第零話
「よくぞここまで来られた。さぁ、案内いたしましょう。」
まだ幼さを残す案内人は丁寧にお辞儀をする。案内人は肌と髪の毛が異常なまでに白い。
見た目からしてこれは「アルビノ」だろう。
しかし、ここは情報屋兼探偵社だ。こんな物騒な場所に子供がいてよいのだろうか。
俺が思う子供はもっと明るい、温かい場所に暮らしていて、毎日が楽しくてたまらないと言わんばかりの満面の笑みを見せてくる。
そんなこと、ここで言えるわけないか。
ここは少しずつだが廃れ始めている。食糧難、無秩序な行為、無差別に行われる破壊、殺人……
こんな歪んだ場所に俺が想像する子供んかいるわけない。
本当にひどい場所だ。
「あのー……」
俺の後ろにいる三人のうち、最近入隊したばかりの新人が口を開く。
「僕、最近ここに来たばかりでここらへんのことよく知らないんですけど、あなた達は何をやっているんですか?」
案内人は振り返らずに答える。
「基本的には探偵の仕事ですよ。完全秘密主義ですが。情報屋としての活動の方が少なめです。今日は情報屋の仕事ですよ。」
「他にもここみたいな場所ってあるんですか?」
「情報屋は他にもありますが、探偵社はここだけです。」
探偵社、ここだけだったのか。知らなかった……。
「探偵としての仕事を請け負っているなら危険じゃないのか?」
俺が口を開いても、やっぱり案内人は振り返らない。
「あはは、先輩たちがほとんどやっちゃいますよ。私は主に情報を持っていくだけです。」
「なら、『雪華』の噂、知ってるか?」
「あの雪みたいな、または蛍みたいな光を使ってその光が発生した空間の中にいる人やその空間自体をを欺いたりするやつですよね?」
やっぱり知ってるか。俺がにらんだとおりだ。
「他には?」
「刀を使う。それと、そいつが繰り出す花の幻影を見ると見た人は狂うとも聞きました。」
「さすが情報屋。」
「そんなこと知ってどうするんです?」
案内人は立ち止まって振り返る。頭にフードのようなものを被っているから表情は見えない。
「協力してもらいたいんだ。君に。」
そう言って俺は案内人の首を片手で掴み、壁に叩き付ける。
「何すんだ……」
「安心しろ。殺しはしない。まぁ、抵抗したらお前の仲間に少しだけ危害を加えるかもだけど。」
「ふざけんな……」
「雪華を捕る為にはお前のような″協力者″が必要だ。」
「何考えてんだか。」
「は?」
突然、首をつかむ感覚が無くなった。
「……雪?」
新人の言った通り、さっきまで俺に首を掴まれていたはずの案内人がいた場所には雪のようなものが漂っている。
案内人は消えた。
「今まで掴んでたのは偽物だよ。」
どこかから声がする。
「いつからだ?」
「だいたい、立ち止まったあたりから。」
「……」
「次はこっちの番だよ。」
ふと気が付くと、目の前に赤い液体らしきものが飛び散っていた。
足元には今日連れてきた三人のうち一人が腹部を抑えるようにしてうずくまっている。
「隊長……逃げて……」
新人は突然の出来事に呆然と立ち尽くしている。
「新人!逃げろ!!」
新人が動けなくなる前に逃げさせよう。
「でも皆が!」
「そんなこと考えるな!いいから逃げろ!」
「……ッ!すぐに応援を呼びます!」
そう言って新人は駆け出す。応援なんて呼ばなくたっていいのに。
「あーあ。逃げちゃった。」
俺は顔を上げる。目の前にはあの『雪華』がいる。
『雪華』に敵うわけがない。『雪華』は微笑む。
「隊長さん。……冬の始まりだよ。」
初めまして、鍵弥潤lと申します。
普段はイラストを描いていますが、イラストを描いていくにつれて出来上がった
オリジナルの世界やキャラクターで小説を書いてみました。