2 マジ女神な聖女様は超鈍感のようです。
「聖女様」
帰って来るなり、僕は彼女を見つけて呼び止める。
清潔さを体現したような白の髪に、クリクリの黒瞳。白いドレスを纏っているそのお姿は、まるで女神のようだ。
そして聖女様は振り返ると、
「まあルイス、帰ったのですか」
と、輝くような笑顔を向けて来る。
これを見せられると頬が熱くなり何も言えなくなってしまう。聖女様の微笑みは恐ろしい。
僕はなんとか平静さを装い、言った。「あの。ちょっと大事なお話があります」
「何なのです? またお仕事の依頼なのですか?」
「いえ、今回はそうではありません。ぜひお聞きしたいことがあって」
可愛らしく首を傾げる聖女様。
わかっていないような顔のまま、「わかったのです」と言って、白いドレスを揺らしながら走り出す。
僕は彼女に手を引かれて大いに戸惑いつつも、されるがままになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「聖女様、憧れの殿方はいらっしゃいますか?」
――テラスにて。
テーブルを挟んで向かい合う聖女ワンダ様に、僕は問いかけをしていた。
一体どんな答えが返って来るだろう?
もしかして僕が知らないだけで、すでに想いを寄せている人がいるのではないか。そんなことを考えたのだが、
「憧れの方、なのですか? ……国王陛下などは素晴らしいお方だと思うのです。国の民を守ろうと必死に努力なさっていて」
僕の想定していたのとはまるで違う返答だった。
この国の国王陛下は、現在五十歳である。
正直言って結婚相手としてはかなり歳を取っているから、恐らく『憧れる』の意味をお間違えになっているのだろうと僕はすぐわかった。
聖女様は、男としてではなく人間として憧れると言っているだけであって、決して婚約者として迎え入れたいわけではないのだ。
僕は再度質問する。
「国王陛下はもちろん立派な方ですが、その……。若い男性で好意を持っていらっしゃる方などは?」
「えっと?」聖女様は白髪を弄りながら考え込んでしまう。そして、「言うなればルイスなのですね」
「――っ!?」
今、僕に好意を持ってると言われなかったか?
いや言われた。間違いなく言われた。
僕は片想いではなかったのだ。ずっとずっと聖女様に愛され――。
「ルイスは毎日あたくしに良くしてくれて、とても勤勉なのです。その生き様は見習うべきところがあると思うのです」
また別方向からの評価だった。
つまり、やはり僕も尊敬されているだけであって、男という観点から見られていない。
……そうだよなあ。僕なんかに恋愛感情を抱いてもらっているはずがないもんなあ。
そもそも聖女様には遠回しな言い方は伝わらないのかも知れない。
僕はそう思い、思い切ってラブコールしてみることにした。
あの老女が言っていた通りの『ド直球』で。
「僕は、聖女様のことが好きです!!!」
しかし――。
「ありがとう。これからもよろしくお願いするのです」
にっこり笑顔で、手を握られてしまった。
あーあ。これは完全にあれだ。鈍感すぎてラブコールに気づかない系だ。
僕は耳まで真っ赤になりながら俯くことしかできない。聖女様には男女の関係という観念がないのだろうか……?
――なんだこの方は。どうしようもなく可愛すぎる。
「ああ、聖女様マジで女神」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして、呆気なくラブコール作戦に失敗したのだった。
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