第二話:出会いと姉妹とブラコン
あの出会いを忘れません。
あなたと出会ったのは戦慄のようなもの
けして、忘れられないようなもの
「くっ……」
私は全身を襲う痛みと戦いながら自分に乗っている瓦礫を退かしていく。
「くそ……っ!」
瓦礫を退かして立ち上がると、あの二人の姿がなくなっている事がわかり、悔しさが込み上げてくる。
あの美咲の事だ。ノーリアス様を無理矢理にでも襲って自分のものにしたいのだろう。
「私が……いながら……!」
わかってはいる。
美咲は魔王を倒した勇者だ。美咲が望めば味方の全ての種族は彼女に如何なる恩赦を与えてあげなくてはならない。
更に言えば、魔王を倒せるだけ彼女は強い人間なのだ。美咲に逆らえるだけの強さを持っている存在などいない。
だがな、何故なんだ?
何故よりにもよってあの方なんだ?
「何故だ……? 何故、ノーリアス様なのだ……?」
確かに美咲が欲しいと言えば王だろうが、身を捧げなければならない。それだけの功績を美咲は立ててしまった。
だが、あの方だけは渡す訳にはいかない。
何故ならあの方は……。
「ヴィンセント、この子達がヒィスタリカ家の娘か?」
「あぁ。長女はエレンティアと次女はヒィリアノイゼと名付けた。」
あれは、私がまだ十二だった頃の事だった。
当時は魔王が人間界に攻めておらず、勇者美咲もいなかった六年前の事だった。
勇者の存在は教会や絵本などの架空の存在として語られていた。まさか、数年後には魔界との戦争が始まるとは思わなかった。
話は代わるが、貴族でも騎士派の名門である我がヒィスタリカ家に当時の陛下とご子息の王子様二名と王女様が使用人の少年を連れて参られた。
「お初にお目にかかります。エレンティア・ヒィスタリカです。どうぞ、エレンとお呼びください。」
「妹のヒリアノイゼ・ヒィスタリカです。ヒリアとお呼びください。」
私と妹はそれぞれに陛下に挨拶をする。
部屋には私達姉妹とメイド長のシーファ、父上に王族の方々だけで、母上はお持て成しの準備をしていたためいない。
「おぉ、幼いながら立派な礼節だ。次は私達の番だな。私は第二十代ミリアリア王国国王ヒブカリア・ミリアリアだ。そして紹介しよう。我が子等だ。」
そう言うと、王子様と王女様が前に出る。
王子様の一人は白い騎士甲冑を着込んでおり、もうお一人は白いローブに身を包んでおり、王女様は青いドレスを着ていた。
「私の名はミリアリア王国第一王子リスカラル・ミリアリアです。騎士団の隊長を務めています。宜しくお願いします。お嬢様方。」
「私は第二王子のソロウル・ミリアリアです。私は魔導士団の隊長を務めています。今後とも宜しくお願いしますね。麗しのお嬢様方。」
「私はミリアリア王国第一王女シルファリア・ミリアリアです。お二人は私とは年が近いので、どうぞシルファとお呼びください。」
その名を聞いて、私は心から喜んでいた。
リスカラル様は二十三でありながら、ミリアリア王国の騎士団の隊長を務めておられる騎士王子様だ。
その武勇伝は素晴らしく、彼が十五の時に起きた隣国との戦争である『リストロフ戦争』を二年で勝利に収めた英雄だ。騎士を目指している私には憧れの存在だ。
ソロウル様はミリアリア王国の魔導士団の隊長であり、魔導学問に措いて右に出るものがおらず、魔導専門の学府に十二で首席合格卒業をしている。
また、新たな魔法を作り上げ、エルドランドの魔法文化に多大なる貢献をされた賢者だ。
シルファリア様はエルドランド最大の宗教『神聖教』の司祭様だ。
その魔力は人類の中でも最大であり、死者以外なら如何なる傷であろうと瞬間に癒やす力があるからと聖女と呼ばれている。確か年齢は私と同じだったはずである。
三人共、英雄、賢者、聖女と呼ばれるミリアリア王国を代表する王族達だ。
本来なら会うことさへ許されない方々が私の誕生日を祝う為に来て下さったのだ。これを喜ばずにはいられない。
何よりも可愛い妹の願いが叶ったのだから嬉しかった。
「お父様。もしかして……」
「あぁ、そうだよ。ヒリア。お前の願いだった王子様と王女様に会うという誕生日のお願いを叶えたよ。」
「ありがとうございます! お父様!」
そう言ってヒリアは父上に抱き付く。
この子は……と私はいつも思う。
ヒリアは兎に角、家族の私達に甘えてしまう。少し前にヒリアの誕生日だったのだが、ヒリアはその時に「王族の方々と食事をしたい」
それは貴族の子女としては直さないといけない性格だが、どうにも私達は甘やかしてしまう。
実際、父上はヒリアを喜んで貰うために王族の方々を招いたのだから凄いと思う。
「しかし、すまないな。ヒブ。忙しいのに……」
「何、いい事さ。俺は王だから多少は無理が通る。何よりも友人の頼みは大抵は聞くさ。」
「助かる……」
父上と陛下は幼い頃からの友人同士である。
昔、父上が幼い頃に陛下のお世話役をする事があり、それ以降から友人同士なったらしい。
父上はミリアリア王国での地位は子爵で、騎士団の戦闘教官である。現在の騎士団の剣術は父上が考案したものが主流である。
偉大な父上の子である私達姉妹は、いつかは父上や王族の方々、国の為になる人間になると夢見ていた。
そんな事を考えていると、使用人の少年が前に出る。
「余は……」
「ちょっとっ! そこのあなた!」
少年が何かを言おうとした時に、メイド長であるシーファが前に出てくる。
シーファ父上が雇ったばかりの方だが元々名の売れた冒険者だった所を父上に雇われた。
その仕事の良さからメイド長までなれ、父上や私達が頭の上がらない相手なのだから凄い方だった。
……因みに入って来てから、当時から十六から年齢が止まったようにいるかのようにいる。
年齢の話をすると怖いから聞かない事が世のため自身のためなので聞かない。
「使用人が主の、それも王族と同じように挨拶をするなんて失礼だと思わないの!? 下がりなさい!」
確かにシーファの言う通りである。
使用人やメイドなどは主から紹介してから挨拶をするものであるが、彼には本当に無知なのだろうか?
使用人としての教育を受けているのか怪しい。
「いや、余は……」
「言い訳をしない! ちょっと来なさい!」
そう言ってシーファは少年の首根っこを掴んで、引きずりながら部屋から出て行った。
嵐のように連れていかれた少年を見ながら私はシーファらしいと思えた。
シーファは仕事に真面目なため、ああいった輩の事が嫌いなのだ。
「すまないな、ヒブ。うちのメイ……」
そこまで言って、父上の顔が凍りついた。
何故なら、シルファリア様の表情から生命力が感じられなく、今まで見たことない無表情で父上を見ていたからだ、
親友である国王様は真っ青になり、何かに怯えるように隠れていた。
リスカラル様とソロウル様は「まずい、な……」と明後日の方向を見ていた。
「ヒィスタリカ卿……」
「っ!?」
絶対零度の声が響いて、シルファリア様が父上の前に立っている事に気が付いた。
父上は王国の剣術教官なのに接近に気付かない程の速さに戦慄を覚える。
「私は余り怒る方ではありません。神聖教の教えにも『隣人を愛し、罪を許せる心』と学びました。そのため私は自身の命のため、大切な人の為に罪を犯してしまった者には罪を許し、罪を償うように言い聞かせています。」
「……」
何故だかシルファリア様が変わって仕舞われた。
先程の聖女故の美しい笑顔から反転して、物語に出てくる魔王の怒り顔のような表情と声で私達を見ていた。
「そんな私でも許せない事があります。周りからは慈悲深いと呼ばれて、聖女なんて呼ばれている私でも許せない事があります。それは私の兄上を侮辱した家畜共です。」
か、家畜!?
シルファリア様が今、人を家畜呼ばわりしましたよ!?
シルファリア様が、慈愛の聖女のシルファリア様がまるで別人のような口調になりましたよ!?
待て。今、兄上って……。
「兄上は聖人のような方です。只でさえ私達の評判の高い所為で母上との中が悪くなっているのに、糞畜生のゴミ貴族に穀潰しと呼ばれて、民からは存在しないとされてしまったのですよ。現在の腐れ大臣や腐れ貴族共の所為で使用人のようにされてしまい悲しい扱いを受けて心に傷を追ってしまいました。」
「あ、あの……。シルファリア様?」
シルファリア様の豹変に父上も恐怖を感じています。
ヒリアに措いては、私に抱き付いて半泣き状態でいます。
私も泣いて今すぐ逃げたいです。
「今回は兄も疲労があると思って、私が心を休める為と説得して来てくださったのにその兄上を使用人? 使用人ですか? 先程のメイド長さ知らなかったかもしれません。しかし、私は許せません。兄上は今回も許しますかもしれません。あの方は聖人で、この世の至宝。自身の悪意には甘んじて受け入れる器の持ち主です。」
「し、シルファ……。もうその辺で……」
「あ?」
「何でも御座いません」
えぇっ!?
国王様!?
何であなたが怯えてるの!?
「メイド長の罪はあなたの罪。そしてメイド長とヒィスタリカ卿には罰を受けて貰います。反省するまで、反省しようが関係なく罰を与えます。」
それは何をしても許さないって意味ですよね!?
「まぁ、何が言いたいのかは簡単に言いますが……」
そう言ってシルファリア様が笑顔で私達を見る。
いつもなら聖女の笑みと思いますが私達には別の笑みに見えて恐怖を覚えました。
「私のお兄ちゃんを侮辱したから許さない……!」
ヒリアは気絶しました。