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狐彪の短編

いつか

作者: 狐彪

※自殺表現があります。最後だけ※


別サイトの公式コンテストに投稿させていただいた作品です。

だいぶ前のなので、こちらにも…(´ー`)


リンク→https://estar.jp/novels/25899823

 


 『今どこ?』


 チカリとライトが光り、スマホにどこかの誰かからメッセージが来たことを知らせる。画面を見やると、某簡単連絡ツールを介して届いた、そんな文言が目に入った。

「……、」

 続けて何か送られてきたが、気づかないふりをして、スマホの電源を切った。

チカチカと光が訴えかけてきて、喧しい事この上ないが、見なければ見てないも同義なので放っておく。(ここで電源を落とすという選択肢がないあたり、まだまだという気がする。)

「……、」

 視界の中からスマホ自体を消すため、それをポケットに突っ込み、歩く。

やかましい光が映らなくなった視界には、真っ青な海が広がる。その上には雲一つない青空が広がっている。

「……、」

 砂浜には、所々漂着物が目に入ったが、その白さは失われていない。波打ち際だけはほんの少し目に余ったが…これは我々人間のせいであって、この海のせいではないので、見なかったことにする。

海はただ、自分の中に入ってきた不純物を除いて、持ち主に返しているだけだ。それをあれこれ、汚いだの何だのというのはあまりにも自分勝手が過ぎる。それに気づいてか、はたまた偽善か、それを受け取りに来る人間は居ても、多くはない。だからこうして不純物が溜まる。海から出たそれは、そこでそのまま朽ちて、海をさらに汚すのだ。

「……、」

 そこまで言うなら、“見なかったこと”などにせずに、お前も受け取れと思わずにはいられないが、あいにく今はどうしても身一つでいなければいけないので、不純物の受け取りは、またの機会にさせて頂く。

―まぁ身一つとは言え、先程言ったようにスマホは持っているし何なら財布もあるのだが…それは大目に見てほしい。なにせ、ここに来るまでには、電車という交通機関に乗らないといけなかったし、それを利用するためにどこに行けばいいとか、どの駅を使ったらいいとか、調べるには必要だったのだ。

「……、」

 ふと、そのスマホがポケットの中で震えた。バイブレーション機能は切っていたはずなのだが…無意識に入れていたのだろうか。まだまだである。全く。我ながら未練たらたらで笑えてしまう。こうしていれば、誰かが…とかそんな甘い考えを捨てきれていない。そうやってすぐに人に甘えてしまうから、いけないのだ。

「……、」

 放っておけば切れるだろうと思ったそれは、いまだ震え続けている。一度その振動は切れたのだが、また動き出す。

「…、」

 もう必要ないのだから、このあたりにでも捨て置こうと思ったが、この美しい景色を殺すのに手を貸してしまうようで、申し訳ない。しかしこの喧しいのはどうにかしたい。

「…、」

 観念して、三度目の振動を訴え始めたそれを手に取る。その相手は、見知った相手。それはそうか。こうなっているのを知っているのは、数少ない知り合いだけだろうし。そも、この電話も先ほどのメッセージと同じツールを介して届いている。私は極力他人との関わりを持たないように生きてきたので、そのツールを介しては所謂フレンド登録というものをしている人間以外からの着信は拒否している。(ま、フレンドになっている人間でも何人か拒否状態にしてはいるが。)

「…、」

 震え続けるスマホに映し出された相手は、先のメッセージと同じ相手だった。昔からの親友で、幼馴染で、今でも会うことを許していて、唯一といっていいほど心を開いて、素の自分でいられるような、そんな相手。その名前を見るだけで胸が痛み、息ができなくなる。涙がこぼれそうになる。あぁ、この人ならーそう思ってしまって。(我ながら重いな)

『今どこ⁉』

 つい着信を受け取ってしまった。電話越しにしては大きすぎるその声と共に、こちらが鳴いてしまいたくなるほどの、悲痛な叫びが鼓膜を打った。

『もしもし!』

『聞こえてる⁉』

 どんな騒がしい場所に居るんだ。そんな大声じゃなくても聞こえてる。そんな声を出さなくても、届いてる。

『ねぇ!今どこ⁉』

 繰り返されるその言葉。けれど、もう、その言葉に、答える気は、ない。もう、限界を超えてしまって。もう、戻れない。

『ね「るさいよ」

 ぽつりとこぼれた声は、自分の声ではないように感じるほど、掠れていた。

「どこにいると思う?」

 かすれた声で囁きながら、砂浜を歩いていた足を、海へと向ける。進路変更というやつだ。

『何言って

 心地よい砂浜の音と共に、少しずつ、波の音が大きくなってくる。

『聞こえない、どこ⁉』

 ん。やはり、かなり騒がしい所に居るのだろうか。この美しい音が聞こえないのは残念だ。そんな騒々しい所に居るとでも思ったのだろうか。

「どこかな…」

 ちゃぷーと足元が海に触れる。ジワリと中に入り込んでくるそれは、ほんの少し冷たかった。けれど、どこか温かかった。迎え入れてくれるようで、とても心地よかった。

『ねぇ、もしかして…

 ようやく静かなところに行ったのか。この音を、最後にあなたと聞くことができそうでよかった(最後まで重い)。ゆっくりと進む。波が誘うように、優しくなででいく。

『ちょっ「うるさいったら」

「静かに、聞いてて」

 足首まで沈み、砂が緩くなってきたのか、柔らかな底が、足に触れる。


「昔、二人できたときにさ、


 ゆっくり、ゆっくりと、沈む。

「また来ようって、言ったじゃん


 ジワリジワリと、広がる冷たさに、もう少しーもう少しー。


「だからまた、いつか


『―――――!!』


 その声は、聞こえなかった。



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