3 僕が聖女様を好きな理由について。
「それで、またここへ来たと。お前さん、ほんとに馬鹿だねぇ」
相談屋の老女は、まるで情けない自分の孫を見ているような視線を向けて来る。
痛い痛い。そんな目で見ないでほしい。
「……聖女様は本当に素敵な方なんですが、もう本当に鈍感で。あの方にとっての『真の愛』とは何なんでしょう……?」
下僕として基本は常に傍にいる僕だが、聖女様の何もかもを知っているわけではない。
ただ、神に選ばれし二人にのみ『真の愛』はわかるのだと以前言っていたことを思い出した。
「さてね。問題は、お前さんがどうやって彼女の気を引くか、さ」
「頼みます。知恵を貸してください」
僕の懇願に、老女は「仕方ないねえ」と頷いた。
そしてこんなことを言ったのだ。
「お前さんは彼女のどんなところが好きなんだい? それを彼女にちゃんと言ったのかい? そうじゃなきゃ伝わらないよ」
言われて僕はハッとなる。
そうだ。僕は聖女様のどこが好きなのか、まだ言えていない。
それなのに変な期待をしてしまうなんて僕はなんて馬鹿なんだ。
「でもね」老女は言った。「お前さんなんかとの結婚、伯爵が許してくれると思うかい」
「…………わからないけど多分大丈夫です」
僕は大急ぎで屋敷へ戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕は聖女様の全部が好きだ。
声もお姿も、そして女神のような心優しさも。
ああ。でも僕なんかがあの方に釣り合うんだろうか。
いいやそんなわけない。きっとどこかの令息の方が。
「『真の愛』か……」
一体聖女様は何をもって『真の愛』と呼んでいるのか。
こちらが愛していたとして、向こうに好かれなかったら。拒絶された時のことを想像して僕は怖くなる。
頭を抱えて屋敷の廊下を歩き、ふと顔を上げると、
「どうしたのです?」
「うひゃい!?」
「あらまあ変な声を上げて大丈夫なのですか?」
突然声をかけられたので変な反応をしてしまった。
純粋に心配そうな顔をしてくる聖女様。ああもう本当に。
「す、すみませんっ」
「謝ることなんて。ああそうそう、ルイスに言わなければいけないことがあったのです」
聖女様は美しく微笑むと、
「王城からお呼びがかかったのです。王子様がご病気だとのことで」
「ああ……。わかりました」
王子が病気?
そんな話は聞いたことがない。僕は不審に思いつつも頷いた。
――二度目のラブコールはこの仕事が終わってからにしよう。
そう決意し、僕はひとまず聖女様と王城へ向かうことになったのである。