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文具店デート2




 笑顔全開で歩くランティス様と、カチコチの身体で歩くわたくし。ランティス様に優しく握られたわたくしの手は、はやくも汗ばんできた。


 どうしましょう。これがデートというものなのね?!


 元婚約者にないがしろにされていたため、実はデートの経験がまったくなかった。知識としては知っていたし、憧れてもいたのだが……。


 どうしたらいいのかしら??


「リシュア? 大丈夫?」


 挙動不審過ぎたのか、ランティス様が顔を覗き込んでくる。


「へっ? あっ、だい、大丈夫ですわ。えっと、あの、日記帳! ランティス様、日記帳を買いたいのですよね? ノートはこちらにありますわ!!」


 デートという単語に意識を持っていかれてる最中に、ランティス様の美しい(かんばせ)が目の前に現れるというダブルパンチをくらったわたくしは、頭をフル回転させた。


 その結果、なぜ、文具店に訪れたのかという理由を思い出したのだ。


 ノートの絵が描かれた額縁に向かってズンズンと進む。ショーケースの手前まで来たわたくしは、振り返ってランティス様に告げた。


「ランティス様、こちらですわ」


 遠い距離を歩いたわけでもないのに、わたくしはハーハーと息を切らしていた。なぜ、こんなにも息が上がっているのか、不思議に思いつつもランティス様を見上げる。


 すると、ランティス様は幸せそうな、嬉しそうな笑顔でわたくしを見つめていた。


「ランティス様?」

「ああ、うん。ありがとう」


 そうお礼を述べながら、ランティス様の目線は下がっていく。わたくしもつられて下を向くと、ランティス様の手をぎっちりと握っているわたくしの手が目に入った。


 ぎゃーっ!!!


 わたくし、何をやっているの?! もしかしてランティス様を思いっきり引っ張って来たのではないの!?


 思わず自分の手を離そうとしたが、ランティス様に握り返されて阻止される。


「大変失礼いたしました!!」

「ん? なんのこと?」


 手を離そうと試行錯誤してみるが、繋がれた手と手が離れることはなく、じゃれているようにしか見えない。


「ラ、ランティス様、手を……」


 困り果てたわたくしは言葉で訴えたが、ランティス様はそのままショーケースの方へ目線を移してしまった。


「いろんなデザインがあるね。色も綺麗だな」

「あ、あの……ランティス様」


 声をかけるが、ランティス様はショーケースを覗き込むばかりで答えてくれない。わたくしはため息をついて諦めた。


 ショーケースを眺めるランティス様を見守っていると、ランティス様が振り向いた。


「リシュアは日記をつけてる?」

「いえ、つけておりませんが?」

「一緒に書いてみない?」

「日記を……ですか?」


 そう言うとランティス様が顔を近づけた。少しビックリしたが、どうやら耳打ちをしたいらしい。わたくしはランティス様の声が聞こえるように耳をすました。


「僕、思ったのだけど、リシュアは色々な記憶を持っているだろう? 頭で覚えているだけでは混乱すると思うんだ。だから、一日の終わりに何があったのか日記に書き記すんだよ。どうかな? やってみない?」


 ランティス様の提案に、わたくしはなるほどと感心した。


 確かに5年間の記憶を思い出すのに苦労したのだ。しかも5年前の記憶など割とあやふやなものだった。


 それに、わたくしには17歳までの記憶がある。未来を見たのか、過去に戻ったのか、今となってはよくわからなくなっていた。


 この前も少し先の未来を見てきたことだし、日記をつけて記録しておいたほうが良いかも知れない。


 ランティス様のように日記をつけていれば、いつ、どこで、何があったのか、日記を見れば一目瞭然なのだから。


「そうですわね。書いてみましょうか」

「よし。じゃあ、リシュアの分も買おう。どのデザインにする?」

「ええっと、そうですね」


 ショーケースを覗き込む。シンプルなものから、可愛らしいもの、重厚感のあるデザインもあって、見るだけでもなかなか楽しい。


「好きな色は?」

「う~ん。黄色でしょうか」

「今日のスカートも鮮やかな黄色だものね。すごく似合ってる。ノートも黄色にしようか?」


 なんだかサラッと褒めてくる。馬車に乗る前にも散々褒め称えてくれたので、もうないと思っていたのに、何この不意打ち。こわい。


 今日のわたくしは、立て襟の白いブラウスに首元は黒のリボンを巻き、黄色のフリルスカートを着用していた。


「ありがとうございます。でも、そんなに褒めなくても大丈夫ですよ?」

「似合っているのだから仕方ない。髪型だって最高だ。リシュアとおそろいなんて」

「わ、わたくし、その可愛いデザインの黄色にしますわ! ランティス様はどれになさいます?」


 ランティス様が褒め殺しモードに入ろうとしたので、わたくしは慌ててショーケースの中の商品を指差した。


 表紙の角に可愛い花の絵が描かれているシンプルなデザインのノートだ。


「ああ、かわいいね。では、僕は同じデザインの青色にしようかな」


 嬉しそうに微笑むランティス様は、店員を呼ぶと手早く注文を済ませる。


「他にもなにか見て回ろうか」

「はい」


 その後は、万年筆の書き心地を確かめたり、色鮮やかなインクのコーナーを見て回った。


 その間も手は繋がれたままだったが、わたくしも慣れてきたのか、緊張よりも楽しさが勝った。


 結局、わたくしは日記帳を一冊買っただけだった。しかも、ランティス様がプレゼントしたいと言ったので、支払いはランティス様がしてくれた。


 ランティス様は日記帳に加えて、青色に銀色のラメが入った万年筆と青色のインクを購入した。


 店員が丁寧に包んでくれるのをぼんやりと眺めていたが、ひとつ気づいたことがあったので、ランティス様に何気なく聞いてみる。


「ランティス様は青色がお好きなんですね?」

「うん。大好きだよ。銀色も大好き」

「そうなんですね。綺麗なお色ですものね」

「そうだね。でも好きになったのは最近なんだ。だからこれから増やしていくよ」

「? そうなんですか?」


 好みは変わっていくものだとは思うけど、なにかあったのかしら?


 そう思って口を開こうとした時、ランティス様からとんでもない発言が飛び出し、わたくしは固まってしまった。


「だって、リシュアの色だから」

「へ?」

「銀色に輝く美しい髪に、キラキラと眩しい青い瞳。すべてリシュアの色だから大好きだよ」

「……!」


 突然の告白に対応できない。わたくしは口をパクパクさせるだけで、声にならなかった。


 顔が熱い。きっと、真っ赤になっているに違いない。


 ランティス様のニコニコ笑顔を見ていられなかったわたくしは視線を外したが、そこでやっと、店員や他の客に生暖かい目で見られていることに気づいた。


 いやぁぁぁぁぁ!!! 恥ずかしい!!!


 顔を手で覆ったが、何もかも手遅れだった。


 別に増やさなくてもいいのではと、内心思いつつも相槌を打っていた数秒前の自分に戻って告白を阻止したかったが、神縁は発動しなかった。





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