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ラストエピソード

 朝、俺はまた恵玲奈の身体で目覚めた。もうこのルーティンにも慣れてきたけど、胸の重みとスカートのスースー感は毎回新鮮に違和感を突きつけてくる。鏡で恵玲奈の顔を見ながら、今日も桃梨に髪を編んでもらう準備をする。

「お姉ちゃん、最近めっちゃ楽しそうじゃん。なんかいいことあった?」 桃梨が髪を編みながらニヤニヤしてくる。

「え、そ、そんなことないって! 学校が楽しいだけ!」 俺は慌てて誤魔化すけど、桃梨の目がキラキラしてる。こいつ、ほんと鋭いな。バレないようにしないと。


 朝食はパンケーキとフルーツサラダ。恵玲奈の母親が「恵玲奈、受験勉強はどう?」と聞いてくるけど、「順調だよ!」と明るく答えて早々に家を出る。

 順調なわけがないけど、今はヤマモモの樹の試練を解くのが優先だ。勉強は……なんとか後で考える。

 学校に向かう自転車を漕ぎながら、昨日のヤマモモの樹での「お祈り」を思い出す。効果はなかったけど、なんか心が軽くなったのは確かだ。恵玲奈と話す時間が、ただの試練のためじゃなくて、普通に楽しいって感じるようになってきた。って、俺ほんとに恵玲奈のこともっと好きになってきてるな。告白したときとは全然違う気持ちだ。


 学校に着くと、いつものように視線が集まる。恵玲奈の美貌、ほんと反則級だな。教室に入る前に、校舎の入り口で俺の姿をした恵玲奈が待ってた。

「おはよ、松島くん。今日も髪バッチリだね。桃梨、ほんとプロ級だよ。ところで昨日松島くんの妹に『お兄ちゃん、最近なんか優しいね』って言われたよ。普段の松島くん、もっと雑だったんだね?」

「雑って…… 普通だよ、普通!」 俺は笑いながら突っ込む。

 恵玲奈とのこのやり取りなんか日常になってきたな。

「で、今日の作戦は? 昨日ヤマモモの樹にお祈りしたけど、ダメだったよな。もっと何かアクションが必要か?」

「うん、でも、なんか昨日で一歩進んだ気がするんだよね。『真実の心で向き合う』って、もっとお互いのこと知って、ちゃんと信頼し合うことだと思うの。だから、今日もガッツリ話そう! あと文化祭の準備、松島くんちゃんとやってよね。私、いつもリーダーシップ発揮してるんだから!」

「わかった、わかった。リーダーシップな。自分でそう言える自信は凄いな。でも、及川との打ち合わせ、ほんと大丈夫だよな? また友達に変な噂されて疲れるんだけど」

「だから! 及川くんは友達! もう、松島くん、嫉妬深すぎ! そんなエネルギーあるなら、私の成績キープするのに使ってよ!」

「はいはい、了解」 俺は苦笑い。恵玲奈の言う通り嫉妬してる暇あったら試練を解くことに集中しないとな。


 教室に入ると、早速恵玲奈の友達が寄ってくる。

「恵玲奈、今日の弁当何?」「文化祭の出し物、決まった?」 女子トークのハイペースに慣れないけど、なんとか笑顔で対応。

 授業中も、恵玲奈のノートを見ながら彼女の几帳面さに圧倒される。数学の公式、英語の単語リスト、全部キレイに整理されてる。こんなの、俺には絶対無理だ……でも、恵玲奈の将来を台無しにしないためにもなんとか頑張らないと。


 昼休み、文化祭の打ち合わせで会議室へ。及川光がすでにいて資料を広げてる。相変わらずの爽やかスマイル。こいつ、ほんとモテるタイプだな。

「よ、松井。今日もよろしくな。出し物の案、なんかアイデアある?」 及川が気さくに聞いてくる。「う、うん! えっと…カフェとかどうかな? クラスのみんなでスイーツ作ったりして!」 俺は恵玲奈のキャラを意識して明るく提案。カフェなら女子っぽいし恵玲奈っぽいよな?

「お、カフェいいね! 松井らしいアイデアだ。じゃあ、メニューとか予算、リストアップしてみようぜ」

 打ち合わせを進めながら、及川の話すペースに必死でついていく。恵玲奈、いつもこんな感じでサクサク仕事してたんだな。めっちゃ大変じゃん。でも、及川確かにただの友達っぽいな。変な雰囲気とか全然ない。俺のモヤモヤ、ちょっと薄れてきたかも。

「なあ、松井。なんか最近、いつもより天然入ってね? 昨日もボーッとしてたし。まさか、松島と何かあったとか?」 及川が急にニヤッと笑う。

「え!? な、なんもないって! ただのクラスメイト!」 俺は慌てて否定。やばい、なんでみんな俺と恵玲奈のこと気づくんだよ!

「ハハ、冗談だって。でも松島、最近なんか変わったよな。なんか、目立つっていうか。松井と一緒にいるところ、よく見るし」

「そ、そうかな? まぁ、たまたまだよ!」 俺は苦笑い。恵玲奈の社交性を維持するのほんと疲れる……


授業後、ヤマモモの樹の下で恵玲奈と合流。彼女は俺の身体で、なんかスッキリした顔してる。

「松島くん、今日、めっちゃ楽しかったよ! 松島くんの友達と昼休みにゲームの話してさ、意外と盛り上がった! 普段の松島くん、もっと暗かったんだね?」

「暗いって言うな! 普通だよ! でもお前が俺の身体で友達と楽しそうにしてるの、なんか想像したら変な感じだな」

「ハハ、でしょ? 私も、松島くんの身体でバスケやってるとき、みんなが『松島、急に動きキレッキレじゃん!』って驚いてて、それがおかしくて張り切っちゃったよ」

「お前、俺の身体で調子乗んなよ! でも、まぁ楽しそうでよかったわ。俺も今日及川と打ち合わせして、なんか松井さんの大変さわかった。文化祭の準備、めっちゃ頭使うな。」

「でしょ? 私いつもああやってバリバリやってるんだから! だから、松島くん、ちゃんと私のキャラ維持してよ!」

「はいはい、頑張ります。で、今日はなにを話す? 昨日、ヤマモモの樹にお祈りしたけど、ダメだったよな。もっと何かアクション必要か?」

 恵玲奈が俺の身体で、ちょっと考え込むように言う。

「うん、でも、なんか昨日で一歩進んだ気がするんだよね。『真実の心で向き合う』って、もっとお互いのこと知って、ちゃんと信頼し合うことだと思う。だから、今日もガッツリ話そう!」

「ガッツリ話すか。でも、具体的に何? また将来の夢とか?」

「うーん、例えば…松島くん、過去に何か後悔してることある? なんか、『真実の心』って、全部さらけ出すことだと思うから。深い話してみない?」

「わかった。じゃあ話すか」

「うん、昨日、めっちゃ話して、松島くんのことだいぶわかってきた気がする。でもまだなんか足りない気がするんだよね。例えば、松島くん、過去に何か後悔してることある? なんか『真実の心』って、全部さらけ出すことだと思うから」

「後悔か……うーん、ぶっちゃけ、告白したこと自体は後悔してないけど、あのとき、もっとちゃんと松井さんのこと知ってから話しかければよかったな、とは思う。なんか、ビビって、ろくに話せなかった時期が長かったから」

「へー、松島くんビビりだったんだ! ハハ、でもわかるよ。私も実は後悔してることがあるんだ。中学のとき親友とちょっとしたことで喧嘩して、ちゃんと謝れなかったこと。大学行ったら、また会えるかなって思ってるけど、なんかモヤモヤしてる」

「マジか……松井さんにもそんなことあるんだな。なんか、完璧な人かと思ってたから、意外だわ」

「完璧なんてないよ! 私だって、めっちゃ悩むし、失敗もする。でもこうやって話してると、なんかそのモヤモヤも軽くなる気がする。松島くんは? 話しててなんか変わった?」

「うん、なんか松井さんのこと、ただの憧れじゃなくて、ちゃんと『人』として見れるようになった。告白したときは、勝手に理想化してたけど、今は松井さんのダメなとこも含めて、好きだなって思う。」

「え、急にガチな告白!? ハハ、松島くん、顔赤いよ! でも、ありがと。私も、松島くんのこと、ただのクラスメイトから、めっちゃ大事な友達って感じるようになった。これが『真実の心』に近づいてるのかな?」

「かもな。じゃあもう一回、ヤマモモの樹にお祈りしてみる? なんか、昨日より気持ち整理できてる気がする」

「いいね! やろう!」

 俺たちはまたヤマモモの樹の前に立つ。夕陽が樹を赤く染めて、なんか昨日より神聖な感じがする。目を閉じて、二人で心からお願いする。

「ヤマモモの樹の神様、俺たちを元に戻してください。松井さんとこうやって向き合えたのは大事な時間でした。ありがとうございます。でも、そろそろ自分の身体に戻りたいです!」

「私も松島くんと話して、自分を見つめ直すことができました。試練、ありがとうございました。でも元に戻して! お願い!」

 風が吹いて、葉がザワザワ揺れる。昨日と同じだけど、なんか違う感覚。身体がフワッと軽くなって、急に目がくらむ。次の瞬間、俺は……自分の身体に戻っていた。

「うお、マジ!? 戻った!?」 俺は自分の手を触って確認。胸の膨らみがない! 股に……棒がある! 俺だ!

「松島くん! 私も! 戻ったよ!」 恵玲奈が自分の身体で、めっちゃ嬉しそうに笑ってる。

「やった! マジで! ヤマモモの樹、すげえ!」 俺たちはハイタッチして、めっちゃ跳ねる。でも、喜びの後ふと恵玲奈が真剣な顔で言う。

「ね、松島くん。試練終わったけど、こうやって話すの続けたいよね?」

「当たり前だろ! お前、俺の大事な……友達、だもん。つか、いつかまた告白させてくれよ。今度はちゃんと、松井さんを全部知った上でな」

「ハハ、松島くん、懲りないね! でも、うん、いつかまたちゃんと向き合おうね」

 夕陽に照らされたヤマモモの樹の下で、俺たちは笑い合った。試練は終わったけど、新しいスタートが始まった気がした。


読んでいただき、ありがとうございました。

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