不良と幽霊の話(6)
「幽霊の復讐ねえ。笑えねえ笑えねえ、俺死ぬじゃん、クソが」
もしあのメールが本当なら俺はすぐさま殺されるだろう、遊びに誘うなんてタイプじゃねえ。というかあいつは昔からそう言う奴だ。
ヘラヘラ笑って嘘ばっか。
「ありゃタチわりいよな、っと」
そう言ってベッドから起き上がる。
「あーやべえ手が震えていやがるぜ。最悪だななんで殺したんだよ俺クソが!」
さて思考するか、幽霊なんてもん相手に思考も無駄だがまあやらねえよりマシだな。
まずあいつは見える。十中八九焼却炉の前にいた人影はあいつだと見て間違いない。
次にあいつは機械でも操れるのかメールを勝手に送ったり消したりできる。
「ってこれ手がかりないうえにあいつ無敵じゃねえか」
どうしようもない、諦めてどっかにげ……。
「待てよ?」
最近の会話、人間の性格、そして癖、行動。なにより泡介のやったこと……。
そこから導き出されるのは、最悪の可能性。
「そうかそうか、あいつはもっと古典的な幽霊だったのか、得心いったな」
なぜ気づかなかった、幽霊は。
人にとり憑くものなのだ。
「さてメールでも返すか」
「いやいやあまりに遅いから家に来てしまったよ」
硬直。
「ケハッ、この体はいいねえ、君のお母さんに君に会いに来たと言ったら顔パスだよ」
そこにいるのは、
久志原 将太。
「いや、耕紫 泡介」
「そうそう正解大正解。よくわかったね、と言いたいところだけどまあ流石にわかるか。うん一般的な推理力があれば普通わかるよねー」
この人を馬鹿にした態度、間違うはずがねえ。
「一応お決まりだ。君はこのトリックをどう解いたのかな?」
「簡単だ、まずお前は見える、その時点でお前は影のような幽霊か、ゾンビか、とり憑きあたりに絞られるんだ」
泡介はさして驚くでもなくこちらを見ている。
「次にメール、この時点で気づくべきだったんだ。お前は一番俺に近い友人として翔太を選びとり憑いた、そしてメールを送った」
キメ顔で言ってやったが泡介はそこにあるタバコを物珍しそうに眺める方に気を取られている、と不意に口を開いた。
「タバコは体に毒だよーやめることを……っと、悪い悪い。じゃあ君のメールが消えていたことも当然分かっているのだろう?」
「ああ」
相手されたことになんとなく喜びを感じながら言う。
「あれが一番簡単だ。あれは心霊現象なんて関係ねえ。あれは将太だから出来ることだ」
体育。
その時に携帯なんて持ってはいかないからな。
「体育をサボるのはコイツのいつもどおりのことだ。大して気にとめなかったぜ」
「ご明察、だよ。もう終わりだね、じゃあ話をしようか」
暗い顔で立ち上がった。
「君には僕を殺させたんだよ、分かっているだろうけどね。理由は分かっているだろう散々一緒に話したからね」
「ああ、お前は死にたかったんじゃない」
殺されたかったのだ。
化け物になるために。
「ま、非現実的というかなんというかこの部分は解釈なんてないよ。ただ生きる意味をなくしたから自殺した、よりは同級生に殺された、の方が幽霊になれそうだったからね」
いや……でも。
「死んでたらどうすんだ?普通ならねえだろ幽霊なんか」
確信があったのか?幽霊になれるという……?
「いや、だから死ぬことも考えてたんだって、可能性という言葉は同時に絶対でないという意味でもあるからね。死んでる可能性もあった」
「じゃあ……」
「いや、いいじゃんそれで。僕は化け物になるか死ぬかのどちらかをしたかったのさ。結果化け物になったからまあラッキーってとこだよ」
死ぬのもアリだったんだ。
「ケハッ、そう思うと自殺志願者は強いねえ知ってるかい?織田信長が唯一恐れた……」
「そんな雑談は置こうぜ泡介。お前は何しにきたんだ、いや、何するつもりなんだ」
復讐か、邂逅か。
暗い顔の抱介からは逆に何も読み取れない。
「もちろん君を殺しに来たのさ」
「そうか」
当たり前のように返した。
それが俺にできる最後の手段だったろう。
「君がひとつ間違っているのは、これは仕方ないことなんだけど、僕はとり憑くタイプとは少し違う」
じっとこちらを見据えた。
「僕は転生タイプなんだよ。人の体を転々とする。とり憑くのと違うのはまあ幽霊や化け物の定義なんて曖昧で混ざってるから関係ないかもしれないけどこの体は老いるし、この状態だと僕は力なんて発揮できない。そしてこの体が死んだ時僕はまた新しい体に乗り移るのさ」
「はあ、じゃあ将太は死んでんのか?」
「いやいや生きてるよ。僕がここから抜ければすぐにでも意識はもどるだろう。心配いらない、それにもう出るつもりだ。もともと君と仲がいい、使いやすい、という理由で乗り移ったんだし」
そこで泡介はおかしそうに笑った。
「本当に君は変わってる。君は人を心配するんだね。今君が死ぬのに。全く今まで僕は色々見てきたよ。君と同じ正しい不良も山ほどいた。でも君みたいなのはいなかったね」
そりゃいいもんだ。とはいえ見てきたのなんて十数年、これから先こいつは永遠に見続けるのだろう。
「じゃあ終わらせようか、っと。うん、こちらの方がいいね」
抜け出た抱介の体は普通のそれとさして変わらない。
足もある。
「君を殺す、というか君にとり憑くのはね、波長が合うからだ。僕を殺した君ならもしかしたら乗り移った時の感覚が違うかもしれない。そういうね」
なるほどな、自分から殺されといて復讐なんておかしな話だと思ったがそういうことか。
使われてるなあ俺
「逃げても無駄だろうな、格好つけたくなるのは悪い癖だ」
と、同時に焼けるような痛みが体を襲った。
「痛ってえええええええええええ!」
騒ぐ口も、痛む皮膚も、感じる脳も。全て消える。
悪くない。
こいつの言うとおりだ。世の中はつまらない。正しく生きている奴らが理解できなかった。あんなのは嘘なのに、正しく生きれば幸せになれるなんか嘘で、みんな騙されていて、俺はだから生きたいように生きたんだ、それが世間で言う悪いことだとしても気にもとめなかった。
でも、そででも、つまらなかったのだ。
だからもう、いい。
「と、つまらないな」
頭のどこかで抱介が言った。
世界がもどる。
「最後の最後で裏切ろうぜ。そもそもそんな波長とか僕信じてないんだよね。興味失せるし、推理も上々トリックもいい感じ。それでデッドエンドも興が冷める」
「何言って……」
「おあいこにしようか。僕の死ぬ痛みの一部を味あわせたのさ。これをするのはこちらの方がいいって、誰が転生だといったよ。君は最後の最後で馬鹿なトリックに引っかかるんだから。知らないかい?叙述トリック」
呆気からんと言ってのけた。
呆気にとられる。
いやお前殺すって言ったじゃん……
「ま、死ぬとき予想以上に痛くてね、なんか腹立ったから嫌がらせだよ。ところで君を殺さないないし、まして怯させる必要もなかったわけだし、なら動機が変わってくる。まあ君ならその動機ぐらいもうわかったんじゃないのかな?」
ああ、簡単だ。
わからなかったら人間じゃねえよ。
それはもう……
「化け物ですらない」
「そのとおりさ、じゃあ用事も済んだし僕は行くとするよ」
「ああ、もう会うこともないだろうな、とか言ったら感動的だな」
「いやまた会えるさ、とかねいや実際僕は転生するからいつか君のところに来るかもしれないよ?」
「気づかねえよ」
「気づこうよ」
死ぬまで乗り移り続ける気はないってか。いい心がけというか、なんというか。
「優しすぎる不良と優しすぎる化け物か」
悪くない、そう言って。
泡介は消えたのだった




