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美鈴が病院を退院したのは、それから二週間後であった。体中にあった擦り傷、打撲の痕も目立たなくはなっていたが肩の傷はまだ完治しておらず腕は吊るしたままでの退院だ。それでも利き腕ではなかったので生活にそこまで不自由はなかった。
迎えに来てくれた裕助の車の助手席から冬の装いになった街並み眺めていると時間の経過を改めて感じた。陸と必死になって裕助を捜していた頃が随分と前に感じる。
「途中で買い物に寄りたいんだが、大丈夫か?」
大人しく助手席に座っている美鈴の身体を心配して裕助は尋ねてきた。
今頃裕助の家では、怜と夜理が美鈴の退院祝いの用意をして待っている。その時に必要な物を買うのだろう。
「大丈夫。腕が少し動かせないだけで本人は至って元気。私より裕助の方がその…疲れてるんじゃないの?」
裕助は細い目をおどけたように見開いた。
一年間留守にしていたのだ。やる事は山のようにある。
美鈴には言わないが、あきの事も解決していない筈だ。
「そんなヤワに出来てはいないんだが、疲れているように見えるか?」
「いや…見えないけど」
美鈴の答えを聞くと裕助は小さく笑った。目にはいつもの笑い皺が見えた。
「それなら見ての通り俺も大丈夫だな」
「それならいいんだけど」
言葉とは裏腹なあまり納得のいっていない美鈴の顔に裕助は再び笑った。
「ご心配ありがとう」
裕助の自宅近くにあるディスカウントショップは、平日という事もあり主婦や年配の夫婦の買い物客がほとんどであった。その中で長身で体格の良い裕助は目を惹いた。押しているカートの中身が、ビール、日本酒、焼酎と酒ばかりで、一升瓶が何本も入っていれば更に違う意味でも目を引く。
「一体何人集まるんだ。この会は」
カートを押す裕助の後ろでぼやいた美鈴の言葉に裕助は笑って答えた。
「家の酒も切らしてたんでついでだよ。それに3人前くらいのヤツが…ああ、ちょうど来たみたいだな」
「え?あ…なるほど、3人前ね」
美鈴は裕助の陰から顔を出すと頭を下げて挨拶をしている陸を見つけた。上から下まで見てから改めて陸の顔を見ると陸は可笑しそうに笑っていた。
「言いたい事だいたい分かる。ケガはどうした?治りが早過ぎるんじゃない?って言いたいんだろう」
「言いたい言いたい。驚いた」
陸の言葉に素直に頷く。
「そういえば退院してから会ってなかったもんな。さすがに走ったりはできないけど、まあだいたいは大丈夫」
陸の言葉に裕助は苦笑いした。
「兼松が心配してたぞ。ギブスが取れたとたん家にいないってな」
「あいつ、裕助さんにそんな事言ったんだ。でも家には帰っているし病院のリハビリにだって行ってるよ」
頭を掻きながらぼやいたが、ふと陸は改めて裕助を見た。
「そういえば俺、裕助さんにきちんとお礼言ってなくて…すみませんでした。
色々とありがとうございます」
陸の突然の言葉にさすがに裕助も苦笑いした。
「いいよ。気にしなくて。特に何をしたって訳じゃないしな」
陸は裕助の言葉に黙って頭を下げた。
二人の口から内容が分かるような言葉は出てこなかったが、陸とスレ違っていた兄海人との事だとは分かった。美鈴と陸が入院している時に裕助は海人と会って陸が家に戻れるように話してくれたのだ。
裕助は陸の背を押すと先程と同じ調子で歩き出す。
「それより買い物をして一緒に行こう。陸も大丈夫なんだろう?」
「ん…まあ、何か買ってからと思ってここに寄ったんだけど。でも俺が行って本当にいいの?美鈴の仕事仲間が来るんだろう」
珍しく気にしている陸に美鈴は笑顔を向けた。
「大丈夫だよ。気を遣うような人はいないからおいでよ」
二人の顔を交互に見てから陸は頷いた。
それから三人は大量の酒を袋に詰めて店を出た。
アスファルトの上を落ち葉が乾いた音を立てて転がり三人の間を駆け抜けていく。
「さむっ!」
美鈴と陸の肩が同時に上がる。
お互い顔を見合わせて笑ってしまった。
「行くぞっ」
荷物を詰め込みながら裕助も笑う。
変わっていくもの、変わらないもの。
掴みたいもの、掴めないもの。
先は見えないが止まってはいない。
三人を乗せた車はゆっくりと動き出していた。




