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メタリア  作者: 付谷洞爺
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解決編

終章 解決編

 真っ暗な部屋の中で、ドスッという鈍い音がした。

 床に敷くカーペットを赤黒く汚し、刃物の手に持つ柄より先の部分を血に染めている。

 はずだった。

 暗闇の中で、人影は手の内に伝わって来る感触に違和感を覚えた。

 何かが違う。

 そう感じた時には、その正体に気づき悔しげに歯をらした。

 逃げようと踵を返す。

 しかし、その行動はこの時ばかりは意味を成さなかった。

 なぜなら、

「――――ッ!」

 パッと部屋が明るさに包まれる。暗闇に慣れてしまっていた目は眩み、眩しさに腕で顔を覆った。

 その一瞬の遅れが、彼女の命取りとなる。

 明るさにようやく目が慣れ、本来の機能を取り戻した。腕を下げ、周囲を見回す。

 そこには、拳銃を持った三人の人間がいた。

 ステファニー、フランクリン、ハワード。

 奥に控えるように、メタリアもいる。

「……残念だったわね、私を殺せなくて」

 嘲笑うように彼女が言った。思わず歯ぎしりしてしまう。

 どうにかしてこの場を突破出来ないか。瞬時にそんな考えが浮かんだ。

 が、同時に無理だろうとも思っていた。

 油断していた相手ならまだ策を巡らせる価値があったかもしれない。しかし、これだけ三人もの人間が拳銃をこちらに向けた状態ではどう足掻いても勝ち目は無かった。

「さて、なぜこんなことをしたのか、全て話して貰うわよ。……シリア」

 いや、とメタリアは首を振った。

「ゼシリア・セルリコット」

「ゼシリア! 彼女が!」

 声を上げたのはハワードだった。だが、他の二人も驚きに息を飲んでいる。

 メタリアは意外とばかりにハワードを見やった。

「気づいていなかったの?」

「あ、ああ……」

 ハワードが呆然とした様子で頷く。

 メタリアは困った生徒を見るジュニアスクールの先生のように、はぁと溜息を吐いた。

「割と簡単だったと思うわよ? 現にそっちの二人は気づいていたみたいだし」

「二人とも!」

 さらなる驚愕。

 ステファニーもフランクリンも、頭痛を抑えるようにこめかみに手をあてた。

 メタリアはそんな彼らを一瞥して、

「ま、そんな感じであんたの悪巧みは全部分かってるから」

 わざわざ私が出しゃばるまでも無かったわね、というのがメタリアの本音だったが、そちらは口にしないでおくことにした。

 また面倒なことになっても敵わない。

 シリア――――ゼシリアは四人を睨み据える。

 その瞳は追い詰められた小動物というよりは、捕食する側、猛獣のそれだった。

「そんな目をしてもムダよ。あんたはここで捕まるの。――お仲間も一緒にね」

「仲間!」

 今度はフランクリンが声を上げる番だった。

 本来ならハワードがこの役目をするはずだったのだが、あまりの驚きに自ら声を上げてしまったと言うのが実情だ。

「何? あんた気づいてなかったの?」

 ハワードに向けられたのと同じようなことを言われるフランクリン。彼は悔しげに歯噛みすると、苛立たしげにハワードに言った。

「おい新人! さっさと逮捕しろ!」

「は、はい……」

 恐れ戦いた訳でもないが、ハワードが手錠を取り出し、彼女を拘束する。

「……事情は後でじっくりと聞かせてもらう」

 フランクリンもステファニーも拳銃を下し、メタリアを振り返った。

 涼しげな顔で、彼女は口笛などを吹いている。

 その後、彼女の推理をもとに使用人二人を逮捕した。

 動機や殺害方法については、本部で取り調べにより明らかにしていく。

 

         ◆ ◆ ◆

 

 本部『狂悪犯罪対策室』にて。

「室長、聞きました?」

「何をだね?」

 フランクリンの要領を得ない問いかけに、トーマスは酷く穏やかに訊ね返した。

「あいつらの言っていた動機です」

「ああ、礼のジェイコム氏の事件の」

「何でも、動機はクリスタ嬢らしいんですよ」

「ほう? それはまたどうして?」

 フランクリンの物言いが必要以上に大袈裟だったためか、トーマスは俄然興味を示した。

「彼女へのジェイコム氏の態度が気に喰わなかった、ということらしいです」

「それは……何とも言えんな」

 室長ならこんな反応をしてくれるだろうとフランクリンは思っていた。

 用意していた言葉が使える。

「綺麗な話も血に濡れちゃ、全く読めねぇってもんですよ」

 

           ◆ ◆ ◆

 

 周囲を暗闇で覆われた空間。

 そこに住まう一人の少女。

 彼女は薄汚れた金髪を床につけ、物想いに耽るように目を閉じていた。

 そこへ、声をかけて来る者がいる。

「……やぁ」

 軽々しく片手を上げ、そう挨拶をして来たのは精悍な顔立ちの青年、ハワードだった。

「………………」

 返事は無い。

 そのことにハワードは苛立った様子も無く、にこにことした笑顔を浮かべて近づいて来た。

 隣に立ち、腰を下して来た。

 馴れ馴れしい行為に、彼女は困惑した。

「どうしてこんなところにいるんだ?」

 ハワードの問いは、全く的外れなものだった。

 彼女をここに閉じ込めているのは、彼らの側の方だろうに。

 ハワードも、それは知らないはずは無いと彼女は考える。

 だから無視した。答えを返す必要は無いと判断して。

「言いたく無い、か」

 何を勘違いしたのか、黙り込んだ彼女の脂ぎった頭にハワードの大きな手の平が乗せられる。

 小さいな、と少女の頭部を包み込む己が手の中にある感触にハワードは嘆息した。

 

                                     FIN


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