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空をなくしたその先に  作者: 雨宮れん
空をなくしたその先に
35/77

35.死を商う女(1)

車が滑り込んだのは、白く高い塀にぐるりと囲まれた巨大な屋敷だった。

巨大な門の前で車を止め、フレディが自分の名を告げる。すると門番が門を開いた。しばらく進む。また塀が姿を現し、門の前で同じ手順をふむ。それを数度繰り返して、ようやく屋敷に到着した。

煉瓦作りの建物は窓に鉄格子がはめられていて、厳重に警戒されている。普通の屋敷ではないことは容易に知れた。


「降りるぞ」

当然といった顔で、フレディがダナを抱えあげ、玄関に立った。

扉を開いたのは、全身黒と白に身を包んだ女性だった。黒のロングドレスの上から、白いレースのショールを羽織っている。首には真珠のネックレスを何重にも重ねていた。一番長い物は腰のあたりまで届いている。

豊かな黒い髪を頭の上に高く積むように結い上げて、そこにも真珠が飾られていた。やや盛りを過ぎかけてはいるが妖艶な美貌といい、豊かな曲線を描く肢体といい、見ただけでただ者ではないとわかる。


「思っていたより時間がかかりましたわね」

女性は綺麗に彩られた唇に弧を描かせると、三人を中に通すために一歩退いた。運転手が車を発進させる音を背に、ディオは屋敷の中に足を踏み入れた。

「お医者様はもうじきいらっしゃいます。三人とも診てもらう必要があるのかしら?」

「いや、この子だけで十分だ。俺は包帯でももらえればそれでいい」

「素人療法はお勧めできませんわね。悪化のもとですもの」

その時はじめて、フレディの左腕に布が巻かれているのにディオは気がついた。

怪我一つしなかったのは彼だけらしい。

こんなことになる原因を作ったのは彼だというのに。


足が沈み込みそうなほどふかふかとした絨毯が敷き詰められた広い廊下を、先に立って女性は進む。足音一つしない。例外は時々、彼女の首から下げられた真珠がかちりかちりとふれあう音だけ。

何度か角を曲がって、屋敷の一番奥まった場所と思われるあたりにたどりついた。

廊下の両側にずらりと扉が並ぶ。

一番奥の部屋をフレディに割り当て、真ん中をディオ、一番手前にダナと決めると女性は手前の扉を開いた。

ブーツを脱がせてソファにダナを寝かしつけ、女性は言った。


「どうぞ、こちらでお待ちください」

軽やかにスカートの裾を翻す。磨かれ、鮮やかな赤を塗られた爪が視界に残った。

「ここはどこ?」

扉のすぐ脇の壁にもたれてディオはたずねた。肩が重い。自分の力だけでまっすぐに立っているのは困難だった。

「マーシャルで一番安全な場所さ」

熱をはかるように、ダナの額に手を当てながらフレディは返す。その手を払いのけられて、苦笑いの表情になった。

「彼女の名前はイレーヌ・カーマイン。そう言えばここがどれだけ安全な場所かわかるだろ」


フレディが口にしたのは、このあたりで活動している武器商人の名前だった。一番目が利くとされているのは、空を行く船に積むための武器。

イレーヌが女だてらにこの商売を始めたのは、同じく武器商人だった夫が殺された後を継いでのことだという。

復讐心を商魂に変えたのか、もともと商才が豊かだったのか。


夫が死んだ時にはまだ二十代に入ったばかりだったという彼女は、めきめきと頭角を現し、あっというまにマーシャル一の武器商人にのぼりつめた。

三十代に入る頃には、夫を殺害した人物を見つけだし、身の毛もよだつような報復を行ったという噂もまことしやかにささやかれている。

それを聞けば、この屋敷の厳重な警備も理解できた。

武器商人を恨む者は多い。


「どういう知り合い?」

フレディが彼女と知り合いなのには驚いた。配下に抱える傭兵団が独自に行う取引を別として、マグフィレット王国自身は、カーマイン商会とは取引をしていないはずだ。どこで二人が知り合ったのか、ディオには見当もつかなかった。

「きっかけはどこぞの夜会で、あっちからのお誘いだったな。相性がよかった、というやつだ」

今、飲み物を口にしていたとしたら、盛大に吹き出していたに違いない。念のため確認する。

「相性って……」

聞かれた相手は肩をすくめただけだった。想像通り、ということなのだろう。これ以上は聞くまい。

タイミングよくイレーヌが戻ってくる。


従えていた白衣の男を通すと、二人には部屋の外に出るようにうながした。何度も訪れているのか、フレディは勝手を知った様子で出てすぐの扉を開く。

そこは応接のための部屋なのか、あちこちに座り心地のよさそうな椅子やソファがおかれていた。

入ったところでディオがきょろきょろと部屋の中を見回していると、一度閉じられた扉がもう一度開かれた。


イレーヌと同じように黒と白を基調とした衣服のメイドがお茶の道具を載せたトレイを手に入ってくる。物音一つたてない滑らかな動作で、テーブルの上に茶道具を並べ、頭を一つ下げて一言も言わないまま出ていく。

続いて入ってきた別のメイドが軽食に茶菓子を並べて、こちらも言葉を発することなく退室した。


「お座りになって」

肩からずりおちたレースのショールを直しながら、イレーヌは二人に席を勧めた。優雅な仕草でティーポットを取り上げると、慎重な手つきで三つのカップに分けて注ぐ。いい香りが立ち上った。

イレーヌはカップの一つを手に取ると、そこに角砂糖を四個放り込んだ。丁寧に掻き回してから、そのカップをディオに差し出す。


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