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1 聖女様に片想いを寄せる下僕は、「婚約者を見つけよ」と命じられて困っています。

「なんだい? 何を相談に来たのかね」


「ええと、僕のご主人様のことについてなんですが」


 僕は今、とある相談所に来ている。

 相談に乗ってくれるのは六十をとうに過ぎているだろう女性だ。彼女に話すとなんでもいいアイデアをくれるという噂だが本当だろうか?


 疑念を抱きつつも僕は頷いて、事情を話し始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 僕は、この国をお守りくださっている『救世の聖女』ことワンダ・ポギーネ様に仕える下僕だ。

 聖女様は人を癒す力を持っている。そのため世界各地に足を運ぶのでお手伝いとして下僕の僕が必要なのである。


 とってもお優しいため、聖女様はあらゆる人から大人気。求婚されたことも数え切れないほどあった。

 しかし、


「あたくし、婚姻するなら本当に好きになれる人とがいいのです。政略結婚だの何だのはどうも肌に合わなくて。神と神が繋いで下さったご縁を大事にしたいのです」


 これが、うちの聖女様の口癖だ。


 例えば平民の女性であればこの言い分も通るだろう。

 しかし都合の悪いことに、ワンダ様は聖女であられると同時に、伯爵家の娘でもあるのだ。

 それも十七歳という年頃の令嬢である。


 今までは見逃されていたが、十七歳にもなって婚約者がいないとなると、『行き遅れ』になってしまう。

 十七歳であれば普通は婚約者がいて当然なのだからと伯爵様は焦り、この度僕に命じられた。


「娘の婚約者を見つけよ」と。


 でも、でも。

 僕にそんなことができるわけがない。

 だって僕は――。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ふぅむ。主人に恋心を抱くとはね」


 相談屋の老女が、ふぅと息を吐きながら言った。

 少し軽蔑の目で僕を見ているような気がするのはきっと気のせいではない。


「仕方ないでしょう。聖女様を見て虜にされない人間なんてきっといない」


「若気の至りかね。身分差がひどいだろうに」


「そりゃまあ、そうですけど……」


 聖女様とは大きく身分が違う。

 伯爵令嬢である彼女に対し、僕はとある没落貴族の、領主と妾の間に生まれたワケアリの子だった。

 それを聖女様が慈悲だけで僕を引き取ってくださったおかげで今まで生きているわけだ。本当に聖女様は優しすぎると彼女のお人好しに救われた僕ですら思うくらいだが。


「わかった。それじゃあド直球なラブコールでもぶつけてみればいいんじゃないかい?」


 老女の言葉に、僕はギョッとした。「ら、ラブコール?」


「そうだよ。恥ずかしいことじゃないさ。好きな人に好きだって伝える、ただそれだけだね。フラれちゃおしまいだけども」


 目の前の老女は、伯爵家で働くとあるメイドから紹介された、この国で一番人気だという相談屋である。

 けれども僕には魔女にしか見えないのだが何故だろう。

 ともかく、ラブコールだなんてとんでもないと思った。


「そんなことしたら、聖女様に嫌われますって」


「じゃあどうするつもりなんだい? 他に策はないんだろ?」


 図星を突かれて押し黙るしかない。

 老女の言う通りで、他に何の良案も浮かんでいないのだ。


「わかりました。考えてみます」


「ああ、そうしな。実際やるかやらないかはお前さん次第だけどもね」


 立ち上がるとそのまま振り返りもせずに、僕は早足で相談所を飛び出した。

 




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