ストーカーやめてリア充になります
『ストーカー』。
それは、特定の人物につきまとうこと、またはそれをする人を指す単語。
ストーキング対象の姿を見かけたら、まず目で追うところからがストーカー入門。
次に話し声に耳をそばだてたり、プライベートの動向や交友・家族関係を探ったり――。
常習化してくると、こっそり後をつけたり、盗撮したり、脱ぎたての体操着を嗅いだりなどという異常行動にも発展していく。
それがストーカー。
そして残念なことに、俺はストーカーだった。
この不名誉な称号を俺が手にするまでの過程は省くとして、とにかく俺は中学二年の夏明けから中学卒業を迎えた現在――およそ一年半もの間にわたってストーカーをしていたのだ。
だが、そんな生活も今日で終わりだ。
深呼吸して気持ちを再確認するやいなや、俺はクローゼットを開け放つ。
入口付近にところせましと置かれた物を取っ払って、一番奥から厳重に保管された段ボール箱を引っ張り出す。
一見して、何の変哲もない古ぼけた段ボール箱。
手際よく蓋を開けて、ごそごそと取り出したのは一冊のアルバム冊子。
かさばった分厚いアルバム冊子の中には、その分厚さに納得できるだけの大量の写真が収められていた。
几帳面に整頓されて、色褪せることなく保存されている写真たち。
どの写真にも、必ず一人の少女が写っている。
――しかし、不思議なことに一枚としてカメラ目線のものがない。
盗撮したのだから当然だ。
家族にも隠している秘蔵の段ボール箱。
先のアルバムを含め、ハンカチ、髪留め、ノートの切れ端など、全てがストーキング対象から合法違法問わずに入手した代物だった。
自前のものだと、ストーキング対象の日常をつぶさに観察した日記もあるが、これはイタすぎてページを開くだけで俺の精神が崩壊するから割愛。
さて……ここにきてようやくだが、宣言する。
今日をもって、隠し事を抱えた後ろめたい日々は終わりだ。
中学卒業、さらには高校入学を潮合いに――。
俺は、一年半にもわたったストーカー生活を卒業する!!
……言い訳くさいかもしれないが、俺にだってストーカーがいけないことだという自覚くらいはあったんだ。
ただ抑えきれない思春期の情欲が暴走しただけであって、犯罪意識やそれに伴う罪悪感がなかったわけではない。
というわけで、俺は家族に気取られないように夜中にこっそり家を抜け出し、コレクションたちを詰め込んだ袋をゴミ捨て場に置いてきた。
心配せずとも明日はゴミ回収の日だ。
翌朝には何も知らない業者によって回収され、全ては焼却場で灰となるだろう。
俺の黒歴史は、世の中の誰に知られることもなく闇の中へ葬り去られるのだ。
グッバイ、俺のコレクション。
こんにちは、綺麗になった俺。
こうして俺の中学最後の春休みは幕を閉じた。
しかし、このとき俺は見落としていた。
ゴミ回収の業者が来る前に――。
世界が日を跨ぐ前に――。
もっと言えば、俺がすっきり清々しい気分でゴミ捨て場から立ち去った直後に――。
黒歴史の詰まったゴミ袋が持ち去られていたことに……。