聖女は森の人~おにぎりと牛乳を差し出したら手を叩いて喜んでいます。
「ここに我が国を救う聖女様がいるのだな?」
「はい、殿下。魔力の反応はこちらから来ていると宮廷魔術師が……」
大魔王に支配された世界。
僕は従者として、この国の第一王子と共にとある深い森の中へ来ていた。
何でも聖女と思われる人物は、馬でも移動に困難なこの森にすんでおられるとか……。しかも最低人数で行かないとならない、そう魔術師に言われた。
くそ……何でこんな所に救済の聖女が。
はっきり言ってかなりの秘境である。さっきから倒れた木を避けるのに必死だ。
「聖女というのはさぞ神々しく美しいのだろうな……」
「そーですネ。そーだと思いマス」
王子に適当に返事をしていたその時、ガサッ!と近くの草むらが動き何者かが姿を現した。
「……何? あなたたち?」
「なっ!?」
うわ、美人。
出てきたのは、王都でもお目に掛かれないほどの美しい女性だった。
あー、この展開はあれだ。この人が聖女とかっていうご都合主義的展開で…………
「我々はこの森へ聖女を探しに来た。もしや貴女が聖女か?」
「へ? 違うわよ?」
だよねー。そんなに都合良く……
「私は違うけど、聖女はこっちの娘ね」
「え!? そんな簡単にいるの!?」
「ウホッ?」
美人の後ろからひょっこり『オランウータン』が。
「この娘が『森の聖女』ね」
「ウホッ! ウホウホ!」
「「………………」」
『森の聖女』じゃなく『森の人』だった!!
ドストレートに森の番人だったよ!!
「お、王子、帰りましょう。これじゃ……」
僕が王子に視線を送ると、王子はオランウータンの手を取りひざまずいていた。持ってきていた昼食のおにぎりと牛乳を差し出す。
「貴女が聖女か。是非、我々と王宮へ来て世界を救う手伝いをして欲しい!」
「ウホッ……ウホウホ!!」
「いや……王子、これはどう見てもオランウータン……」
「女性をゴリラみたいに言うな!! 女性はみんな可愛い!!」
「はい、そーですね……」
ゴリラのメスに失礼だぞ。
よし、もう好きにさせよう。この際、ゴリラでもオランウータンでも同じだ。
一年後。
平和になった王宮では、王子と森で出会った『美人』の結婚式が行われた。
「結局、顔かよ……」
「ウホウホ!」
参列者の席で、僕は『妻』と一緒に王子たちを祝福した。