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4 王子はどうやら愚かで嘘つきなようです。

 不審に思いつつも王城へ向かった僕たち。


 僕は聖女様の下僕として、後でひっそりと歩く。周囲の視線を惹きつけているのはやはり白いドレス姿の聖女様であり、僕などまるでいないかのように扱われていた。

 まあでもこれに不満があるわけではない。むしろ聖女様がこうやって崇められているのは非常に嬉しいことだと思う。


 そうして王座の間に着くと、国王は待ってましたとばかりに聖女様を見つめた。


「聖女ワンダ・ポギーネ」


「はい」


「我が息子から頼みがある。ひとまずは息子の部屋へ足を運ぶように」


 そのまま、メイドの女性に連れられて王子の部屋へ。

 聖女様はひたすらに王子のことを心配しているようだった。そんな彼女がとても愛おしく思えて僕は思わず笑顔になる。

 ……いけない、仕事中だった。


「王子殿下。失礼するのです」


 聖女様がそう言って扉を開けた。


 貴族の部屋よりもさらに豪華な王族独特の個室。

 壁際のベッドに、彼はいた。


 金髪に薄灰色の目をした少年だった。

 年頃は恐らく僕と同じ十五歳くらいだろうか? 年齢の割には幼い顔立ちをしており、失礼だがとても可愛らしい。

 僕はすぐに理解した。彼が今回の依頼の主である王子なのだと。


 しかし僕の目には、彼は至って健康そうに見える。

 一体どこが悪いのだろう?


「私は第二王子のポーディンだ。よろしく」


「はい。あたくしは聖女のワンダ・ポギーネと申す者なのです。……ところでどこがお悪いのですか?」


 聖女様の問いかけに頷くと、ポーディン王子は右手を差し出した。

 よくよく見れば、人差し指に小さな切り傷がある。


 ……これを治せと?


 僕と聖女様が唖然としたのは言うまでもない。

 鈍感な聖女様だが、治療に関しては一流のプロ。この傷がなんでもないことくらいすぐにわかるし、僕にすらそれは明白なことだった。


「ポーディン様。申し訳ないのですが、これは非常に軽傷で一日もすれば治るのです」


「でも、すごく痛いんだ。今すぐ治してくれ!」


 なんだこいつ。

 僕はそう思ってしまい、不敬だと首を振る。


 怪我人ではないにせよ、依頼は依頼。そして相手は王族だ。

 聖女の力を使うには勿体無い相手ではあるが、ささっと直してささっと帰る、それが一番だった。


「聖女様」

「わかったのです」


 聖女様も妥協なさったらしい。


 手を天に振り上げ、何やら呪文を唱え始める。

 そうするとたちまち部屋に光が降り注ぎ、王子を包み込んだ。


 健康的だった彼の肌がさらに艶を増したように見える。「これで満足だろう」と僕は内心で呟いた。


 恐らく、王子は聖女様の力を一度自分も体験してみたかったのだろう。

 聖女様の癒しの力が凄まじいのは王国中に知れ渡っている事実だったから、それを味わってみたいと言って「怪我をした」と嘘をつき、屋敷に押し寄せる不届き者が以前にいたことを思い出した。

 王子も同じような馬鹿で嘘つきなのだ。僕はそう思い、それ以上何も考えないようにした。


「では、ここら辺でお暇するのです」


 微笑み、この場を静かに辞そうとする聖女様。

 しかし愚かな王子はそれを許さなかった。


「ワンダ、もう一つだけ話したいことがあるんだ」


「何ですか?」


「私はずっと君に恋している。どうか、婚約してはくれまいか」




 ――王子の本当の狙いを悟って、僕は自分の迂闊さを呪いたくなった。

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