ヤマモモの樹の伝説探求3
次の日、俺はまた恵玲奈の身体で朝を迎えた。もう何日目だ? だんだんこの身体での生活に慣れてきた気がするけど、やっぱり自分の身体に戻りたい気持ちは変わらない。
鏡に映る恵玲奈の顔を見ながら、今日も桃梨に髪を編んでもらう準備をする。
「お姉ちゃん、最近ほんと変だよね。なんかいつもよりボーッとしてるっていうか」 桃梨が髪を編みながら言う。
「ハハ、そ、そうかな? 新学期でちょっと疲れてるだけだよ」 俺は笑って誤魔化すけど、桃梨の鋭い視線が気になる。この子、ほんとバレないようにしないとヤバいな。
朝食を済ませ、自転車で学校へ。今日は恵玲奈の友達グループとのランチが予定されてるらしく、スマホのLINEに「恵玲奈、今日のお弁当何?」「カフェの新メニューの話したい!」とかメッセージがバンバン入ってる。女子の社交、めっちゃ忙しいな……俺、こんなペースで会話できるかな。
学校に着くと、いつものように視線を感じる。恵玲奈の美貌はほんと目立つ。教室に入る前に、校舎の入り口で俺の姿をした恵玲奈が待ってた。
「おはよ、松島くん。今日もちゃんと髪編んだね。桃梨、ほんと優秀だよ」 恵玲奈がニヤニヤしてる。「お前も俺の身体で変なことすんなよ。昨日、妹に『女っぽい』って言われたの、まだ尾を引いてるからな。」
「ハハ、ごめんごめん! でも、松島くんの妹、めっちゃ面白いよ。昨日、『お兄ちゃん、最近隠し事してるでしょ』って探ってくるから、めっちゃ焦った!」
「マジか…。お前、なんか怪しまれるようなことしただろ?」
「してないって! それより、今日も放課後ヤマモモの樹の下で話そう。昨日、結構いい感じだったよね」
「ああ、確かに。なんかお前のこと少しわかってきた気がする。でも、まだ試練解ける気配ないよな。」「うん、だからもっとガッツリ話そう! 今日こそ、なんか突破口見つけるよ!」
授業中、俺は恵玲奈のノートを眺めながら、昨日の会話を思い出す。「互いの心を真に理解する」って、確かに昨日は恵玲奈の夢や悩みを聞いて、彼女がただの「完璧な美少女」じゃないってわかった。でも、それだけでいいのか? ノートの端に、恵玲奈の几帳面な字で「心理学の論文リスト」みたいなメモが書いてあって、改めて彼女の真面目さに圧倒される。こんなの、俺には絶対無理だ。
昼休み、恵玲奈の友達グループと一緒に教室で弁当を広げる。みんなが「恵玲奈、最近なんか天然入ってるよね!」とか「及川くんと委員会、進んでる?」とかワイワイ話してくる。
及川の話題が出るたびにモヤッとするけど、恵玲奈が「友達」と言い切ってる以上、信じるしかない。
「ねっ恵玲奈、週末カラオケ行かない? ストレス発散しようよ!」 一人の子が提案してくる。
「カラオケ? う、うん、いいね! でも、ちょっと予定確認するね」 俺は慌てて答える。
カラオケか…恵玲奈、どんな歌歌うんだろう。てか、俺、彼女の声で歌えるのか? 想像しただけで緊張する。
「恵玲奈、最近忙しそうだよね。受験勉強? それとも恋愛?」 別の子がニヤニヤしながら聞いてくる。
「恋愛とかないって! 受験……うん、受験だよ!」 俺は必死に誤魔化す。ほんと、女子の会話って一瞬の隙も許してくれないな。
放課後、ヤマモモの樹の下で恵玲奈と合流。彼女は俺の身体で、なんか疲れた顔してる。「松島くん、今日、めっちゃキツかったよ! 数学の小テスト、めっちゃ難しくてさ。私の頭なら余裕だったけど、松島くんの脳みそだと……ごめん、めっちゃ苦戦した」
「おい、俺の脳みそバカにするなよ! ていうか脳みそ関係あるのか?記憶とか完全に入れ替わってるのに?でも、松井さんの成績キープするの、俺もマジで無理だわ。今日、友達に『恵玲奈、なんかボーッとしてる』って言われて、めっちゃ焦った」
「ハハ、わかる! 私も松島くんの友達に『最近、なんか積極的じゃね?』って言われてさ。普段の松島くん、もっと地味だったんだね」
「地味って言うな! 普通だよ、普通!」 俺は笑いながら突っ込む。なんか、恵玲奈とこうやって話すの、だんだん楽しくなってきた。
「で、今日はどんな話する? 昨日は将来のこととか話したけど、もっと深い話、してみない?」
「深い話って、例えば?」
「うーん、例えば……松島くん、なんで私のこと好きになったの? 告白されたとき、ほんとびっくりしたから、なんか理由知りたいな」
「うお、急にガチな質問!?」 俺は動揺する。けど、試練を解くには全部ぶっちゃけるしかないよな。「えっと……ぶっちゃけ、最初は見た目だった。松井さん、めっちゃ可愛いし、目立ってたから。でも、三年になって同じクラスになって、勉強もスポーツもできて、いつも明るくて、友達もいっぱいいて……なんか、俺と正反対で憧れたんだよ」
「へー、見た目か! まぁ、素直でいいね」 恵玲奈が笑う。
「でも、憧れってだけで告白したんだ? 」
「いや、ほんと、松井さんに会えるのが学校行く唯一の楽しみだったんだよ。告白したのだって、卒業したらもう会えなくなると思って、ヤマモモの伝説にすがっただけだし……」
「ふーん。ごめんね、告白のとき、めっちゃ冷たくしちゃって。あの時はほんとパニックだったんだよ。松島くんのことほとんど知らなかったから、なんで私?って思っちゃって」
「いや、いいよ。確かに、俺もお前のこと、ちゃんと知ろうとしなかったし。で、松井さんは? どんな奴がタイプとか恋愛の話、聞かせてよ。試練のためだぞ!」
「えー、ずるい! 私にもガチな質問!?」 恵玲奈が顔を赤くする。
「うーん、タイプかぁ……正直、恋愛とかあんまり考えたことないよ。受験もあるし、親にも『今は勉強!』って言われてるし。でも強いていうなら、誠実でちゃんと自分の夢持ってる人、かな。及川くんみたいなチャラいのは、友達としてはいいけど、恋愛対象じゃない」
「及川、チャラいのか! でも、なんか安心したわ」 俺はホッとする。
「じゃあ、俺、誠実さで勝負すればワンチャンあったかな?」
「ハハ、松島くん意外と図々しいね! でも今こうやって話してると、悪くないかもって思ってるよ。試練解けたら、ちゃんと向き合ってみる?」
「え、マジ!? それ、告白やり直したらOKしてくれるってこと!?」 俺は思わず身を乗り出す。
「バーカ! まだそこまでは言ってないよ! ただ、松島くんのこと、もっと知りたいなって思ってるだけ!」 恵玲奈が笑いながら俺の肩を叩く。
俺の身体なのに、なんかその仕草めっちゃ恵玲奈っぽいな。
その後も、好きな映画とか、子供の頃の思い出とか、いろんな話をした。恵玲奈が小さい頃、父親とよくキャンプに行った話とか、俺が中学生のとき、ゲームにハマりすぎて親に怒られた話とか、くだらないけどなんか心が近づいていく気がした。話してるうちに、夕陽がヤマモモの樹を赤く染めてた。ふと、恵玲奈が真剣な顔で言った。
「ね、松島くん。この試練、ほんとに『愛を完成させる』ってことなら、ただ話すだけじゃ足りないかも。例えば、ヤマモモの樹にもう一回、なんかアクション起こすとか?」
「アクション? 例えば、また告白するとか?」
「うーん、それもアリだけど……なんか、もっと『真実の心』っぽいこと。ノートに書いてあったじゃん。『心に偽りがない』って。私、松島くんのこと好きになれるか、まだわかんないけど……でも、こうやって話してて嫌いじゃないよ。だから二人でヤマモモの樹になにかお願いしてみない?」
「お願い? なんか、急にオカルトっぽいな……」
「だって、この状況自体オカルトじゃん! ほら、やってみる価値はあるよ!」恵玲奈の勢いに押されて、俺たちはヤマモモの樹の前に立つ。樹はでっかくて、夕陽に照らされてなんか神聖な雰囲気すら漂っている。俺、こんな気分は初めてだ。
「えっと…じゃあ、なんて言う?」
「うーん、シンプルに、『私たちを元に戻してください。でも、こうやって出会えたことに感謝します』とか?」
「それ、めっちゃいいな。じゃあ、行くぞ。」俺たちは目を閉じて、ヤマモモの樹に向かって手を合わせた。
「ヤマモモの樹の神様……いや、なんでもいいや。俺たちを元に戻してください。こんな変な試練、大変だったけど、松井さんとこうやって話せたのは、めっちゃよかったです。ありがとうございました」
「私も松島くんと出会えて、いろんなこと知れて楽しかったよ。元に戻してほしいけど、この時間は無駄じゃなかった。お願い、元に戻して!」
二人でそう呟いた瞬間、急に風が吹いて、ヤマモモの葉がザワザワ揺れた。なんか、身体が軽くなった気が……でも、目を開けると俺はまだ恵玲奈の身体だ。恵玲奈も俺の身体のまま。
「……ダメだったか?」 俺はがっかりする。
「うーん、でも、なんかスッキリした! もうちょっと、向き合う時間が必要なのかも。焦らず、明日も話そうよ
」「そうだな。なんかお前と話すの、ほんと楽しいわ」
「ハハ、松島くん急に素直! じゃあ、明日もここでね!」
その夜、恵玲奈の家に帰ると桃梨が「お姉ちゃん、今日なんか楽しそうだね」とニヤニヤしてくる。やばい、なんかバレそうな雰囲気。
俺は「ハハ、そ、そうかな!」と誤魔化して部屋に逃げ込んだ。
ベッドに寝転がって、今日のことを考える。ヤマモモの樹へのお願い、効果なかったけどなんか心が軽くなったのは確かだ。恵玲奈の言う通りもっと時間が必要なのかも。てか俺、恵玲奈のこと、ほんとに好きになってきた気がする。告白のときとは違う、もっとリアルな気持ちで。スマホを手に取ると、恵玲奈のLINEにまた友達からのメッセージ。「恵玲奈、明日及川くんと文化祭の打ち合わせ、頑張ってね~ 」
うっまた及川か。いや、信じよう。恵玲奈は友達だって言ってるんだから。俺はスマホを置いて、目を閉じた。明日も、恵玲奈とガッツリ話して、試練の突破口を見つけ出すぞ。
次回が最終話です。