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奇妙なお昼の時間




 翌日の早朝、瀬那はキッチンで頭を抱えていた。



「うーん、言われた通り作るべき? それとも……」



 作ってこいと言われたが、本当に作っていくべきか悩む。


 あの一条院枢が瀬那の作った物なんかを好き好んで食べるとは思えない。

 かと言って、作ってこいと言われたのに作っていかなかった時の方が怖い気がする。


 やはりここは作っていくべきか。



「よし、やるか」



 食べなかったら二人分食べれば良い。

 そう考え瀬那は作業に取りかかった。


 そうして出来上がった料理をお弁当箱に詰めていく。


 お弁当箱を二つ用意するか、大きいのを一つ用意するか迷ったが、何を食べるか分からないので、好きに摘まめるように大きいお弁当箱に詰めていく。


 そうして完成したお弁当を持って、学校へと向かった。 



「瀬那ちゃん、おはよう」



 教室に入ると、早速美玲が声を掛けてきた。



「おはよう、美玲」


「瀬那ちゃん、あれ見て」



 美玲がちらっと見た方向を釣られて見ると、そこには愛菜がいる。

 普段側にはいない女子生徒と共に楽しそうにお喋りをしているようだ。


 別に普通の女子高生ならばそんな光景はなんらおかしいことではない。

 けれど、愛菜は枢達と行動を共にしていることから、女子生徒からは嫌われて……あるいは遠巻きにされており、彼女と仲良く喋る女子生徒はいないのだ。


 それが、今日は一人の女子生徒と共に一緒にいる。



「瀬那ちゃんを諦めて次の子を見つけたみたい」


「私的には助かるけど、相手は小林さんか……」



 小林さんは地味な印象を受ける、クラスでも大人しくて目立たない子だ。


 以前は花巻さんという子の派手なグループにいたのだが、最近何か諍いが起きてそのグループから外されたようだ。

 喧嘩したというより、花巻さん側が一方的に小林さんとの関係を絶ったという感じだった。


 元々見た目も派手な花巻さんグループに、大人しい小林さんがいるのは違和感があったので、小林さん的にはほっとしているのかもしれない。


 だが、今度は愛菜に目を付けられる結果となったのだから、彼女も災難としか言えない。



「まあ、小林さん自身が問題ないなら良いと思うけど」


「そうだね。楽しそうに話してるようだし、新庄さんの方が花巻さん達よりはまだ話しやすいんじゃない?」



 派手で少しきつい印象の花巻さんよりは、愛菜の方がまだ大人しい人には話がしやすいかもしれない。

 小林さんの様子を見ている限り、嫌がってはいなさそう。




「でもさ、相手はあの新庄さんだよ。何事もなければ良いけどね」



 などと、美玲が不穏なことを言う。

 心配ではあるが、これで愛菜が近付いてこなくなるなら万々歳だ。

 ようやく静かな生活に戻れると、瀬那は密かに喜んだ。



「そうだ、瀬那ちゃん。今日は久しぶりにお昼一緒に食べる?」


「ああ、えっと」



 確かに美玲と食べるのは久しぶりだった。

 けれどいつもより多めに作ってきたお弁当を思い出す。



「ごめんね。本が丁度良いところなの。また今度誘って」


「そうなの、残念」




 瀬那は残念そうにする美玲に心の中で謝った。



 そして迎えた昼休み。

 いつもより大きなお弁当箱を持って非常階段へと向かう。


 いつもの定位置に腰を下ろして少しすると、ここ数日と同じように枢が非常階段を上がってきた。


 いつもは踊り場の壁に寄りかかっている彼だが、今日はそこを通り過ぎ瀬那の隣に腰を下ろす。



 本当に食べる気なのか。

 緊張気味にお弁当箱を開け、おずおずと割り箸を差し出す。



「あの、これ……」



 無言で受け取った枢は、箸を割るとお弁当に手を付けた。

 目の前で自分が作った料理を食べる枢を観察する。

 味は大丈夫か表情を伺うが、やはり微塵も動かない彼の表情からは何も分からない。 

 ここは思い切って聞いてみる。



「味、大丈夫?」



 すると、「ああ」と簡単な一言が返ってきた。

 瀬那はほっとすると同時に、嬉しくなった。


 あの一条院枢が自分の作ったお弁当を食べているのだ、瀬那がなんだか不思議な感じがした。


 その後は特に何かを話すことも視線を合わせることもない。

 瀬那もいつも通り本を読みながらお弁当を食べていく。


 だが、気まずさは感じなかった。




***



 あんなにしつこかった愛菜がすっかり近付いてこなくなった。

 美玲に助けてもらう必要もなくなり、良かったと瀬那が安堵していたのは数日だけ。


 今、瀬那のクラスの中の雰囲気は最悪だった。


 愛菜が、花巻さん達のグループから離れ一人で行動することが多くなった小林さんに目を付け話し掛けるようになった。


 それはまあいい。


 小林さんも話し相手がいることで一人でいる居心地の悪さを感じずにすんでいたようだ。

 問題はその後。


 愛菜は仲良くなった小林さんを枢達の所に連れて行きそこで話をするようになった。

 仲の良い子を紹介するためだろうが、彼女は後のことを考えていない。


 一条院枢や和泉瑠衣、神宮寺総司と関わりたいと思う者は多い。


 だが、近寄りがたい雰囲気を常に発している枢により、それは中々できることではなかった。


 そんな中、クラスでも目立たない小林さんが突然枢達に関わるようになれば、それに嫉妬する女子達が出て来る。



 顕著なのがそれまで小林さんと行動していた、花巻さんグループだ。



 派手で目立つ花巻さん達が正反対の小林さんを下に見ているのは誰の目にも明らかだった。

 そんな小林さんが、一条院枢達と関わるようになったことが花巻さん達は許せなかったのだろう。




 最初は誰にも気付かれることなく、けれど次第に目立つように小林さんを虐めだした。


 同じく枢達と関わる愛菜だが、彼女に何かすれば枢がどう動くか分からない。

 だから彼女を気に食わないと思いつつも何もしない。


 そんな愛菜への嫉妬の思いも重なり、矛先が小林さんへと向かったのだ。


 今では隠すことなく小林さんを虐めている。



 彼女を見てはクスクスと笑う。わざとぶつかり、謝れと因縁を付ける。

 掃除などの仕事を小林さんに押し付けるなど、最初は激しいものではなかったのだが、とうとう物にも手を出し始めた。




 そして、それを見た愛菜が、花巻さん達に怒鳴り込んだのだ。





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