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空をなくしたその先に  作者: 雨宮れん
空をなくしたその先に
53/77

53.せまりくる足音(1)

王都に戻って三日。真夜中近くにディオは、ひそかに叔父の家を訪れた。

「叔父上、お願いがあるんだけど」

フェイモスには息子が二人いるが、今は二人とも外交官として他国に赴任しているため、夫婦二人と使用人のみが屋敷にいる。ディオはもう寝室に入ったという彼の妻が、あわてて出てこようとするのをとめた。

勝手に深夜に押し掛けてきたのはディオのほうなのだから。

フェイモスは夜着の上にガウンをひっかけただけ、という気楽な格好で王子を出迎えた。ディオの方にもそれをとがめる気は最初からない。


「お願い、と言われてもできることとできないことが」

「わかってるよ。できないのなら、他の手を考えてほしいんだ。叔父上ならこういうことには慣れているだろうし」

ディオの頼みを聞いたフェイモスは渋い顔になった。

「他国の領域になりますからな……まあ手は尽くしましょう」

「頼むよ。彼女の大事な機体なんだ」

ディオが頼んだのは、ルイーナの北に沈めたダナの機体を引き上げることだった。

海に沈めて二週間。機体そのものは使いものにはならないだろうが、フォースダイトを取り出せば、そちらはまだ使用できる。場所が国外のため、最初からダナは引き上げを諦めている様子だった。せめてもの礼だ。ここまで送ってくれたことへの。


「それともう一つ」

続くもう一つの依頼に、フェイモスの顔はますます渋くなる。

「完成させるつもりですか?」

「ここまで大切に持ってきたものだからね。このままで終わらせたくないんだ」

たくさんの人の力を借りて。

たくさんの犠牲を出して、ここまで運んだ研究資料。ディオは、王宮近くの研究施設の使用権を要求した。

「危険なものだと理解しておられる?」

「しているよ……研究を続けるのは間違いかもしれないとも思っている」

不安がないわけではない。使い方によってはマグフィレット王国が世界から後ろ指を指されることになりかねない。

それでも、戦争が始まろうとしている今、完成さえすれば切り札となるかもしれない。

国を守るために、それでもディオは決めた。持ち帰った研究を完成させる。必要にならなければそれでいい。研究の段階で得られた結果は、別の方面にも生かせるはずだ。


「よろしいでしょう。国を守ることも必要だ」

長い間考え込み、フェイモスは最終的に同意した。研究にさける人数はそれほど多くない。人数が増えれば、秘密が漏れる可能性も高くなる。ディオを中心に、ほんの数名だけが関わればそれでたりる。

「……それより殿下。あなたにお話しなければならないことがあります」

いい機会だとフェイモスは思った。先王の時代から守り続けてきた秘密。まだ若いから、とこれまではディオに話すつもりはなかった。兄である国王ともそれで合意していた。秘密を抱えて兄が逝った後、彼の息子には伝えておかなければならない。

「あなただけが知っておけばいい。見ていただきたいものがここにあります」

ゆっくりとした動作で立ち上がり、壁にかけられた絵を外す。その後ろに隠されている金庫は頑丈なもので、破壊しようとしても難しく、複雑な暗証番号を入力しなければ開けることができない。


その中身を見せられて、ディオは顔色を変えた。

それはディオが生まれる前、死去したフィディアスについての記録だった。

ある貴族にそそのかされて、自分が王位に着くことを望んだ彼。

計画は事前に漏れた。

ディオの目の前にあるのは、秘密に行われた裁判の記録だった。


フィディアスは、病死に見せかけて処刑。

そしてもう一人。

「サイリーン・シルヴァ?」

記されていたのは聞いたことのない名前だった。記録を読めば、ディオの父親の寵妃だった女性だった。

いつの間にかフィディアスとも通じていた彼女は、フィディアスが王となれば自分は王妃になれる、とディオゲネスの暗殺に手を貸した。王家の姓の一部を持っていることからして、元をたどれば現在の王家に行き着く家系だったのだろう。彼女の代にはすっかり落ちぶれて、かろうじて王宮への出入りを許される程度の家柄でしかなかったが。

暗殺は未遂に終わり、彼女は事件から六ヶ月の間幽閉され、そのまま死亡したとされている。

そして、もう一枚めくってディオの手から書類が滑り落ちた。


「これって……」

「あなただけが知っていればいい話だ。将来、このことを利用しようとする人間が現れたときにのみここにある証拠のことを思い出せばいいのですよ、王子。誰も利用しないことを祈っておいてください」

ディオが落とした書類を、一枚一枚丁寧に拾い上げながらフェイモスは言った。ふらつく頭を抱えながら、ディオはフェイモスの家をあとにした。

彼が知った秘密は、一人で抱えるには重いものだった。それでも、誰かに話すわけにもいかない。

やらなければいけないことが山積みなのが救いだった。



戦争は、少しずつ歩みを進めていた。

センティアとマグフィレットの間を航行していたメレディアーナ号は再度襲撃を受け、死者こそ出なかったものの、乗員乗客数十名が重軽傷を負った。これにより、マグフィレット王国とセンティア王国の間の空の便は航行を停止した。陸路を使うと、数カ国を経由しなければならない上、倍以上の日数がかかることになる。


アリビデイル王国は、そのまま空からマグフィレットへの侵攻を開始した。陸続きであるセンティアへは、陸から軍が侵入した。

事前にセンティア側にも情報は流れていたから、防衛の体制は整えられていた。国境近辺で激しい戦闘となり、戦局は一進一退を繰り返している。

マグフィレットへは、飛行島三島を含む、数百にも及ぶ軍用艦部隊が海域から攻め込んでいた。攻撃を受けたばかりのアーティカの部隊は、まだ出られる体制を整えることができず、先に正規軍と他の傭兵部隊が出撃していった。

軍用艦のようにフォースダイトを搭載している船は、数週間なら無補給での航行が可能だ。どちらからも手を出すことのないまま、両軍は海の上でにらみ合っている。




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