最終話 中編− 君と残した宝モノ1
なんで、こんなことになってるのだろうか?
その理由を私は知りたい。
そうなってしまった経緯を知りたい。
または…………
思い出したい。
そして、もし出来ることなら――――
あの頃のあの時に戻りたい。
私は私を見つめていた。
鏡に映った自分を見てるのではなく……
倒れて、ぴくりとも動かない私を見ていた。
その私は、今も降り続ける雪を掛布団に、積もって姿かたちが見えなくなったアスファルトの地面を敷布団にしてるかのようだった。
傍から見たら、静かに眠っているような様。
それが……私だ。
知ってる姿。
知ってる背格好。
だって、あれは私だから。
その身体に被っている雪の隙間から見える知ってる洋服。
あれは、私が好きな服。
ならーーーーあれが、私だとすると、それを見てる私はだれ?
見てるのは……私。仲波河澄。
では、あそこに倒れてるのはーーーー
私。仲波河澄。
なんで、こんな状況になったのか理解できなかった。
自分を自分で見ることはなにかに写った時でない限りあり得ない。
と、私は思っている。
なら、いまの状況は?
当たり前のことだけど、鏡なんてない。
これは夢?と思い、私は自分の頬を抓った。
痛みがーーーーなかった。
感じなかった。
痛みも。
それ以前に、自分の頬を抓る感覚、触れた感覚がなかった。
咄嗟に、私は自分の身体ーーーーあそこに倒れている私ではなく、今の私の右手の手の平を翳した。
う……嘘……
見えたのは、向こう側の景色ーーーー並んでいる自動販売機。
翳した右手の手の平は、完全に透けていて、消えていて、景色の中に溶け込んでいた。
なんで……と、こうなった経緯を思い出そうとしても、頭の中は真っ白になっていて、何も思いつかない。
脳が追いつかなかない。って言葉を聞いた時があるけど、まさにそんな状態だった。
ほかに、何か、確認できるものがないのか。と、私は自分の周りを見回す。
すると、すぐ傍に車が停まっていた。
車の助手席側のガラスに----
私は映っていなかった。
ガラスが黒いから見間違え?と思い、近づいて、もう一度確認する。
やはり、私の姿はそこになった。
自分の身に何が起きたのか……思い出せない。
だから、わからない。
思い出したくない。
怖いから。
でも、知りたい。わかりたい。
と、私の中の感情はごちゃごちゃになって……
そして、それをちらっと見ただけで、全てがわかった。
靄がかかって思い出せなかったところが、明確になった。
ちらっと見たもの。
それは、車の前ーーーーボンネット言われる部分が捲れ上がるように変形していた。
さらに、そのちょっと前には、赤い郵便ポストがすこし変形した形で転がっていた。
私はーーーー
雪道で滑ってきたこの車に轢かれて……死んだんだ。
だから、私の本当の身体はあそこで倒れてるんだ。
寝てるわけじゃない。
だって……死んじゃってるんだから……
「-------!!」
誰から、何かを言ってる声が聞こえる。なんて言ってるかわからないけどーーーー
その声は、私の身体に駆け寄ってきた男性のもので。
その人は、携帯電話でどこかに電話しながら、私のことを見ていた。
おそらく、警察に電話してるのかな……
その声を筆頭に、ざわざわと人が集まってきた。
ほとんどの人が見知ってる人。
そしてーーーー
「河澄ぃ!!!!!!」と、私の名前を叫びながら駆け寄ってきた男性。
私のお父さんだ。
お父さんは、もう動くことがない私の身体を揺する。
お父さん……ごめんね……
初めて見たような気がする姿。
お父さんの泣き顔。鳴き声ーーーーそれに、私のことをあんなに叫ぶお父さんをーーーー
ごめんね。
私の声は誰にも聞こえない。
ごめんね。
涙がでない。でも、目の奥が熱い。
ごめんね。
私が謝る必要があるのかわからない。でも、謝りたい。
だって、お父さんを一人にしちゃうからーーーー
ごめんねーーーー
遠くから、パトカーのサイレント、救急車のサイレンが聞こえたーーーー
ーーー気がする