用意できる?」

「すぐには答えられない」

「いつわかる?」

「……そうだな。明後日には答えられるだろう」

「では、明後日にまた電話する。但し、そこから五日後に引き渡すなんてのは、駄目だ。期限は今日から五日以内だ」

 クードゥルはさよならの仕草をした。背中は見せない。

 ベルガーは無言で去っていった。


 ベルガーとクードゥルがやり取りしている間に少なくとも三人がクードゥルに狙いをつけていたとボウイは感じた。三方向からだ。だが、この流れならば、撃ってくることはないと思った。

 問題は実際にコクピットを受け取り、オリジナルデータを相手に渡す時だ。



 二日後、再度ベルガーにコンタクトしたら、三日後に指定の場所へ持っていくと答えた。

 その気になれば、翌日か二日後には用意できるだろう。受け取ったら、まずはコクピットとサボに変な細工をしていないか、確認する必要がある。

 クードゥルもその手の知識があるが、念には念をと、専門家の手配もした。


 取引の時刻は朝五時にした。この時期ではもう日が昇っている時刻である。視界がきくほうが良いとの判断だ。ベルガーに余計な策をとらせないために。

 この度もクードゥルは、自分一人で対峙すると言って譲らなかった。

「仲間がいることは匂わせるが、あの場には俺一人と思わせる」

「一人だと思わせるのは、危険だ。何を考えている?」

 ボウイの詰問にもクードゥルは答えなかった。

「タブレットで映像を見ていた後半に奴は驚いたが、何を見せたんだ?」

「ティオラの写真だ」



 朝焼けの中、クードゥルが佇んでいる。

 この日もまたベルガーは車でやって来た。二日前と違うのは、後ろに大きなトラックを従えていたことだ。

 運転していた男は指示どおり、車を止めるとすぐに車から降りてその場を去っていった。兵士ではなく、民間人のようだった。

 トラックにはこっそりサレと専門家が近づいて爆発物や発信器が仕込まれていないかチェックし、問題がなければ、倉庫へ運び入れることになっている。


 クードゥルは落ち着いていた。

 ベルガーを目の前に暫く何も言わなかった。

 サレが合図するまで、時間を稼ぐつもりだ。

「オリジナルは何処だ?」

 ベルガーが苛立った声を出した。

 クードゥルは少し間をおいて答えた。

「オリジナルは貸金庫に預けてある。そのキーはここだ」

 クードゥルはコートのポケットから無造作にカードキーを出した。

「車にも、コクピット、サボにも変な細工はしてないだろうな?」

「そんなことはしていない」

「信じられれば良いんだがな……燃料は?」

「入れていない。事故を防ぐために空にした」

 サレの問題なしという合図があった。

 クードゥルはカードキーを手にしたまま動かなかった。

「ほら、取りに来いよ」

 クードゥルはカードキーを掴んだ手をわずかに前に出した。

 ――大胆なことをする……

 そう思いながら、ボウイはクードゥルの援護のために銃をいつでも発射できるよう準備した。

 ベルガーは少しためらったが、数歩前へ出て腕を伸ばし、カードキーを受け取ろうとした。

 その腕は左だった。

 ――ん?左利きだったか?

 ボウイが思った直後、ベルガーの右腕がクードゥルを襲った。

 クードゥルは間一髪、避けた。相手の動きを読んでいたらしい。

 ベルガーの右手がキラリと光った。ナイフを手にしているのだ。

 クードゥルは避けた動きから間をおかず、相手と取っ組み合いに入った。カードキーは素早くしまったらしく、左手でベルガーの右手首を、右手で相手の左腕を掴んでいた。すぐに右手首を捻り上げ、ナイフを落とさせた。

 すかさずベルガーはクードゥルの脚をはらったが、中途半端だった。クードゥルは相手の胸ぐらを掴んだ。そこから、まさかの頭突きを喰らわせた。

 ボウイには自分が食らったら、一発で昏倒すると思うくらいの激しさだったのに、ベルガーはよろめいただけで倒れはしなかった。

 アルデバのクォーター同士らしい、激しい肉弾戦から目が離せなくなったが、ボウイはふと嫌な気を感じ、さっと周囲を見回した。

 同時にイードリがサイレンサー付きの銃を一発、発砲していた。

 狙うのは腕や脚にしろと何度も言っておいたが、発射の反動と土壇場での相手の動きで命中する場所は大きく変わる。音で相手が銃を落としたことだけはわかった。

 ボウイも狙撃手を見つけた。

 ベルガーとクードゥルは取っ組み合いになっているから、狙撃手達は撃ちたくても撃てないだろう。

 それがベルガーを自分に近づけたクードゥルの狙いの一つだったろうが、相手が無腰の可能性は低かったし、実際、ナイフで襲ってきた。かなり無茶なやり方である。

 ボウイは威嚇射撃をした。クードゥルの援護だ。


 ボウイが目を戻すと、クードゥルとベルガーは発砲音に気を取られることなく、殴る蹴るの肉弾戦を続けていた。

 その戦いは時間無制限デスマッチの様相を呈していた。二人とも額や鼻から流れる血をぬぐいもせず、殴る蹴るを繰り返している。

 クードゥルの右のローキックをベルガーは見事に膝で受けてカウンター攻撃に変えた。

 よろめくクードゥル。が、よろめいたと見せて、その動きから右のジャブをベルガーの腹へ見舞った。

 ベルガーが思いの外堪えた様子を見せた。

 クードゥルは急所の鳩尾をついたのだ。

 疲れもあって防ぎきれなかったらしいベルガーは膝をついた。

 クードゥルは間を置かずベルガーの髪の毛を掴んで引っ張り上げた。

「よくも、人を轢き殺しておいて、のうのうと善人面して生きてこれたものだ!おまえがすぐに救急車を呼び、救命措置をとっていたら、助かっていたかもしれないんだぞ!ティオラの受けた苦痛に比べたら、これしき……」

 クードゥルはベルガーの顎を殴り上げた。見事なアッパーだった。ベルガーは殴られた勢いで少し浮き上がったように見えた。そのまま後ろへ倒れた。固い路面に後頭を叩きつけた嫌な音が響いた。

 顎の骨が折れた上に脳震盪を起こしたのではないかとボウイは思った。

 このままではベルガーを殺してしまう。ボウイはその恐れから、クードゥルを止めに行こうと歩きかけた。

 しかし、クードゥルはアッパーを見舞ったあとは、仰向けに倒れたベルガーを一瞬見下ろしただけで、すぐに車に乗りこみ、発進させた。狙撃をかわすためだったのだろうが、撃った者はいなかった。クードゥルとベルガーの肉弾戦に手出し無用と感じたのかもしれない。

 ボウイ達も慌てて乗ってきた車へ戻った。



 ボウイ達はクードゥルの車を追った。

 クードゥルの車は借りている邸宅への道は辿らず、海沿いを反対方向へ走った。

 後を追いかけ始めてまもなく、ボウイはクードゥルが何処へ向かっているのか、見当がついた。自分も同じ立場なら、そうすると思うことだ。

 ボウイの予想どおり、クードゥルの車は海を臨む高台の墓地で止まった。墓地というよりも、弔いの施設だ。地上は公園のように木々や花が植えられ、骨や灰は地下に作られたロッカーのような棚に安置されている。地上の花木の下に埋められた灰も多い。

 クードゥルは迷うことなく施設のほぼ中央にある、緑豊かな大きな樹木へと歩いていった。

 樹木を下から上へと見上げ、暫くたたずんでいた。

 イードリがボウイに話しかけてきた。

「クードゥルはあの木が好きなんだね」

 そんなことを言うとは思っていなかったボウイは、ふっと顔がほころんだ。

「そうだな。ティオラという仲のよかった従姉妹もあの木が好きだったんだろう……」


 クードゥルが踵を返し、ボウイ達が立っている駐車場の入り口へと戻ってきた。

 血があちこちにつき、片目は腫れ、片頬も腫れ、ただでさえいかつい顔が、小さな子どもが見たら泣き出しそうな恐ろしげな面相になっている。

 ボウイ達の目の前に来たクードゥルは、真顔からニヤリと笑った。

「わざわざついてくることはなかったのに。さ、帰ろうぜ」

 そう言うと、さっさと車へ歩いていった。そして、車のキーを出そうとポケットに手を入れて動きを止めた。

「いけね。貸金庫のキーを渡してないや」

 クードゥルはポケットから貸金庫のカードキーを出してボウイ達に見せた。

「ナイフで襲ってきたアイツが悪いんだ。放っておけ」

 ボウイの言葉の後、クードゥルは暫くカードキーを眺めた。再びボウイ達を見て言った。

「俺は約束は守る義理堅い男だ。郵送するとしよう」

 クードゥルはカードキーをポケットに戻し、代わりに車のキーを取り出した。

 その様子を眺めながら、クードゥルの放つ気がそれまでと違うとボウイは感じていた。クエリクならもっと違いを明確に感じとり、言葉にするだろう。

 帰宅してクエリクの感想を聞くのが楽しみになった。



 クードゥルのおかげで五サボを操るコクピットをタダで手に入れることができたのは、ボウイにとって大きな収穫だ。というのも、人数が増えたことと、万が一を考えて全員が殺られてしまうことのないよう、ボウイは二機のシャトルでラシル・ファシスへ帰るつもりでいたからだ。

 これで、シャトル一機にサボが五機つくことになる。

 サボをコントロールするのはイードリと自分だとボウイは思っていた。

 ソルエにはクードゥル、イードリ、マツトウにクエリクを含めたビーナ八人とラシル・ファシスで加わった八人のうちの四人、もう一機にボウイ、ペネロップ、パメラ、残りのビーナ八人とラシル・ファシスで加わった四人が乗る。

 ボウイがクエリクと別れるのは、いざというときの、クエリクがボウイと繋がることのできる能力(ちから)を信じるからだ。

 ボウイと別のシャトルに乗り込むことをイードリは寂しがるだろうが、この二ヶ月の間にイードリはクエリクとも仲良くなっている。

 クエリクとクードゥルがイードリの心を守ってくれる。ボウイはそう考えていた。





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