卒業式
まだまだ風が冷たい日の朝。俺はついに高校を卒業する。高校生活を振り返ってみれば、碌な三年間ではなかった。しかし終わり良ければ全て良し、その為に今日俺は告白をする。
この学校の校庭には、なぜか大きな大きなヤマモモの樹が一本だけ立っている。校庭のど真ん中なので普通なら校庭が作られた時に切られているはずなのに、なぜかそびえ立つヤマモモ。
このヤマモモには生徒たちが代々語り継ぐ一つの伝説がある。それは「卒業の日にこのヤマモモの樹の前で告白をすると必ず成功し幸せになる」という伝説だ。
必ずなんてそんな事あるわけがない、しかもこの伝説、昔流行った恋愛シミュレーションゲームにも似たような伝説があった気もするし……
そう思いながらも一縷の望みにかける俺は朝早めに登校し告白をする相手、松井恵玲奈の下駄箱に卒業式が終わったらヤマモモの樹の下に来てほしいと書いた手紙を置いた。
卒業式が始まった。三年間の思い出が……やはり思い浮かばない。正確には良い思い出が浮かばない。何かやったら必ず失敗する、そんな事ばかりだった。
しかしそんな辛い学校生活に一筋の光明が差し込んだのは三年になった時だった。同じクラスになった松井恵玲奈さん、彼女はとてもかわいくて、性格も明るくて優しく、勉強もスポーツも常にクラスの上位グループで彼女の周りにはたくさんの人が集まる……自分とは正反対だった。
そんな彼女に惚れた。それからは彼女に会えるのだけが楽しみで学校に通った。しかしそれも今日でおしまい。自分は専門学校に、彼女は大学へと進む。友達でも、ましてや付き合ってるわけでもないので今日を最後にもうほとんど会うこともなくなるだろう。
俺と彼女が今後も関係を続けるためには、もう眉唾だろうがこの学校の伝説にかけるしかない。
そんな事を考えているうちに卒業式が終わった。
俺はヤマモモの樹に向かう。そこには彼女が待っていた。
「どうしたの?こんなところに呼び出して」松井恵玲奈は言う。
「ごめん、どうしても今日松井さんに伝えたいことがあったんだ」
「なに?早くしてよ。友達も待ってるから」
「松井さん、三年になって同じクラスになった時から好きでした。俺と付き合ってください」俺は頭を下げながら言った。
「ごめんなさい。というかどうして松島くん私と付き合えると思った?一緒のクラスだったけど告白すれば私と付き合えると思えるような出来事一切なかったよね?勘違いもほどほどにしてよ。私行くから。永遠にさようなら」
振られた……それも松井さんの口からあんな言葉が飛び出すなんて……振られるにしてももっと優しい言葉で振られると思ってた……
ていうか「やっぱりヤマモモの伝説なんて噓っぱちじゃないか!!」
俺は大きな声で叫んだ。その瞬間……雷でも落ちてきたかのような衝撃が身体を走り、目の前が真っ白になった。
これでプロローグ部分は終了です。
次話からは入れ替わり生活が始まります。
好きな人と身体が入れ替わった生活はどんな風になるでしょうか?
またなぜ過去に戻ってしまったのか?
色々想像しながら楽しんでいただけると嬉しいです。
次の更新もまた来週金曜日の夜を予定しております。
宜しくお願い致します。