最終話 後編『君が残してくれた宝モノ』4
玉戸駅を降りてから、黙って僕の前を歩く純玲の後ろを行っていった結果、到着ーーーーどちらかというと、連れられてきたのは、玉戸駅の前に立っていた建物だった。
そこはーーーー周りを田んぼに囲まれた小さな教会。
なんで、ここに?
僕は、自身の中で誰かにではなく、僕自身に対して問いかけた。
そのトイはふたつ。
1つ目。なぜ、純玲がここにきたのか?
2つ目。なぜ、彼女と一緒にいるのか?
それを答えを知らない僕自身へ問いかけていた。
本来なら、教会の扉を開けようとしてる彼女本人に問いかけるべきべきだ。
*
建物の中は本当にテレビドラマとかで見るのと同じような教会だった。
教会としての建物なんだから、当たり前だけど。
そこに、僕たち以外には誰もいない。
神父のおじさんも、シスターって呼ばれるよ人もーーーー他にもいない。
外からの音が聞こえない
この前には線路があって、電車が走って、駅があって、電車が止まって、電車を利用する人が集まっていてーーーーそこからの音が聞こえない。
とはいっても、前を走る電車ーーーー水戸線は1時間に一本あるか否かだから、聞こえない時間があっても可笑しくないか。
可笑しいとするなら、近くの道路を走る車の音が聞こえない。こと。
あとーーーー
テレビドラマとかでは教会の中では、賛美歌が流れてるのをよく見かけるが、今はそれすらも聞こえない。
その音が流れてるのか、実は流れてないのかーーーーそれすらもわからない。
そこに似合う静かな場所だった。
静かなすぎて寂しく、そして淋しさを感じさせる。そんな、空気。
「ねぇー」と、彼女の声が響く。
彼女は、赤いカーペットが敷かれた通路の先にある木製として材質をそのまま!いした小さな教壇の向こうにいた。
そして、そこから僕のことを見下ろすように見ている。
「昨日ね、私ね、不思議な夢を見たんだ」
不思議な夢。
僕もそれを見ていた気がする。
ただ、それは夢なので、内容については曖昧だけど、僕はなんとなくそう思う。
だから、僕はーーーー
「僕も、見ていたよ。不思議な夢」
と、彼女と同じことを伝える。
「そこには、僕「君」がいた」
全く同じ夢を見ていたのだろか。
その夢には、僕がいた。
僕が見ていた夢にも。彼女が見ていた夢にも。
だけどーーーー
「そこには、私「君」がいなかった」
彼女ーーーー純礼はいなかった。
うろ覚えだけど、最初のほうはいたかも知れない。だけど、僕がはっきりと覚えてる範囲内には、彼女はいなかった。
「私はね、いなかったの。どこにも、いなかっ
た。ただね、私はいなかったけど、君のことをずーと見ている。ような夢を見てた」
僕たちが見ていた夢は同じだったら、彼女がそう言うなら間違いない。
「でもねーーーー」
一時に沈黙。
今は夏だ。昨夜は、この地域の夏祭りに一緒に行った。
だから、夏。のはずなのにーーーー
あの寂しさと淋しさを感じさせる空気が冷たい。
夏特有の生温さではなく、冬特有の鋭い痛みを感じさせる冷たさ。
「夢の中の私は、それだけでも幸せを感じてたの。好きな人を、ずっと見つめていられる時間があって、姿を見てもらうことができなくっても同じ場所にいられて……本当に幸せそうだった」
彼女は後ろを振り向き、上を見上げた。
僕もあとを追うように上を見上げるとーーーー
そこにはあったのは、教会特有の外部からの透過光で輝きをみせる大きなスタンドガラス。
「でもね、それじゃダメなような気がしたんだ」
「ーーーーだめ??」
「うん。ダメ」
何がだめなのか、僕にはわからなかった。
どんな形であれ、恋人同士なら一緒にいられるなら、幸せではないだろうか?
テレビドラマとかでそういうのをよく見かけるけど、違うのかーーーー
「なにがダメなんだ?」と、僕は聞いた。
「どんな形でも一緒にいられるのはとっても幸せなことなんだけどね、私は違うかなー」と、彼女は答え、僕の方ーーーー僕の顔を見た。
「私はね。千城君」
彼女が僕の名前を呼ぶ。
彼女は、めったに見ることがない真剣な表情をしていた。きっと、彼女は自分の中でなにかとても大切で、重要なことに対して決断をしたのだろう。
僕はーーーー音を立てずにツバを飲んだ。
「君とーーーーーーーーーー
今の今まで聞こえることがなかった電車の音が響いた。
だけど、僕の耳は、それにかき消さそうになる彼女の声を拾っていた……