扉の向こう
「ふう、これで日直の仕事終わりだよね? 早く音楽室行かなきゃ」
日直の仕事を終えて、早足で第二音楽室に向かいます。
若菜ちゃんは日直の時でもあんまり遅れて来ないから、やっぱり私って要領悪いのかな……?
部活前に少し暗い気持ちになってしまいましたが、みんなと歌えばきっと大丈夫。そう信じて歩みを進めます。
第二音楽室に到着し、ドアに手をかけようとしたその時、部屋の中から話し声が聞こえてきました。どんな話をしているのか気になり、耳を澄ませてみると……。
「和音さん遅いですね。日直の仕事なんて適当に済ませればいいんですよ」
「……私もそこまで一生懸命やってる訳じゃないけれど、それはどうかと思うわ」
「かずねちゃんは何にでも一生懸命で偉いと思うわぁ」
「空回りすることもありますけどね。でも、それも含めて和音のいいところだと思います」
どうやら話題は私のことみたいで、予想外の話に動揺してドアにカバンをぶつけてしまいました。
「和音?」
その音に反応して、若菜ちゃんがドアを開けました。
「えっと、遅くなってすみません。すぐに準備します」
どう反応していいかわからず、何も聞いていないフリをしようとしましたが、嬉しさと恥ずかしさが混ざり、声が震えてしまいました。
「今ね、ちょうどかずねちゃんの話をしてたの。かずねちゃんは何にでも一生懸命でいい子よねって」
「直接言うのはちょっと照れ臭いですよ、菫先輩」
若菜ちゃんは頬を掻きながら言って、私と目が合うと、ばつが悪そうに笑いました。
「えっ、あっ、その……ありがとうございます」
改めて褒められると、身体の内側がもぞもぞする感覚がして、どこを見ればいいのか分からなくなってしまいました。
「ふふっ、かずねちゃんは素直で可愛いわね」
「わかりやすい、とも言うですが」
菫先輩と心春ちゃんに指摘され、ますます耳が熱くなっていく気がします。
「まだまだかずねちゃんのいいところあるわよ——」
「……菫、そのくらいにしておきなさい。和音さんが……」
なんだかのぼせてしまい、床に座り込んでしまいました。
「和音、大丈夫か?」
「うん……多分……」
声をかけてくれた若菜ちゃんに、どうにか返事をしました。普段、こんな風に言われることがないので、変に緊張してしまったんだと思います。
今度は私がみんなのいいところを言えるように、いいところをたくさん見つけていきたいです……!