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最終話 後編『君が残してくれた宝モノ』1

目を覚ますと、私は暗闇だけの世界に飲み込まれていた。

自分の回りを見回しても、見れるのは何も見えない黒色の世界。

光もなければ、明かりもないーーーー明暗もければ、濃薄もなくーーーー

ただ、真っ黒としか表現しかできない世界に私は飲み込まれていた。

あるいは、その中にいる。とも、言える。


私がここにいるのかーーーーはたまた飲み込まれているのか、その理由ははっきりとわかっている。

私はもう死んでいる。もう、私としての命が終わっている。

そして、目の前に広がる真っ黒の世界。

この二つが揃っていれば、その理由はそれしかないと断言できる。


そう、ここはーーーー


「ーーーー私、地獄に落ちてるんだね・・・・・・」


私に、天国に行ける資格なし。行ける理由もない。

私が行けるところは、地獄だけ。

だって、私はお父さんよりも早く死んじゃってるから。

だって、私のこれまでの人生は嘘で固められていたものだったから。

だって、私は自分に嘘を事実の自分だと言い聞かせてーーーー

そんな私が、天国に行けるはずない。

地獄直行だよ。

地獄にいって、いろいろと反省をしてーーーー


『未練はなのですか?』


誰かが、暗闇の中から問いかけてきた。

その姿を探そうとしても、やはり見えるのは暗闇だけ。

その人がどこにいるのかわからない。姿を見ることができない。

でも、その人が誰なのか、私ははっきりとわかった。

そう、あの子だーーーー

この声ーーーーあの子の声を聞くと、なぜか知らないけど私の中に安心感と、温かい感情のようなものが満たされる。


『悔やんでないんですか?』


未練。

悔やみ。

そんなのーーーーー


「あるよ・・・・・・」


もう、これ以上、嘘をつく必要がない。

もう、これ以上、嘘をつきたくない。


「あるに決まってるよっ!!!!」


私は、暗闇に向かって叫んだ。

でも、それはすぐに暗闇に飲み込まれて、書き消された。


「まだ、生きたかった!!まだ、学校に行きたかった!!まだ、桜を見たかった!!まだ、夏祭りを楽しみたかった!!まだーーーーいろんなやってないこと、楽しみたいことをやりたかった!!」


私の中に沸いてきた、本当の私の思いは止まらない。

どんどん、嘘の私の思いを飲んでいきーーーー消していく。

どんどん、それが沸いてきてーーーー私の中からどんどん出ていくーーーー


「戻りたいっ!!!」


暗闇に向かってーーーーその中にいるあの子に向かって、私の本当の思いを叫ぶ。


「あのころの私に戻りたいっ!!!!」


それは、絶対にありえないことだってわかっている。

でもーーーー私はそれを望んだ。

あの頃ーーーーまだ、自分も感情も現実も起きていることもーーーなにもかも知らなかったあの頃を。

まだ、嘘で構っている私じゃなかった私に。


彼と初めてキスをして、このまま大人になっても思いは変わらない。と思っていた。

彼と初めて体を重ねて、これからも日々もきっと、大丈夫。と、思っていた。

いろんなことが遡ってきて・・・・・・そのときの私の思いが思い出されてきて・・・・・・


「もどりたいよっ!!!!!!」


そこにあったのは、どうすることもできない嘘の固まり。

それを嘘としてでなく、本当の私の思いだと騙していた私。


そして、終わらしたのは私の幼い頃から抱いていた偽りの恋じゃない。

幼い頃から抱いていた本当の恋を偽りだと思い込ませて、自分で偽りとさせた恋。


なにも、大丈夫じゃなかった。

あのとき、大丈夫だからっと初めてのラブレターを渡さずに、ビリビリに破った。

結果、私は私を騙して、彼から遠ざかり、逃げてーーーー現実からも逃げてーーーー


そして、それを知ったときは大分手遅れになっていてーーーー


『戻れるよ』と、暗闇からそれが聞こえた。

『あなたを、あの頃に。あなたが、とても大切な瞬間で目を覚ますの』


あの頃で、とても大切な瞬間・・・・・・?


『そう。あなたたちにとってとっても大切な瞬間。そこであなたたちは本当の答えを出すの』


僅かだけど暗闇が薄くなってきているように感じた。

本当に僅かすぎて、目の錯覚のように思える。

だけど、それは目の錯覚ではなかった。

だってーーーーその中にいたあの子の姿が見えたから。

はっきりと。くっきりと。


『それが、私の願い。それが私が残してきた宝モノ。』

「残してきた宝モノ?」

『そうだよ。私が一番叶えたい願い』


暗闇の世界が消えて、淡い光が世界を包んだ。

そしてーーーー


「君は誰なの!?」


私の体が浮いてきた。

違う。

空に向かってどんどん昇っていく。


『私は、奏絵。あなたーーーーママとパパーーーー藤島千城さんと間に生まれる子だよ』

「わたし・・・・・・たちのこども・・・・・・」


あの夏が私たちに残してくれた宝物。


『忘れないでね。ママ』


どんどん昇っていく私の体。




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