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ヤマモモの樹の伝説探求

 教室に戻った俺と恵玲奈はそれぞれの席に着いた。俺は松井恵玲奈の身体で、彼女のいつもの席に座る。クラスメイトたちの視線がチラチラとこちらに向けられているのがわかる。きっと遅刻したことや、さっきの髪型のせいで何か変だと思われているんだろう。いや、それともこの美貌に改めて見惚れてるのか? なんてちょっと調子に乗ったことを考えつつ、俺は机に突っ伏してこの異常事態を整理しようとした。


 恵玲奈が言うようにヤマモモの樹の伝説がこの入れ替わりや時間の巻き戻りと関係している可能性は高い。でも……なんでこんなことが起こったんだ? 俺が告白して振られたから? それとも俺が「ヤマモモの伝説なんて嘘っぱちだ!」と叫んだのがまずかったのか? あの瞬間、雷のような衝撃が走って、目の前が真っ白になった。あれが多分すべての始まりだ。


 授業が始まったが俺の頭は授業内容なんてまるで入ってこない。数学の先生が黒板に数式を書き連ねているけど、恵玲奈の成績を考えるとこのレベルは彼女にとって朝メシ前のはず。問題は俺の頭じゃその「朝メシ前」にすら対応できないってことだ。ノートを開いてみるけど、恵玲奈の几帳面な字でびっしり書かれたノートを見て余計に焦る。こんなの俺に書けるわけがない!


 隣の席の女子が小声で話しかけてきた。「恵玲奈、今日なんか変じゃない? 遅刻するなんてらしくないよ」

「え、う、うん、ちょっと寝坊しちゃって……」 俺は慌てて笑顔を作ってごまかす。恵玲奈の声で喋るの慣れないな。高い声が自分の口から出てくるたびに違和感しかない。

「ふーん、まぁたまにはそういう日もあるよね。ね、授業後カフェ行かない? 新しいスイーツメニュー出たんだって!」

「カフェ? うーん、今日はちょっと予定が…」 俺は言葉を濁す。授業後は恵玲奈とヤマモモの樹のことを調べるつもりだし、そもそも俺、女子同士のそういうおしゃべりにどうやって対応すればいいんだ? スイーツの話とか完全に未知の領域だぞ。

「えー恵玲奈、最近つれないよね!及川くんとデートでもしてるの?」 彼女がニヤニヤしながら言う。

 また及川……昨日の母親の言葉もそうだったけど、恵玲奈と及川光って本当に何かあるのか? 及川光はクラスの人気者で、スポーツもできて顔も悪くない。恵玲奈みたいな子と付き合っててもおかしくないっちゃおかしくないけど……ほんと及川とはどういう関係なんだ? 頭がぐちゃぐちゃになってきた。

「ち、違うよ! 及川とは何もないって!」 俺は思わず大声で否定してしまった。周りの視線が一気に集まる。やばい、目立っちゃった。

「ふふ、照れちゃって可愛い~まぁ、いいや。じゃあまた誘うね!」 彼女はそう言って笑いながら黒板の方に向き直った。


 授業後、俺と恵玲奈は約束通り校庭のヤマモモの樹の下で落ち合った。恵玲奈は俺の身体で相変わらず不機嫌そうな顔をしている。いや、俺の顔がそんな表情してるってなんか腹立つな。

「で、松島くん、今日一日どうだった? 私の身体で変なことしてないよね?」 恵玲奈が腕を組んで睨んでくる。

「変なことって……そんなことするわけないだろ! ちゃんとトイレも目をつぶって行ったし、着替えも……まぁ、必要最低限で済ませたよ!」 俺は慌てて弁解する。いや、実際おっぱいは揉んだけど、そんなことは言えるわけがない。

「ふーん、信じられないけどまぁいいよ。それよりヤマモモの樹の伝説を調べるって言ったよね。どうするの?」

「そうだな、まずは先生に話を聞くか、図書室で何か資料を探すか……でも、ぶっちゃけこんなオカルトみたいな話、先生がまともに相手してくれるかな?」

「確かに……でもうちのお母さんが言ってたように、この伝説結構昔からあるみたいだし学校の歴史とかに関係してるかもしれないよ。図書室に古い資料とかないかな?」

「じゃあ、まずは図書室に行ってみるか」

 

 俺たちは校舎に戻り図書室に向かった。図書室は静かでインクの匂いなのか紙の匂いなのか独特の空気が漂っている。先生に「学校のヤマモモの樹の伝説について書かれた資料ってありますか?」と聞いてみたけど「そんな話聞いたことないわね」とあっさり流されてしまった。

 仕方なく自分たちで棚を漁ることに。学校の沿革誌みたいなものを引っ張り出してパラパラめくるけど、ヤマモモの樹についての記述は見つからない。せいぜい校庭の写真にデカデカと写ってるくらいだ。

「これなんの成果も上がらないんじゃ……」 俺がぼやくと恵玲奈が急に「あっ!」と声を上げた。

「ちょっとこれ見て!」 彼女が指差したのは、20年以上前の学校新聞。そこにはヤマモモの樹の下で撮られた写真があった。写真の下には手書きで「伝説の樹」と書かれている。

「これ絶対関係あるよ! ほら、伝説って書いてある!」

「でもこれだけじゃ何もわかんないじゃん。せめてどんな伝説だったのか、もっと詳しい話が載ってれば……」

「じゃあもっと古い資料を探そう。ほら、そこの奥に古そうな箱があるよ!」

 恵玲奈に促されて、俺は棚の奥に積まれた埃まみれの箱を引きずり出した。中には古い新聞や手書きのノートみたいなものが詰まっている。パラパラめくってみると、1960年代の学校新聞にこんな記事が目に留まった。

 『ヤマモモの樹の奇跡』本校の校庭に立つヤマモモの樹には、特別な力が宿ると言われている。卒業の日にこの樹の下で告白した者は、必ず結ばれ、幸せになるとされている。しかしある生徒の証言によればこの樹は「約束を破った者」に試練を与えるとも…。

「試練!? なんだこれ!?」 俺は思わず声を上げた。

「ちょっと静かにしてよ! でも、これめっちゃ重要じゃない? 『約束を破った者』って……もしかして、松島くんが告白して私が振ったから、伝説の『約束』を破っちゃったとか?」

「え、じゃあこの入れ替わりも時間の巻き戻りも、ヤマモモの樹が俺たちに与えた『試練』ってこと?」

「そう考えるとつじつまが合うよね。で、この試練をどうやって乗り越えるか……記事にはそこまで書いてないの?」

 俺は急いで記事を読み進めたけど、具体的な解決方法は書かれていない。ただ、最後にこんな一文があった。

「ヤマモモの樹は、真実の心を見ている。心から向き合わなければ、試練は解けないだろう」

「心から向き合う? なんじゃそりゃ、めっちゃ抽象的じゃん!」 俺は頭を抱えた。

「でもヒントはこれだけだよ。とりあえず私たち、ちゃんと向き合ってみるしかないんじゃない? たとえば……お互いのことをもっとちゃんと知るとか」

「知るって……でも確かに俺、松井さんのこと好きだけどぶっちゃけ表面しか知らないよ。性格とか、好きなものとか、ほとんど話したことなかったし」

「私も松島くんのことただのクラスメイトとしか思ってなかった。告白されたときもびっくりしただけで……ごめん、ひどい言い方しちゃったよね」

 恵玲奈が珍しくしおらしい声で言う。俺はちょっとドキッとしたけど、すぐに気を取り直す。

「まぁ、過ぎたことはいいよ。それよりこれからどうする? この『向き合う』ってのは具体的にどうやるんだ?」

「うーん、たとえばしばらくこのまま生活してみるとか? お互いの家でお互いの生活をちゃんとやってみるの。そしたら嫌でも相手のことわかるでしょ」

「それは……悪くないアイデアだけど、めっちゃ大変そうじゃん。俺、松井さんの成績キープできる自信ないぞ。大学受験とか、マジで無理ゲーだろ」

「私だって松島くんの生活が楽だと思ってないよ! 昨日妹さんにめっちゃバカにされたし! でも、試練ってことは乗り越えなきゃ元に戻れないってことだよね。頑張ってみようよ」

 恵玲奈の言葉に、俺は少しだけ覚悟を決めた。確かに、このまま訳わかんない状態で過ごすより、ちゃんと向き合って解決策を見つける方がマシだ。

「わかった。じゃあしばらくはこの身体で生活してみる。松井さんの家で松井さんの生活をちゃんとやってみるよ……でも、及川のことはちゃんと教えてくれよ。あいつと何かあるなら……俺、知っとかないとまずいだろ。」

「及川くん? え、なんで急に?」 恵玲奈がキョトンとした顔をする。

「だって昨日松井さんのお母さんが『及川くんとどうなの?』とか言ってたし、今日もクラスメイトに似たようなこと言われたんだよ。付き合ってるなら、正直に言ってくれよ」

「は!? 付き合ってないよ! 及川くんとはただの友達! っていうか、なんでそんな噂になってるの!? むしろ、松島くんこそ、私のことちゃんと見てたなら、そんな誤解しないよね?」

「う…それは…」 俺は言葉に詰まる。確かに俺、恵玲奈のこと勝手に理想化してただけかもしれない。彼女の日常や友達関係なんて考えてみればほとんど知らない。

「ほら、だから向き合う必要があるんだよ。私も松島くんのことちゃんと知ろうとするから。とりあえず、今日のところはこれで解散! また明日、ヤマモモの樹の下で会いましょう」

「了解。じゃあ、またな」


 俺たちは図書室を出てそれぞれの「新しい家」に帰ることにした。恵玲奈の家に向かう自転車を漕ぎながら俺は考える。確かに俺は恵玲奈のことを「好き」だと思ってたけど、彼女のことを本当に知ってたわけじゃない。今回の試練はただ元に戻るためだけじゃなく、俺に何か大事なことを教えてくれるのかもしれない。

 家に着くと桃梨が玄関で出迎えた。「お姉ちゃん、遅い! 今日なんか変だったよね。ママも心配してたよ」

「変って……ハハ、ちょっと疲れてただけだよ。ご飯できてる?」 俺は笑ってごまかす。


 夕飯の時間、母親がまた大学受験の話を始めたけど、俺は適当に相槌を打ちながら頭の中ではヤマモモの樹のことばかり考えていた。恵玲奈の言う通りもっと調べないとな。学校の資料だけじゃ足りないなら、街の図書館とか、郷土史を研究してる人に話を聞くとか……何か手がかりが見つけないと。


 その夜、俺は恵玲奈のベッドに横になりながらスマホで「ヤマモモの樹 伝説」と検索してみた。ネットには似たような恋愛伝説の話がいくつか出てくるけど、どれも曖昧で具体的な情報はなし。やっぱりこの学校のヤマモモの樹は特別なのかもしれない。

 ふと恵玲奈のスマホに通知が来た。LINEを開くと、クラスメイトからのメッセージ。「恵玲奈、明日は及川くんと一緒に委員会の準備するんだよね? 頑張ってね~ 」

 「マジか……」 俺は思わず呟いた。クラスメイトからこんなメッセージが来るなんて友達ってレベルじゃなくね? 恵玲奈、ホントに何も隠してないよな? なんかモヤモヤするけど、今はそれどころじゃない。まずはこの試練を乗り越えることだ。


 俺はスマホを置いて目を閉じた。明日から本気で恵玲奈として生きてやる。そしてヤマモモの樹の秘密を解き明かして、絶対に元の身体に戻ってみせる!!

お久しぶりです。

更新が遅くなって申し訳ございませんでした。

普段の4話分ぐらいの文量を更新しました。

下書きは最後まで書きましたのでこの文量の話をあと3回更新して完結となります。

よろしくお願いいたします。

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