最終話 中編− 君と残した宝モノ2
今、自分が見ているのが、嘘であってほしい。
今、自分が見ているのが、出来が良く本物に近い偽物であってほしい。
今、自分が見ている彫られている戒名が、実はそう見えるシールみたいなものであってほしい。
だけど、それは本当にそこにあった。
そこにあるのは、本物のそれだった。
手触りは、石の感触。
戒名は、それに彫られており、貼物のように剥がすことことも、とることもできない。
それは、本物でーーーーそれは、実在していた。
なら、いまが夢であってほしい。
まだ、眠っていて、現実に近い夢の世界にいるんだ。と、願いたい。
がーーーー頬を抓ると、感じるのは現実にいることを知らせる痛み。
今、自分がいる場所は、思い求めていた夢の世界。ではない。
思い求めていなかった、現実の世界。
そこに、自分がいることを、それは教えてくれた。知らせてくれた。
「これって……」信じたくない現実に胸を潰され、ポツリと呟く。
「そうだよ」と、答えてくれる。
そして----
「そこに、お母さんは眠ってるの」と、聞きたくない事実を付け足す、奏絵ちゃん。
「もう……お母さんはいないの……」とーーーー
「なんでーーーー君は、俺をここに連れてきたんだ」
その理由は、聞かなくても、容易に予想ができるものだ。
反対に、こうやって、それを聞くことが彼女に対して、失礼極まりないことだ。
だが、それでも、俺は聞いた。
「……知ってほしかった」と、ポツリと呟くように答える。
それは、君の母親のこと。
そして、俺が知らない河澄のことをーーーー
知りたかった。
だが、自分の中にはそう思っていても、その反対ーー知りたくない。と思っている自分がいた。
そう……俺は中途半端になっていた。
あの頃ーーーーあの手紙が届いてから、その真意と意味と理由を知りたくって、あの日に、この場所にやってきた。
だが、今はどうだ?
その時の感情はもうなくーーーーここに来たのは、奏絵ちゃんをただ送りに来ただけ。
ここで、どんな形であれ、君ーーーー河澄に会いたい為じゃない。
俺は、自分でも気が付かないうちに逃げていた。
気がついたときには、そこにあったのーーーー
自分一人だけいる現実。
二人でともにいた現実は、架空なものになっていてーーーー
「ごめん…」
ポツリと漏れたのは謝罪の言葉。
何も知らなかった自分にーーーー
あのときの想い、気持ち捨てた自分にーーーー
そして、もう会えることができない黄みにーーーー
俺と君の何もかもにーーーー
向けられた謝罪の言葉。
それで、何変わるのか?
ーーーー変わるはずがない。
したことも。
してしまったことも。
なくしたことも。
なくなったことも。
起きたことも。
なってしまったことも。
そのなにかもかもが変わるない。
それが、現実。
ただーーーー今の自分がそれ以以外の言葉で妥当性が思いつかない。
もし、それを知っていたとしても、思考がたどり着かない。
ただーーーーただ……
「ごめん……」と、一言だけの謝罪。
それしか思いつかず、それしか思い当たらない。
それしかーーーー
「んーん」と、彼女は否定した。
何に否定したのかわからなかった。
そもそも、本当にそういったのか曖昧だった。
空耳と思った。
俺の妄想とも思った。
だがーーーー
「違うよ」と、確実に彼女は言った。
俺に向かって、そう言った。
「だってーーーーーー」
俺には理解できない
何が間違っているのか理解できない。
謝ることが間違ってるのか?
謝る相手が間違ってるのか?
彼女が言いさ間違いがわからない。
「お母さんは幸せだったんだよ。あなたに逢えたことが。あなたを知ったことが。あなたと一緒にられたことがーーーーあなたがいたことで幸せだったんだよ」
そして、教えてくれた。
そうか……これもある意味過ちになるのか……
ただ、その過ちには優しが感じられた。
自分が失った感情が、温もりがそこにあった。
「あたなを好きになれて、愛せたことが幸せだったんだよ」
そして、答えがあった。光があった。
眩しいくらいの光がーーーー
俺は……声を噛みしめ、涙を流していた……。