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空をなくしたその先に  作者: 雨宮れん
空をなくしたその先に
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11.地上の夜(1)

長い時間海面すれすれを飛び続けて、ようやく陸地が見えてきた。

日はとっくに沈んでいる。緊張を強いられる夜間の飛行にもダナは平然としたものだった。

特に今夜は月が明るく、視界が遮られることはない。


機内の空気に耐えられなかったのはディオの方で、無言のダナに何度か話しかけてみたりもしたのだが返事が返ってくることはなかった。見えてきた陸地に思わずディオは、何度目かの問いかけを投げた。

「あれは?」

「ルイーナ。ひとまずあそこに降りるわね」


ようやく言葉を発したダナが口にしたのは、観光地として知られる比較的大きな島の名前だった。温暖な気候、風光明媚なことで知られ、富裕層の別荘も多く建てられている。

島の南側は綺麗な砂浜に恵まれているため別荘やら宿泊施設やらが集中し、それをあてこんだ商売人もそちらに向かうというわけでかなりにぎわっている。

一方北側の方はというと、古代人の遺跡がある程度。遺跡の数も多すぎて、観光名所となっているのはそのうち数カ所でしかない。

海岸も砂浜ではなくごつごつとした岩場のため、こちらのにぎわいはさほどでもない。


ダナは、機体をつけられそうな場所を探すと、そこに一度機体をおろした。後部座席からディオを放り出す。

「はい、これ持ってて」

続いて投げ落とされたのはそれほど大きくないリュックサックだった。最後に毛布が二枚。

ダナが腰につけていた小さな鞄は爆発物が入っているからと言う理由で、ダナ自ら地面にそっとおいた。それだけをすませ、ディオをその場に残してダナは機体を浮上させた。


「ど、どこに行くの?」

「ここから動かないこと。いいわね?」

ディオの問いに答えず、機体は沖へと向かう。動くなと言われても、行くあてなどあるはずがない。ディオのできるのは膝を抱えて座り込み、ただ彼女の機体を見送るだけ。


さほど行かないうちに、機体は海に落下した。暗闇の中でもそれとわかる激しい水しぶき。

「ダ……ダナ!ダナ!!」

声をあげるが、返事はない。頭の中が真っ白になった。動くなと言われたが、この場合は例外だろう。慌ててブーツをふりはらうように脱いで飛行服に手をかける。苦労して上半身を脱いだところで、何かがこちらに向かってくるのに気がついた。


波の間をぬってこちらに向かってくる赤い頭。

月の明かりでそれだけがくっきりとういて見えた。泳いできたダナは手近な岩につかまって一息ついてから、ディオのいるところまであがってきた。

「何しているの?」

半分脱ぎかけたディオを見て、ダナはあきれた口調で問いかけた。

ぼたぼたと頭や着ている物から水が垂れる。

うっとおしそうに前髪をかきあげると、水滴がディオの顔まで飛んでくる。


「助けに行こうと思って」

「それなら、飛行服は脱いじゃだめ。水に浮かぶようにできているんだから」

肩をすくめて、ダナは地面に置き去りにされていたリュックサックのふたをあける。

そこから取り出したタオルで頭をごしごしとふいてから、飛行服を脱ぎ捨てた。

中に着ていた白いシャツと茶のパンツはほとんど濡れていない。

どうやら防水加工もしてあるらしい。


「何してたんだよ、いきなり落ちたからこっちは心配したっていうのに!」

珍しくディオが声をあらげた。

タオルを頭にかぶっていたダナが、きょとんとした顔でこちらを見る。

「だって……。機体をここに放置していくわけにはいかないじゃない?

水の中ならそうそう見つからないし」

「そうじゃなくて」

ディオはため息をついた。

心配した、のだとどう言えばわかってもらえるのだろう。


荷物をまとめ終わったダナが、タオルをかぶったままディオの方をふりかえった。

「とりあえず場所を変わりましょ。海岸にいたら見つかるかもしれないし」

うながされるままにディオも彼女に続く。リュックサックと毛布を押しつけられたが、文句は言わなかった。

空気が冷たくなってきている。温暖な気候で知られる場所とはいえ、夜になればそこそこ冷えてくる。


二人は海から離れるように、森の中に足を踏み入れた。枝を通して月の光が足下を照らす。十分な光量とは言えないが、なんとか足下を確認しながら進むことができた。

ぽきりと足下で枯れ枝の折れる音がする。それ以外は、二人の足が枯葉を踏みしめる音だけ。

どちらも口をきこうとはしなかった。

沈黙に耐えられなくなって、ディオは口を開いた。

「これからどうする?」

「そうね。とりあえず森の中で野宿かな」

なんと二夜連続の野宿だ。

ディオは目を回しそうになった。

とはいえ、贅沢など言えないことはわかっている。


しばらく森の中を進む。

わずかな光にも目が慣れてきて、だんだんと歩く速度もあがってきた。

最終的に二人がたどりついたのは、古代人の遺跡だった。

たくさんの巨大な石が積み重ねられている。こういう遺跡は神殿だと考えられているが、はっきりとした結論が出ているわけではない。


「ここにしましょうか」

石が頭上をおおって屋根のようになっているところを見つけると、ダナは足を止めた。

すぐ近くには川が流れている。

荷物を放り出して、ディオはその場にへたりこんだ。

昨日といい、今日といい、穏やかに一日を終えることはできないのだろうか。

ディオをその場に残したダナは、一度遺跡を出ていく。

戻ってきた時には、両手にたくさんの枯れ枝を抱えていた。

ディオが動けないでいる間に、彼女は森と遺跡を何往復もして、薪を積み上げていく。


一息ついてからディオも彼女を追ったが、運んだ薪の量は比べ物にならなかった。

十分な量の薪を確保してからダナは器用に小さな火を起こした。

火を起こすのに使ったのは、ここまで運んできたリュックサックに入っていたマッチだった。

次は何が出てくるのだろうと、興味深々で覗き込みながらディオはたずねる。


「それ、何が入っているの?」

「んー、三日分の非常食とかマッチとか。包帯、薬。撃墜されちゃったときに、運良く生き残れたら必要になる物、かな。はい、夕食」

手渡されたのは、固形の携帯食だった。

ためしに袋の端をちぎって鼻を寄せてみる。

なんとも言えないにおいがした。



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