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ヤマモモの樹の伝説探求2

 翌朝、俺は恵玲奈の身体で目覚めた。昨日と同じく、胸の膨らみと股の違和感が現実を突きつけてくる。まだ慣れないけど、グズグズしてる暇はない。今日は学校で恵玲奈の生活を「ちゃんとやる」初日だ。しかも昨夜のLINEで見た及川との委員会の件が頭から離れない。友達だと言い張る恵玲奈を信じたいけど、なんかモヤモヤする。


 洗面所で顔を洗い、歯を磨く。鏡に映る恵玲奈の顔は寝起きでもやっぱり可愛い。いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。問題は髪だ。昨日恵玲奈に「毎日ちゃんと結んで」とキツく言われたけど、あの編み込みなんて俺にできるわけがない。とりあえずポニーテールにでもするかと髪を梳かしていると、桃梨がドアから顔を覗かせた。

「お姉ちゃん、髪どうしたの? いつもみたいに編み込みしないの?」「え、うっうん今日は気分を変えてみようかなって!」 俺は適当に誤魔化す。「ふーん、でもそれじゃお姉ちゃんぽくないよ。ほら貸して。私がやってあげる。」

 桃梨が俺の手からブラシを奪い、慣れた手つきで髪を編み始めた。「お、お前こんなのできるのか?」 俺は驚きつつ鏡越しに桃梨の手元を見る。

「当たり前でしょ。お姉ちゃんがいつもやってるの見て覚えたんだから。でもなんか昨日からお姉ちゃん変だよね。遅刻したり髪結ばなかったり。なにかあった?」「いや、別に何もないよ。 ちょっと……新学期で緊張しただけ」 俺は笑ってごまかすけど、桃梨の鋭い視線にドキッとする。こいつ、めっちゃ観察力あるな。恵玲奈の妹、侮れない。


 髪を編み終えた桃梨に礼を言い制服に着替える。ブラジャーとスカートの装着は昨日より少し慣れたけど、やっぱりスカートのスースー感は落ち着かない。化粧は……やっぱりパス。恵玲奈、普段どのくらい化粧してるんだ? わかんねえよ。

 

 朝食はトーストとスクランブルエッグ。母親がまた「受験勉強頑張りなさいよ」と言うけど、俺は「うん、頑張る!」と元気に答えて早々に家を出た。恵玲奈の成績をキープするなんて無理ゲーだけど、まずはこの入れ替わりを解くのが先だ。勉強はその後考えよう。


 学校に着くと、早速視線を感じる。昨日と同じく、恵玲奈の美貌に注目が集まってるのだろう。ちょっと得意げに歩きながら自転車を停めていると、校舎の入り口で俺の姿をした恵玲奈が待っていた。

「おはよ、松島くん。髪ちゃんと編んだね。偉い偉い。」 恵玲奈がニヤッと笑う。

「いや、俺じゃなくて桃梨がやってくれたんだよ。あいつめっちゃ手際いいな。松井さんの妹侮れないぞ。」

「ふふ、桃梨は私の自慢の妹だからね。……でも松島くんの妹さんもなかなか手強いよ。昨日、晩御飯のとき『お兄ちゃん最近変だよ。なんか女っぽい動きしてる』って言われてさ。焦ったんだから!」

「マジか……お前俺の身体でどんな動きしてんだよ!」

 俺は笑いながら突っ込むけど、内心妹の観察力にビビる。こりゃ家族にもバレないように気をつけないと。


「それより今日の予定は? 昨日、図書室でちょっと手がかり掴んだけどまだ足りないよな。もっと調べるか?」

「うん、授業後にまた図書室行くのはいいけど……その前に松島くん、私の生活ちゃんとやってよね。今日、委員会の準備があるから。私いつも率先して動いてるんだからサボらないで!」

「委員会って及川と一緒のやつだろ? あれ、ホントに友達ってだけでいいんだよな?」 俺はつい探るように聞いてしまった。

「だから! 及川くんとは何もないって! ただクラス委員として一緒に仕事してるだけ。松島くんしつこいよ!」 恵玲奈がムッとした顔で言う。

「わ、わかったよ、信じるって。じゃあ、俺、ちゃんと委員会やるから、お前も俺の生活ちゃんとやれよ。特に妹に変な誤解されないように気をつけろ!」

「はいはい、わかったよ。じゃ授業後ヤマモモの樹の下でね!」 恵玲奈はそう言って教室に向かった。


 教室に入ると早速クラスの女子たちが寄ってきた。

「恵玲奈、今日の髪桃梨ちゃんがやったの? めっちゃ可愛い!」

「ね、委員会の準備及川くんとどうする? なんか楽しそうな雰囲気じゃん!」 みんなニヤニヤしてる。やっぱり及川の噂、根強いな……

「いや、ホントに普通に仕事するだけだから! 変な想像しないで!」 俺は必死に否定するけど、女子たちの「ふーん、照れてる~」みたいな反応に疲れる。恵玲奈の社交的なキャラ、維持するの大変すぎるだろ。

 授業が始まっても、俺の頭はヤマモモの樹のことでいっぱいだ。昨日の学校新聞の記事「真実の心で向き合う」って言葉が引っかかる。向き合うって、具体的に何をすればいいんだ? 恵玲奈の提案通り、お互いの生活をちゃんとやって、相手を理解することなのか? でも、それだけで入れ替わりが解ける保証はないよな…。


 昼休み、委員会の準備のために会議室に向かう。そこにはすでに及川光がいて、書類を整理していた。及川は長身で爽やかな笑顔が女子に人気の理由だろう。俺の身体のときにはあんまり話したことなかったけど、今は恵玲奈として接しないといけない。緊張するな……

「よ、松井。遅いじゃん。準備、始めようぜ」 及川が気さくに声をかけてくる。

「あ、うんごめんね! じゃあ早速やりましょう!」 俺は恵玲奈っぽく明るく振る舞おうと頑張る。

 準備の内容は文化祭のクラスの出し物を決めるための資料作り。恵玲奈はこういうの得意らしいけど、俺にはハードル高い。

 及川が「去年の資料見て今年の予算に合わせて調整しよう」とか言うけど俺、予算とか全然わかんねえよ……

「なあ松井、なんか今日いつもよりボーッとしてない? 大丈夫か?」 及川が心配そうに聞いてくる。

「えっうそ、めっちゃ元気なんだけど! ただ、ちょっと考え事してただけだよ!」 俺は慌てて笑顔を作る。

「ふーん、まぁ松井にもそんな日もあるか。そういえば松島ってやつ最近お前と仲良くね? 昨日も遅刻一緒にしたりしてたし」

「え!? 仲良いって……別に普通だよ! ただのクラスメイト!」 俺は動揺しながら答える。

 やばい、恵玲奈と俺の行動が目立ってるのか?

「ハハ、冗談だって。そんな焦らなくても。でも松島なんか変わったよな。昔は目立たないやつだったのに最近なんか存在感出てきた気がする。」

「そ、そうかな?」 俺は苦笑い。俺の身体に恵玲奈が入ってるんだから、そりゃ存在感出るわ。

 準備を進めながら及川の話を聞く。意外と気さくで話してて嫌な感じはしない。確かに恵玲奈が「友達」と言うのも納得だ。でも女子たちの噂や母親の言葉を考えるとまだちょっと疑ってしまう。俺こんな嫉妬深い性格だったっけ? 恵玲奈の身体の影響か?


 放課後、ヤマモモの樹の下で恵玲奈と合流。彼女は少し疲れた顔をしてた。

「松島くん、今日めっちゃ大変だったよ! 体育でバスケやったんだけど、松島くんの身体めっちゃ動き悪い! シュート全然入らないし、男子に笑われたんだから!」

「おい、俺の身体、別にそんな悪くないだろ! お前が下手なだけじゃ?」

「下手じゃないよ! 私の身体なら余裕で決まってたもん! もう、早く元に戻りたい……」 恵玲奈がグチる。

「まぁ、気持ちはわかる。俺も委員会でヒヤヒヤだったよ。及川と一緒に準備したけど、予算とか全然わかんなくてさ。松井さん普段どうやってあの仕事やってんの?」

「え?及川くんと上手くやれたの? よかったじゃん。私いつもああいうのサクサク進めちゃうけど、松島くんにはハードル高かったかな?」

「高すぎるわ! つか及川、めっちゃ気さくに話しかけてくるな。あいつホントにただの友達か?」

「だから! 何もないって! もう松島くん疑いすぎ! それより図書室行こう。今日こそ何か見つけるよ!」

 俺たちは再び図書室へ。昨日見つけた学校新聞の手がかりを元にもっと古い資料を探す。司書の先生が「古いものは倉庫にしまってあるかも」と教えてくれたので許可をもらって倉庫に潜り込んだ。倉庫は薄暗くてカビ臭い。

 古い段ボール箱を漁ると、1950年代の手書きのノートが出てきた。表紙には「有楽高校の伝説」と書いてある。ページをめくるとヤマモモの樹についての記述がびっしり。

「これだ!」 恵玲奈が興奮気味に言う。

 ノートにはヤマモモの樹が学校創立時に植えられたこと、その木に「恋の神様」が宿ると信じられていたことが書かれていた。特に気になる一節があった。

「ヤマモモの樹は愛を試す。告白が真実の心に基づくものであれば結ばれるだろう。しかし心に偽りがある場合、樹は試練を与え魂を入れ替える。試練を乗り越えるには互いの心を真に理解し愛を完成させねばならない。」

「魂を入れ替える! これ、完全に私たちのことじゃん!」 恵玲奈が叫ぶ。

「愛を完成させる? え、俺たち付き合わないとダメってこと?」 俺は唖然とする。

「うそ、さすがにそれは……でも『互いの心を真に理解する』って部分が大事なんじゃない? やっぱり私たちがお互いの生活をちゃんとやって相手を理解しないとダメってことだよ!」

「それ昨日も言ってたけど、具体的にどうすりゃいいんだよ? もうすでに相手の家で生活してるじゃん。」

「うーん、もっと深いレベルで……かな。例えば松島くんの夢とか将来のこととか、私全然知らないよ。逆に私のことも松島くん、ちゃんと知ろうとしてなかったよね?」

「う、確かに……」 俺は返す言葉がない。恵玲奈の言う通り俺は彼女の表面しか見てなかった。

「じゃあ、もっと話そうよ。お互いのこと全部ぶっちゃけて。そしたらなんか見えてくるかもしれない!」

「話すって今ここで?」

「ううん、今日はもう遅いし頭整理したいから、明日またヤマモモの樹の下でね。ちゃんと時間作って、じっくり話そう!」

「わかった。でも松井さん、ホントに及川のこと、隠してないよな?」 俺はついまた聞いてしまった。

「もう! しつこい! 及川くんは友達! それより松島くん、私の身体で変なことしてないよね? お風呂とかちゃんと目つぶってる?」

「目つぶってるって! つうか昨日、お前の妹に勘繰られたしやはり家族は自分の事よく知ってるからお前も気をつけてくれよ!」「ハハ、桃梨はめっちゃ勘がいいからね。了解、気をつけるよ!」

 もちろん目をつぶってお風呂に入れるわけないので恵玲奈の素敵な身体はいっぱい拝ませもらってます。ごめんない、そしてありがとう!


 その夜、俺は恵玲奈の部屋でノートを読み返した。「愛を完成させる」って言葉が頭から離れない。付き合うって意味じゃないとしても、俺と恵玲奈がもっと深い絆を作らないと、この試練は解けないのかもしれない。

 でも俺、告白して振られたばっかりだぞ。こんな状況でどうやって「心を理解」しろってんだ?

 ふと恵玲奈の机に置いてあった日記が目に入った。読むのはまずいよな……でも彼女のことを理解するには、これが一番手っ取り早いかも。いや、ダメだ! そんなことしたら信頼ゼロだ。俺は日記を手に取ったけど、結局開かずに元に戻した。

 代わりに恵玲奈のスマホを手に取る。LINEをチェックしてみた。クラスメイトからのメッセージには確かに及川との噂がちらほら。でも、恵玲奈の返信は全部「友達だよ!」とか「誤解しないで!」みたいな内容。ちょっと安心したけど、まだモヤモヤは消えない。

 ベッドに入りながら俺は考える。明日恵玲奈とじっくり話すって言ってもどこから話せばいいんだ?

 俺の夢? ぶっちゃけ専門学校行ってなんか面白い仕事できればいいな、くらいしか考えてなかった。恵玲奈は大学目指してるしめっちゃ真剣に将来のこと考えてそう。こんな俺のこと、ちゃんと話しても笑われないかな……でも、試練を解くには恥ずかしくても全部ぶっちゃけるしかない。俺は目を閉じて明日の覚悟を決めた。


 翌朝、俺はまた桃梨に髪を編んでもらい学校へ。教室に入ると及川が「よ、松井! 今日も委員会、よろしくな!」と声をかけてきた。めっちゃフレンドリーだな、こいつ。恵玲奈が「ただの友達」って言うのもなんか納得できる気がしてきた。

 授業中、俺は恵玲奈のびっしり書かれたノートを見て改めて彼女の真面目さに驚く。こんなの俺には絶対書けない。成績キープするの、マジで無理だな……でも、恵玲奈の将来を台無しにしないためにも、なんとか頑張らないと。

 昼休み、俺は恵玲奈の友達と一緒に弁当を食べる。みんなが「恵玲奈、最近なんか天然っぽいね!」とか笑ってるけど、なんとか誤魔化して会話に参加。女子トーク、想像以上に疲れる……でも恵玲奈がいつもこんな感じで友達と楽しそうに話してるんだと思うと、ちょっと彼女の日常がわかってきた気がした。


 授業後、ヤマモモの樹の下で恵玲奈と落ち合う。彼女は俺の身体で、ちょっと汗臭い。体育があったらしい。

「松島くん、準備できた? 今日、ガチで全部話すよ!」

「うん、俺も覚悟を決めた。でも、どこから話せばいいんだ?」

「じゃあ、私から言うね。えっと実は私、大学に行って心理学を勉強したいんだ。人の心とか、なんでこうなるのか、凄く興味あって。でも親には『心理学を学んで何か就職に有利になるの?もっと安定した職業につける進路にしなさい』って言われてて、ちょっとプレッシャー感じてる」

「心理学!? めっちゃ意外! てか松井さん、頭いいからどんな大学でも余裕で行けそうだけどな」

「そんなことないよ。私だって勉強すっごい頑張ってるんだから。で、松島くんは? 将来どんなことしたいの?」

「俺? うーん……ぶっちゃけ専門学校に行ってなんかクリエイティブな仕事できたらいいな、くらいしか考えてなかった。ゲーム作るとか、映像編集とか、なんか楽しそうなやつ。でも、具体的な目標とか、実はあんまり……」

「へー、クリエイティブ系! いいじゃん! 松島くん、なんかそういうの似合いそう。でも……さ。告白されたとき、松島くんのこと全然知らなかったから、びっくりしたんだよね。もっと前から話してたら、違ったかも」

「え、マジで!? いや、でもあの振られ方はキツかったぞ」

「う、ごめん! あのときは、なんか急に言われてパニックだったんだよ。でも、今こうやって話してると、松島くん結構面白い人だねって思ってる」

「面白い人って……褒めてんのか、けなしてんのかわかんねえな!」 俺は笑う。

 なんか、恵玲奈と話してると告白の傷が少しずつ癒えてくる気がする。その後も好きな音楽とか、休日の過ごし方とか、くだらないことから真剣なことまでめっちゃ話した。恵玲奈が意外とアニメ好きだったり知らなかったことがどんどん出てくる。話してるうちに恵玲奈が「完璧な美少女」じゃなくて、ちゃんと悩みとか夢とか持ってる普通の人間だってことがわかってきた。

「なんか、こうやって話すの悪くないね」 恵玲奈が笑う。

「だろ? でも、これで試練解けるのかな? 『心を理解する』ってこんな感じでいいのか?」

「わかんないけど……なんか、昨日より松島くんのこと近く感じるよ。こうやって毎日話してたらもっとわかり合える気がする!」

「じゃあ、明日もここで話すか」

「うん、話そ」

 俺たちは笑いながらヤマモモの樹の下を後にした。まだ入れ替わりは解けてないけど、なんかちょっと希望が見えてきた気がした。

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