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ランティス様の味方




「殿下が我を忘れたときは、お嬢さんのあっついキスを捧げてあげて、ね?」

「何をおっしゃっているの?」


 ヴィノ様の言葉に、わたくしの心の声が思わず漏れてしまった。


 真剣な話をしていたと思っていたが違ったのだろうか?


 そう思いながらヴィノ様を見上げていると、ヴィノ様は困ったような表情になった。


「そんな蔑んだ目で見ないでくれます?」

「……蔑むつもりはないのですが、困惑はしております」


 わたくしはヴィノ様から視線を外すと、表情を確かめるように頬を両手で揉んだ。


「まぁ、そうだろうね。だからこそ、心づもりはしておいてよ」


 婚約もまだなのに、ヴィノ様は何を言っているのだろうか?


 そのように考えていると、少し未来のランティス様にキスをされた記憶が蘇った。


 そうだわ。わたくし、ランティス様のお相手でもないのにすでにキスを交わしてしまっているわ。


 婚約前にキスをするなんて、貴族子女としてあるまじき失態である。不可抗力だったし、バレなければなんてことはないのだろうが、なんてことをしてしまったのかしら?


 ランティス様の妖艶さと自身の失態を思い出しながら羞恥にもだえていると、ヴィノ様の淡々とした声が聞こえてきた。


「俺の身内にさ、神縁に詳しいやつがいるんだけど、そいつが言ってたんだよ。暴走時のキスは有効だってね」

「へ? 冗談ではないのですか?」

「あれ? 信じてくれてなかったの? 傷つくわ~」

「もう少し詳しく説明してくださる?」


 微塵も傷ついてなさそうな軽い言い方と表情のヴィノ様に呆れてしまう。説明を求めると、ヴィノ様はまた、淡々と話し始めた。


「儀式をちゃんと受けてても、何かの拍子に神縁が暴走することがあるんだ。力で抑え込むことも可能なんだけど、被害はそれなりに出るからね。どうにかできないか昔から研究されてるんだけど、ひとつ言われているのがキスをすることなの」

「それは……恥ずかしさから元に戻るとか、そういう理由からですか?」

「アハハ! そうだね! それもあるかも知れないけど、実は口から微弱な魔力が出ているってことは知ってる?」

「知りませんでしたわ。そうなんですの?」

「レインフォレストではそう言われている。その微弱な魔力を暴走者に流し込むと、神縁の魔力の流れを弱めることが出来るそうなんだ」

「原理がわかりませんわ」

「そこは、そうなんだ~って流してくれる? 俺も専門じゃないし、身内からおしゃべり程度に聞いた話だから」


 ヴィノ様は、そうなんだ~って聞き流したのね、たぶん。


 しかし、そこで疑問がわいた。とりあえずヴィノ様に聞いてみる。


「ですが、それならば、わたくしでなくともいいのではありませんか?」


 するとヴィノ様は、人差し指を立てて左右に振った。


「チッ、チッ、チッ。推理力が甘いですわよ、お嬢さん」


 どうしていきなり語尾を変えてきたの?


 不思議に思いつつ見つめていると、ヴィノ様が悲しそうな表情をした。


「汚いものを見る目で見ないでくれます?」

「……そんなつもりはないのですが、困惑はしております」


 ヴィノ様は咳払いをひとつすると、真面目な表情になった。


「殿下とお嬢さんは番同士。身体はもちろん、魔力の相性だって最高にいいんだよ。番の特権ってやつかな」

「から……!」


 身体はもちろん、って言わなくてもいいんじゃないかしら?!


 出かかった言葉を必死にとどめる。わたくしは深呼吸をしつつキリッとした表情を頑張って作った。変に反応するとからかわれそうなのでスルーを決め込む。


 しかし、ヴィノ様はランティス様の側近として本当に務まっているのだろうか?


 5年後もランティス様と一緒にいたから、そんな心配はせずともいいはずなのだが、色々やらかしていそうで不安になる。


 そんなわたくしの気持ちを知る由もないヴィノ様は言葉を続ける。


「だから、お嬢さん。この先何があっても、殿下の味方でいてね?」


 ヴィノ様の顔は穏やかだった。だが、言葉の響きは少々不穏に感じた。


 どういう意味だろうと考えて、ハッとする。


 ランティス様だって命を狙われているのだ。しかもお兄様に。


 そして、わたくしはランティス様の番だ。


 番の存在がどこまで重要視されているのかいまいちわからないが、ランティス様を殺すために、わたくしの存在が邪魔になる可能性があるのかも知れない。


 そこまで考えて、自分が割と危険な位置にいることに気づいた。


 きっとヴィノ様もそう考えているから、()()()()()()()()()()()ランティス様を切り捨てないでくれ、と言っているのだろう。


 随分とひどい考え方だと思った。だが、不思議と理解もできた。ヴィノ様の優先すべき存在はランティス様が一番なのだ。


 ランティス様とヴィノ様は主従関係なのだから、主を優先する考え方はおかしくない。わたくしの命を軽んじるつもりはないのだろうが、少し複雑だった。


 しかしそう考えると、ヴィノ様自身の命の優先度はわたくしより下の可能性もある。


 覚悟が違うと思った。


 わたくしは、そんな覚悟が持てるだろうか?


 わたくしがランティス様の番であることは変えられない。でも、関わらないと決めて行動する余地はまだ残されている。


 5年後のわたくしならば逃げただろう。嫌われる前でもためらったに違いない。


 でも、今のわたくしには関わらないという選択肢はなかった。


 だって、ランティス様がわたくしの味方になってくれたから。


 わたくしもランティス様の味方でありたい。


 自分の命よりランティス様の命を優先する覚悟なんて今すぐには持てないけれど、わたくしの存在がランティス様の負担になるのではなく助けになれるのならば――。


 こんなに嬉しいことはない。


「もちろんですわ」


 わたくしの一言に、ヴィノ様は嬉しそうに微笑んだ。




◇◇◇




 ランティス様を街へ案内する日になった。


 朝食後、ランティス様と街へ行くことを知った弟たちが少々ごねたが、ランティス様が機嫌をとってくれたおかげで、早めに出発できた。


 空は穏やかに晴れ渡り、風も心地良い。絶好のお出かけ日和となった。


 馬車に乗り込む。わたくしとお母様が並んで座り、対面にランティス様とヴィノ様が腰掛けた。


 今日の目的地は観光名所とお店巡りだ。


 今回行くお店は庶民のお店ではなく、貴族がよく行くお店にした。


 馬車はゆっくりと進む。


「今日はゆっくりと走りますのね」

「事故対策よ。ランティス様が提案してくださったの。道も御者に言ってなるべく安全な道を選んでもらったわ」


 ニコニコと話すお母様。わたくしがランティス様の方を見やると、ランティス様は微笑んだ。


「出発時間を早めたのも、馬車をゆっくり走らせるためだったのですね?」

「うん。急ぎの用事でもないんだし、ゆっくり行きましょうって」

「お若いのに素晴らしいわ! 良い旦那様になるわね!」


 静かに話すランティス様とは対照的なハイテンションのお母様。なんだか今日は随分と楽しそうに見える。


 わたくしも楽しみたいが、どこか緊張していた。


 グシャグシャの客車が頭から離れないのだ。


 お母様はこんなに楽しんでくれているのに壊されたくない。


 今日じゃなきゃいいのに……。


 そう思いながら窓の外を眺めた。






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